公開日 2025年7月10日 最終更新日 2025年7月11日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(66歳)は、大手家電メーカーを定年退職し、S市内の自宅で妻(63歳)と2人で暮らしている。地元の高校の教員である一人息子の長男Cさん(36歳)は、S市内の賃貸マンションに妻子と住んでおり、分譲マンションに住替えを希望しているものの、資金面に余裕がなく、Aさんは購入資金の全額を支援してあげたいと思っている。Aさんは、5年前に父親から相続により取得したS市内の甲土地(地積360㎡)で貸駐車場(賃料月額20万円)を営んでいる。甲土地は、先祖伝来の土地で、もともとは480㎡の土地であったが、計画道路として事業決定されたことにより今年3月に北側120㎡がS市に収用され、S市から対価補償金として4,000万円が支払われた。Aさんは、駐車場の収益性が低く、売却をしても税金がかかるため、奥行が9mと単独では有効活用が難しい形状の甲土地をなんとかできないものかと悩んでいる。なお、対価補償金以外の長男Cさんへの支援が可能な手元資金は、1,000万円程度である。
甲土地南側隣地の乙土地(地積1,160㎡)は、Bさん(70歳)が所有しており、乙土地の南側を住宅、北側を貸駐車場(賃料月額50万円)としている。Bさんは築50年の自宅を建て替えたいと考えているが、手元資金に余裕はない。
甲土地と乙土地の周辺は、後背地の人口増加に伴い、分譲マンションの建設が盛んであることもあり、マンションディベロッパーのX社から、AさんとBさんに、共同して等価交換事業でマンションを建設しないかと提案(右貢の<資料>参照)が持ち込まれた。
Aさんは、12戸のうち4戸を取得したいと思っており、希望する戸数が取得できれば、賃貸収入の見込みは満足すべきものと思っている。また、長男Cさんも「このマンションならぜひ住みたい」と言っている。Bさんもこの機会にマンションへの住替えが資金負担なくでき、さらに賃貸収入を得られることに満足しており、双方ともX社の提案に前向きである。
ただ、Bさんは、提供する各土地の面積比を重視し、12戸のうち9戸の取得を主張している。Aさんは、希望する戸数を取得するためにどのように交渉すべきか、また、収用で得た資金をどのように活用すべきか、FPであるあなたに相談してきた。
なお、本設例では、50戸のマンションについて、位置別・階層別の価格差は考えないものとする。また、AさんとBさん側に配分される戸数の12戸は合理性があるものとする。
(FPへの質問事項)
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報等価交換で土地所有者側に配分される12戸のうち、9戸の取得を主張しているBさんに対し、Aさんが4戸を取得しBさんは8戸を取得すべきであると主張するために、Aさんにどのようなアドバイスをしますか。
道路買収の対価補償金に係る税金はどうなりますか。また、この対価補償金でマンション1戸を追加取得する場合、Aさんにどのようなアドバイスをしますか。
本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
<資料>X社からの提案内容
- 甲乙一体地(1,520㎡)に容積対象延べ床面積4,560㎡(建築面積800㎡、7階建て)のマンション(ZEH水準の省エネ性能)を建設する。
- マンションの専有床面積は4,104㎡で、3LDK(平均専有面積82.08㎡)50戸を予定。
- 甲乙一体地の評価額とマンション建設費の割合は、24:76とし、AさんとBさん側に12戸、X社側に38戸とし、X社は全戸を分譲販売する。
- 販売価格は、原価に販売経費と利益を加えた1戸当たり5,200万円の予定だが、AさんとBさんが希望すれば、12戸以外に1戸だけ販売経費を引いた4,800万円で譲渡する。
- AさんとBさん側の12戸の配分は、X社がAさんとBさんの意見を聞きながら決める。
- 分譲されたマンションは、1戸当たり月額20万円で賃貸できる見込みである。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年6月 参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
月極駐車場の契約内容や収益。
将来のライフプラン。
資産状況や相続税対策は検討しているか。
Bさんとの関係は良好かを確認します。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
⑷市場調査として
X社の取引事例や財務状況を確認すること。
周辺の取引事例を、地元の不動産業者等で確認し、X社の提案は妥当かを確認します。
等価交換で土地所有者側に配分される12戸のうち、9戸の取得を主張しているBさんに対し、Aさんが4戸を取得しBさんは8戸を取得すべきであると主張するために、Aさんにどのようなアドバイスをしますか?
Aさんが4戸を取得しBさんは8戸を取得すべきであると主張するために、土地の面積比による配分ではなく、各土地の相続税路線価による評価額での、配分を交渉するようにアドバイスします。
どうしてですか?
12戸を土地の面積比による配分にすると、甲土地360㎡に対して乙土地は1,160㎡なので、Aさんが3戸を取得しBさんは9戸を取得するようになります。
一方、各土地の相続税路線価による評価額で12戸の配分を計算すると、
甲土地9,000万円に対して乙土地は1億6,240万円なので、Aさんが4戸を取得しBさんは8戸を取得するようになります。
Aさんが4戸を取得しBさんは8戸を取得すべきであると主張するためには、BさんとX社に対して各土地の面積比による配分ではなく、相続税路線価による評価額での配分を交渉するようにアドバイスします。
道路買収の対価補償金に係る税金はどうなりますか?
受け取った対価補償金と、土地の取得費用や譲渡費用との差額は譲渡所得税の対象になります。
譲渡所得の金額の計算上、どのような特例の適用が考えられますか?
収用等に伴う代替資産の取得の特例や、収用等の場合の5,000万円特別控除の適用が考えられます。
収用等に伴う代替資産の取得の特例について説明してください。
補償金で他の土地建物に買い換えたときに課税の繰延べができる特例です。
売った金額より買い換えた金額が多いときは所得税の課税が将来に繰り延べられ、売った年については譲渡所得がなかったものとされます。
売った金額より買い換えた金額が少ないときは、その差額を収入金額として譲渡所得の金額の計算を行います。
特例を受けるための要件を教えてください。
要件は、売った土地建物は固定資産であること。
売った資産と同じ種類の資産を買い換えること。
移転に承諾した日から2年以内に代わりの資産を取得することです。
5,000万円特別控除を受けるための要件を教えてください。
売った土地建物は固定資産であること。
その年に収用等に伴う代替資産の取得の特例を受けていないこと。
申出があった日から6か月を経過した日までに売買が行われていること。
最初に申し出を受けた者が譲渡していることです。
この対価補償金でマンション1戸を追加取得する場合、Aさんにどのようなアドバイスをしますか?
2年以内に取得し、賃貸マンションとすることをアドバイスします。
収用された資産の対価補償金で、2年以内に代替資産を取得した場合に、代替資産の取得価格から収用等により譲渡した資産の価格を控除できる、不動産取得税の特例措置が適用されることがあります。
適用要件は、収用された資産の所有者と代替資産の取得者が同一人であること。
収用された日から2年以内に代替資産を取得していること。または、代替資産を取得してから1年以内に資産が収用されていること。
収用された資産と取得した資産について代替性が認められることです。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回の設例は、収用等の場合の課税の特例、対価補償金で代替資産を取得した場合の不動産取得税の特例措置、不動産価格の算定に関する設例でした。
収用等の場合の課税の特例は、2023年6月17日の設例にも記載がありました。
実技試験対策でも、過去問を繰り返し解いてみるのが効果的です。
実技試験の過去問に限らず、学科試験の過去問を解いてみるのもいいのではないでしょうか。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。