2019年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験 Part1 (2019年6月8日) 過去問解説

Part1

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2023年1月22日 最終更新日 2024年1月9日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2019年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2019年6月8日)

●設 例●
 Aさん(71歳)は、情報サービス業を営む株式会社X社(非上場会社)の代表取締役社長である。Aさんが1972年に設立したX社は、顧客のビジネスサポートに徹した直接取引にこだわり、ITコンサルティングとソフトウェア開発を強みとして、優良企業に成長した。

 

【X社の事業承継に関して】

 Aさんは、10年前、大手システム会社に勤務していた長男Cさん(40歳)をX社に入社させた。長男Cさんは、5年前から専務取締役として営業部門の責任者を務めており、後継者としてのキャリアを着実に積んでいる。

 Aさんは、メインバンクの本部担当者から「事業承継税制の特例」に関する情報提供を受けたことを機に、先月、認定経営革新等支援機関である顧問税理士の指導のもと、特例承継計画を提出したところである。

 X社の株主には、3年前に退任した元取締役のEさん(71歳)がいる。Eさんから「所有するX社株式を買い取ってほしい」との申出があった。

 

【Aさんおよび妻Bさんの資産承継に関して】

 妻Bさん(68歳)は、父親の不動産賃貸業を引き継ぎ、相応の財産を所有している。妻Bさんは、不動産賃貸業を長女Dさん(38歳)に承継させたいと考えている。専業主婦の長女Dさんは、実家近くの持家に公務員の夫と2人の子と暮らしており、X社の経営に関与する予定はない。なお、法定相続分どおりに相続した場合の相続税の総額は、Aさんが先に亡くなった場合で約3億6,000万円、妻Bさんが先に亡くなった場合で約1億3,000万円(役員退職金支給前、配偶者の税額軽減および小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

 

【X社の概要】
資本金:5,000万円 会社規模:大会社 従業員数:150人
売上高:25億円 経常利益:1億円 純資産:13億円
株式の相続税評価額:類似業種比準価額1万2,000円/株、純資産価額1万3,000円/株
株主構成(発行済株式総数10万株):Aさん60%、妻Bさん10%、Eさん10%、取引先の大手電機メーカー10%、従業員持株会10%
※Aさん・Eさんは、それぞれが特殊の関係にある者(同族関係者)ではない。
※X社株式は譲渡制限株式である。

 

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

  現預金等 1億8,000万円 (役員退職金は考慮していない)
  自宅      
   ①土地(250㎡) 8,000万円  
   ②建物 2,000万円  
  X社株式 7億2,000万円 (X社株式の60%部分)
  合計 10億円  

 

【妻Bさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

  現預金等 8,000万円  
  賃貸マンション    
   ①土地(400㎡) 1億2,000万円  
   ②建物 8,000万円  
  賃貸アパート      
   ①土地(500㎡)   7,500万円  
   ②建物   2,500万円  
  X社株式 1億2,000万円 (X社株式の10%部分)
  合計 5億円  

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

問題点は、

  • 納税資金不足が予想されるので、納税資金の準備。
  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 円滑な事業承継、遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

Aさんは、X社の事業承継に関して、事業承継税制特例を活用しようと考えていますが、
事業承継税制特例の、仕組みについて教えてください。

事業承継税制特例とは、先代経営者から事業の承継を受けた後継者が次の後継者に事業承継できた場合には、相続税や贈与税が免除になる制度です。

留意点は、届出書の提出など事務手続きが煩雑になること。
事業継続が困難な場合は、利子税と猶予された税金の支払いが必要になることです。

株式移転前に、配当の引き下げや役員退職金の支給を行い、自社株評価を引き下げる必要があります。

贈与税の納税猶予を受けるための、手続について教えてください。

納税猶予を受けるためには、2024年3月31日までに、特例承継計画を作成し都道府県庁へ提出します。特例措置の場合は、2027年12月31日までに贈与を行い、贈与年の10月15日から翌年1月15日までに申請し、認定書の写しとともに税務署への申告手続きが必要となります。

今回のケースでは、認定経営革新等支援機関である顧問税理士の指導のもと、特例承継計画を提出したということですが、
申告後は、都道府県庁へ年次報告書、税務署へ継続届出書をそれぞれ、年1回、5年間提出することになります。

遺留分に関する民法特例の、仕組みについて教えてください。

遺留分に関する民法特例とは、一定範囲内の親族には遺留分によって、最低限の相続財産が保障されているので、相続人が複数存在する場合には、自社株が分散して経営に関わる意思決定に支障をきたすおそれがあります。

遺留分の民法特例を利用することで除外合意や固定合意を実施できます。
除外合意とは、非上場株式を遺留分の計算から除外できる制度で、固定合意とは遺留分の計算に占める自社株の金額を合意時の価額に固定する制度です。

両合意を併用することで、株価の上昇を心配することなく、後継者が株式を取得できるようになります。

遺留分に関する民法特例の適用を受けるために必要な、手続について教えてください。

遺留分に関する民法特例の適用を受ける手続は、

経営者の推定相続人全員と後継者が合意し、合意書を作成します。

次に、合意をした日から1カ月以内に「遺留分に関する民法の特例に係る確認申請書」に必要書類を添付して、経済産業大臣へ申請します。

申請後に確認書の交付を受け、確認を受けた日から1カ月以内に家庭裁判所に申立てを行い、家庭裁判所の許可を得ます。


Eさんから「所有するX社株式を買い取ってほしい」との申出がありますが、どのように対応しますか?

X社が金庫株として買い取ることを提案します。

どうしてですか?

金庫株を活用することで、Eさんから株式を買い取り、金庫株とすることで後継者である長男Cさんの株式割合が増え、スムーズに経営することが可能になります。

金庫株とはどういった制度ですか?

金庫株とは、会社自身が発行した株式を買い戻して保有している状態です。

金庫株の活用で留意する点は、剰余金の分配可能額を確認する必要があります。
剰余金の分配可能額とは累積されてきた税引後利益の合算ですが、この範囲でしか金庫株の買取はできません。
実際に金庫株を買い取る際には現金が必要になるので、会社のキャッシュフローに悪影響が出るかもしれないので、適切なタイミングに注意が必要です。

適切なタイミングとは、どのようなタイミングが考えられますか?

Eさんの相続発生後に、金庫株として買い取ることが考えられます。

通常、個人所有の非上場株式は譲渡先が法人の場合、譲渡価格と譲渡した株式に対応する資本金等の差額が、みなし配当となり総合課税となります。
ただし、相続により株式を取得した場合、みなし配当課税は適用されず、譲渡所得課税で20.315%の課税となります。
さらに、譲渡所得の取得費加算の特例も受けることができます。

Eさんの相続発生後であれば、相続で取得した株式をX社に買い取ってもらい、納税資金にあてることもできるので、EさんやEさんご家族の状況にもよりますが、Eさんの相続発生後に、金庫株として買い取ることも考えられます。


妻Bさんは、不動産賃貸業を長女Dさんに承継させたいと考えていますが、どのようなアドバイスをしますか?

一般的に、不動産賃貸業を親族に承継させる場合には、生前贈与や相続で承継させる場合と、法人化して事業承継させる方法が考えられます。

生前贈与や相続、法人化の3つの中で、どれが一番メリットがあるか、節税効果も含め専門家と連携してアドバイスします。

生前贈与する場合の、メリットやデメリットを教えてください。

賃貸不動産を生前贈与する方法のメリットは、
相続時精算課税制度を利用することで節税できる可能性があること。
収益の受益権を長女Dさんに移すことで、相続財産が増えないこと。
相続時にトラブルになりにくいことです。
 
一方で、デメリットは、
 不動産を生前贈与することで不動産取得税がかかること。
登録免許税が2%と高いこと。
不動産が値下がりした場合は、相続税対策にならないことです。
 
贈与する財産の金額によっては、相続するよりも節税につながるケースがあるため、慎重に見極める必要があります。

相続で承継する方法の、メリットやデメリットを教えてください。

賃貸不動産を相続する方法のメリットは、
 土地の相続時に、小規模宅地等の特例を利用できること。
不動産評価が下がりやすい物件の場合、生前贈与より課税額が低額になること。
 
賃貸不動産を相続するデメリットとしては、
生前贈与のほうが、相続よりも節税になるケースがあることです。
 
なので、生前贈与の税額と相続の税額を、専門家と連携して比較することが重要です。

法人化して事業承継する方法の、メリットやデメリットを教えてください。

賃貸経営を法人化して継承する方法のメリットは、
賃貸用不動産は会社の資産になるので、相続税が課税されないこと。
法人化して長女Dさんを役員に就任させ、収益を役員報酬として渡すことで、所得を分散することができます。
 
デメリットとしては、事業規模次第では、生前贈与や相続よりも節税にならないケースが挙げられます。
 
法人化することで、相続や生前贈与を行った年の税金を安くできたとしても、後々に税金が高くなる可能性があるためです。
 
Bさんの資産状況や賃貸収入を鑑みて、相続や生前贈与、法人化の3つの方法の中で、どれが一番節税効果があるのかを専門家と連携し、よく比較検討する必要があります。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

設例を読む限り、Aさん自身が何かに困っている様子や、問題点に気づいている様子はありません。
X社の事業承継も、顧問税理士と連携して勧めていますが、その他の点については問題意識が低いように感じます。
問題点を理解していただけるように、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、事業承継税制に関する設例でした。

実技試験では、Part1もPart2も税制に関する質問があります。

2月試験など、翌年度の税制改正大綱が発表された直後の場合、新しい制度の質問があるかもしれません。

税制などは、常に最新の情報をインプットしておく必要がありますね。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
詳しくはこちらをご覧ください

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