公開日 2025年7月9日 最終更新日 2025年7月10日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(58歳)は首都圏の市役所に勤務する地方公務員であり、X市内の戸建て住宅で妻子とともに暮らしている。Aさんの父Cさんは3年前に亡くなっており、遺言により父Cさんの相続財産のうち、実家(母Bさんの自宅)、Aさんの自宅、賃貸アパートの土地建物は母BさんとAさんが各2分の1の持分で相続し、賃貸マンションの土地建物は妹Dさん(55歳)が単独で相続している。父Cさんの死後、1人になった母Bさんを心配して、2年前から妹Dさんが母Bさんと同居していたが、その母も2025年5月に病気で亡くなった。母Bさんの相続人は、Aさんと妹Dさんの2人である。
【母Bさんの相続人】
長男Aさん(58歳):地方公務員。配偶者と子2人の4人で自宅に住んでいる。
長女Dさん(55歳):配偶者と子2人の4人で母Bさんの自宅に住んでいる。
【母Bさんの相続財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
⒈ 現預金 : 9,000万円 ⒉ 母Bさんの自宅 ①土地(全体300㎡) 8,000万円 (持分2分の1の評価額) ②建物(築12年) 1,000万円 (持分2分の1の評価額) ⒊ Aさんの自宅 ①土地(全体300㎡) 8,000万円 (持分2分の1の評価額) ②建物(築12年) 1,000万円 (持分2分の1の評価額) ⒋ 賃貸アパート ①土地(330m²) : 9,000万円 (持分2分の1の評価額) ②建物(築12年) : 2,000万円 (持分2分の1の評価額) 合計 : 3億8,000万円
※ 母Bさんの相続に係る相続税額は、約1億円(小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
※ 賃貸アパート全体の年間家賃収入は約900万円である。
母Bさんは遺言を残していなかったため、Aさんと妹Dさんは、遺産分割について、協議の結果、以下のとおりに分割しようと思っている。
- 現預金は均等に相続する
- 母Bさんの自宅(土地・建物)の持分は妹Dさんが相続する
- Aさんの自宅(土地・建物)の持分はAさんが相続する
- 賃貸アパート(土地・建物)の持分はAさんが相続する
- 母Bさんの自宅(土地・建物)のAさんの持分を妹Dさんに代償財産として交付する
この遺産分割案において、Aさんは、母Bさんの自宅(土地・建物)の取得費、相続税評価額および時価(市場価格)が異なっていることから、当該土地建物の持分を妹Dさんに代償財産として交付したときにどのような課税が行われるのか気になっている。また、賃貸アパートについて、母Bさんが亡くなるまでは持分に応じて家賃を折半して受け取っていたが、今年の家賃収入に対してどのように課税されるのかよくわからないでいる。
さらに、Aさんは、父Cさんの相続関係の手続は母Bさんに任せきりだったため、母Bさんの相続関係の手続や必要書類等について知りたいと思っている。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年6月 参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として
問題点は、
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
母Bさんの自宅の持分を妹Dさんに代償財産として交付したとき、Aさんにはどのような課税が行われますか?
不動産を代償財産として交付したときは、対象となる不動産の取得費よりも、代償分割したときの時価が高かったときは、差額が譲渡所得とみなされ、譲渡所得税がかかります。
現金で代償金を支払った場合は課税されません。
妹Dさんにはどのような課税が行われますか?
妹Dさんが代償財産として取得すると、不動産取得税の対象となります。
相続による取得は不動産取得税の対象外ですが、代償財産による取得は不動産取得税の対象となります。
他に、妹Dさんのデメリットはありませんか?
代償財産については相続により取得したものとみなされず、通常の相続のように取得日・取得価額を被相続人から引き継ぐことができません。
取得日は代償財産の交付時、取得価額はその時の時価となるため、相続により取得した場合と比べ所有期間が短くなります。
所有期間が短いと短期譲渡として税率が高くなったり、特例の要件を満たせないなどのデメリットがあります。
賃貸アパートについて、今年の家賃収入に対してはどのように課税されますか?
母Bさんが亡くなってから遺産分割協議が成立するまでは、家賃収入は相続人全員に分配され、各相続人が確定申告を行う必要があります。
遺産分割成立後は、不動産を取得したAさんが、その後の家賃収入を全て取得することになり確定申告を行います。
母Bさんの確定申告はどのように行いますか?
母Bさんが死亡した年に不動産所得を得たことに対する準確定申告を行います。
準確定申告とは、被相続人の生前の収入について行う確定申告のことです。
被相続人が死亡した年に不動産所得が発生していた場合には、相続人という立場から被相続人の代わりに、被相続人の所得や控除額を申告します。
準確定申告の期限を教えてください。
準確定申告は、相続人が、1月1日から死亡した日までに確定した所得金額及び税額を計算して、相続の開始があったことを知った日の翌日から、4か月以内に申告と納税をしなければなりません。
相続関係の手続きについて教えてください。
母Bさんの相続財産のうち預金に関しては各金融機関で、実家や賃貸アパートに関しては、不動産の所在地を管轄する法務局で、相続登記の手続きを進めることになります。
相続した不動産の名義変更手続きや注意点について教えてください。
相続した不動産の名義変更は、不動産の所在地を管轄する法務局で相続登記の手続きを行います。
不動産を相続した日から3年以内に申請する必要があり、正当な理由なく名義変更を怠ると10万円以下の過料が科される可能性があります。
相続関係の手続きに必要な書類を教えてください。
相続手続きに必要な書類は、手続きの種類や状況によって異なりますが、一般的に、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍。
被相続人の住民票の除票、または戸籍の附票。
相続人全員の戸籍謄本。
相続人全員の印鑑証明書などが必要です。
法定相続情報証明制度とはどういう制度ですか?
相続手続きでは、死亡した方の戸除籍謄本等の束を、相続手続きを取り扱う窓口ごとに提出する必要があります。
法定相続情報証明制度とは、「法定相続情報一覧図」を作成し、戸除籍謄本等の束を登記所に提出すると登記官が認証文付きの「法定相続情報一覧図の写し」を交付します。
交付された「法定相続情報一覧図の写し」は、相続登記の申請手続きや被相続人名義の預金の払い戻し等、様々な相続手続きに利用できるので、戸除籍謄本等の束を何度も提出する必要がなく、相続手続きにかかる相続人・手続きを行う窓口等、双方の負担が軽減されます。
最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
母Bさんの所有財産は不動産が多く、共有名義の解消などの課題もあります。
Aさんは、相続手続きや必要書類などわからないことも多いので、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、代償分割の課税関係、収益不動産の相続、相続手続き・必要書類に関する設例でした。
パート1の設例でも不動産に関する相続の出題が多くあります。
一般的な相続手続きや必要書類はもちろん、不動産に関する相続もチェックしておきましょう!
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。