合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
有限会社X社は、Aさん(68歳)の父親が50年前に創業した会社である。かつては都内で旅館を営んでいたが、Aさんの代になってから売上が落ち込み、25年前に旅館業は廃業した。廃業後X社の解散手続はしておらず、旅館が建っていた土地は現在もX社が所有している。現在、その土地には、Aさんが自身の名義で建設したテナントビルが建っており、Aさんはその家賃収入で生計を立てている。なお、AさんはX社に地代を支払っている。
Aさんは、将来の相続税の支払が現状の金融資産で足りるのかどうか心配している。
【Aさんが所有する不動産の概要】
①月極駐車場(アスファルト敷き)
月極駐車場として一定の収入を上げているが、固定資産税・都市計画税の負担を考えると収益性は高くない。テナントビルの建設時に融資を受けた金融機関に相談したところ、「賃貸マンションの建設を検討してみませんか」との提案を受けた。Aさんは、テナントビルに係る借入金の完済の目途も付いたことから、建設に前向きであるが、Aさん名義、X社名義のいずれにすればよいか迷っており、課税関係等の違いを知りたいと思っている。
②テナントビル
テナントビルは、鉄骨造8階建て、延べ面積1,000㎡(各階の床面積は125㎡で同一)で、23年前に建設した(建設費用は4億円)。現在、1~6階は賃貸し、7~8階は妻Bさん(66歳)と二女Dさん(38歳)との3人で暮らす自宅として使用している。立地が良好なことから空室はなく、年間5,500万円の賃料収入(不動産所得は2,500万円)を得ている。
Aさんは、同業の知人から「テナントビルをX社が買い取れば税負担を軽減できる」との話を聞き、その真意を確かめたいと思っている。
なお、Aさんは、自身の相続開始後、長女Cさん(42歳)と二女Dさんの2人が賃料収入
を得られるようにしたいと考えている。
また、Aさんは、NISA制度が来年から拡充されるとニュースで聞き、その内容を理解し
たうえで、生前贈与による相続対策や資産運用に活用したいと考えている。
【Aさんの家族構成(推定相続人)】
妻Bさん(66歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長女Cさん(42歳):専業主婦。会社員の夫と子の3人で夫所有の持家に住んでいる。
二女Dさん(38歳):会社員。Aさんと自宅で同居している。
【Aさんの主な所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
⒈ 現預金 : 2億円 ⒉ 有価証券 : 2億円 ⒊ 月極駐車場(1,000㎡) : 1億円 ⒋ テナントビル ①土地(借地権、450㎡) : 0円 ②建物(築23年) : 2億円 ⒌ 借入金 ▲1,000万円 ⒍ X社株式 : 2億4,000万円 合計 : 9億3,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約3億2,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
※X社株式(小会社)はAさんが100%所有。
※テナントビル土地の相続税評価額は3億6,000万円である。(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2026年9/10月 参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
Aさんの相談内容は、将来の相続税の納税資金に関する不安への対応、極駐車場の有効活用(賃貸マンション建設)に関する主体の選択、テナントビルの同族会社(X社)への売却提案の真意の確認、事業承継および遺産分割、拡充されるNISA制度の生前贈与・資産運用への活用法に整理できます。
問題点は、現状の金融資産(4億円)でも納税は可能ですが、土地の評価額が大きいため小規模宅地等の特例等の適用可否次第で税負担が変動するリスクがあること。
権利金や地代のやり取りの状況(無償返還届出書の提出の有無等)により、X社株式の評価やAさんの相続税評価額(借地権評価)が大きく変動する問題があること。
X社は休眠状態(事業実態は土地の貸付けのみ)であるため、評価の引き下げ対策および将来の事業承継(株式の分散防止または議決権配分)が課題となること。
テナントビルをX社へ売却する場合の税務・資金繰りリスクについてです。
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
Aさんは、将来の相続税の支払が現状の金融資産で足りるのかどうか心配していますが、現状の金融資産で将来の相続税を支払うことは十分に可能ですか?
現状の金融資産で将来の相続税を支払うことは十分に可能です。
ただし、仮にこのまま多額のキャッシュを納税で失えば、残された妻Bさんの今後の老後生活資金や、将来の二次相続時の納税資金が枯渇してしまうリスクがあります。
どのような対策が有効ですか?
妻Bさんに対する「配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分まで非課税)」を最大限活用します。
また、ご自宅(テナントビル7〜8階)に同居している二女Dさんが自宅部分を相続することで「小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等として330㎡まで80%減額)」を適用し、大幅に土地の評価額を引き下げます。
現在アスファルト敷きの月極駐車場(評価額1億円)に賃貸マンションを建設します。これにより、土地は「自用地」から「貸家建付地」となり評価額が下がります。
手元の現預金や借入金を「建物」という不動産に変えることで、キャッシュで持っておくよりも相続税評価額を大きく圧縮することが可能です。
現在アスファルト敷きの月極駐車場(評価額1億円)に賃貸マンションを建設します。と回答されましたが、Aさん名義、X社名義のいずれにすればよいか、課税関係等の違いを教えてください。
Aさん(個人)名義で建設する場合、建設資金の借入金がAさんの債務となり、将来の相続時に遺産総額から直接差し引かれます(債務控除)。
また、月極駐車場(自用地)が「貸家建付地」となり評価額が下がるうえ、要件を満たせば「貸付事業用宅地等の特例(200㎡まで50%減額)」が適用できるため、相続税の圧縮効果は極めて大きくなります。
ただし、家賃収入がAさんの不動産所得にそのまま上乗せされるため、超過累進課税により最高で55%(住民税含む)の高い税率が適用され、毎年の所得税負担が重くなる懸念があります。
令和8年度税制改正により、課税時期(相続発生)の前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築をした一定の貸付用不動産については、原則として「課税時期における通常の取引価額(時価)に相当する金額」によって評価されることとなりました。
これにより、Aさん個人名義で新築した場合、建築後5年以内にAさんの相続が発生してしまうと、貸家建付地や通常の家屋評価による大幅な評価減が認められず、高い評価額で相続税が課されるリスクが発生します。
X社名義で建設する場合を説明してください。
X社(法人)名義で建設する場合、家賃収入はX社の利益となるため、法人実効税率で頭打ちになります。
また、将来賃料を受け取らせたい長女Cさんや二女Dさんを役員にして役員報酬を支払うことで、所得分散効果と給与所得控除のメリットを享受しつつ、次世代へ無税で納税資金を移転させることが可能です。
ただし、借入金はX社の債務となるため、Aさん個人の遺産からは直接控除されず、自社株(X社株式)の純資産価額を下げる効果にとどまります。
また、土地の相続税評価は原則として「自用地としての価額の80%(無償返還届出書提出時)」となり、個人名義ほどの大きな土地の評価減は期待できません。
Aさんは、同業の知人から「テナントビルをX社が買い取れば税負担を軽減できる」との話を聞き、その真意を確かめたいと思っています。
Aさんが理解できるようにその真意を説明してください。
同業の知人の方がおっしゃる「X社に買い取らせれば税負担が軽減できる」というアドバイスの真意は、「個人の高い所得税を、税率の低い法人税に変換すること」と、「家族への所得分散」の2点にあります。
現在、Aさんの不動産所得は年間2,500万円あり、超過累進課税により所得税・住民税合わせて最高50%近い非常に高い税率が課されています。
テナントビルをX社に売却して家賃収入をX社のもの(法人所得)にすれば、法人実効税率(最大でも約33%程度)で頭打ちになるため、毎年の税負担を大幅に圧縮できます。
テナントビルをX社の所有とし、Aさんのご意向である長女Cさんや二女DさんをX社の役員にして「役員報酬」を支払います。
これにより、家賃収入を合法的にCさん・Dさんに分配できるだけでなく、各人が「給与所得控除」や「基礎控除」を使えるため、一族全体での税負担を劇的に下げることができます。
また、Cさん・Dさんに将来の相続税の納税資金を貯めさせる効果もあります。
テナントビルをX社が買い取る場合のリスクはありますか?
建物をX社に売却する際、X社側には多額の不動産取得税と登録免許税がかかります。
また、Aさん個人にも、建物の帳簿価額と売却額との差額に対して譲渡所得税が課税される可能性があり、数年分の節税メリットが一度の移転コストで吹き飛ぶリスクがあります。
現在、X社の土地にAさん個人の建物が建っています。建物をX社に移転させると、土地・建物ともにX社の所有となります。この際、これまでのAさんとX社間の地代の支払い状況や「土地の無償返還に関する届出書」の提出有無などを精査しておかないと、借地権の移動に伴う思わぬ認定課税(法人税・贈与税)を受けるリスクがあります。
Aさんは、NISA制度が来年から拡充されるとニュースで聞き、その内容を理解したうえで、生前贈与による相続対策や資産運用に活用したいと考えています。
Aさんが理解できるように内容を説明し、生前贈与による相続対策や資産運用の活用方法を教えてください。
最大のポイントは、これまで18歳以上だった「つみたて投資枠」の対象年齢が『0歳から』に拡充される点です。
0歳〜17歳までの未成年者については、「年間投資枠60万円」「非課税保有限度額600万円」の専用枠が設けられます。
原則として、子が12歳になるまでは親権者等による払出しができず、12歳以降も「子の同意」がある場合のみ払出しが可能となるため、大学進学等のライフイベントに向けた長期・安定的な資産形成に特化した制度になります。
実は、これまで定番だった「教育資金の一括贈与の非課税特例」は、令和8年3月末をもって廃止(終了)してしまいました。
したがって、Aさんからお孫さんへ暦年贈与の基礎控除(年110万円)の範囲内で現金を贈与し、それを元手に、お孫さん名義で新設される「0歳からのNISA(年60万円枠)」で運用を行います。これにより、非課税で財産を移転しつつ、運用益も非課税にするという、かつての教育資金贈与以上の柔軟な資産形成が可能になります。
成人しているCさん・Dさんに対しては、従来の暦年贈与ではなく、「相続時精算課税制度」の選択を提案します。
この制度には新たに「年110万円の基礎控除」が創設されており、この枠内の贈与であれば将来の相続財産に持ち戻されることもなく、申告も不要です。
この無税で渡した資金を、Cさん・Dさんご自身の「成人向けNISA口座(年間360万円枠)」で運用していただきます。
最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、顧客利益の優先を重視します。
Aさんは知人から「テナントビルをX社に売却すれば節税になる」とアドバイスを受けていますが、これには移転コストや将来の役員借入金発生による自社株の評価高騰といった重大なリスクが潜んでいます。
目先の節税効果や第三者の意見に惑わされることなく、Aさんとご家族全体の長期的なキャッシュフローの最大化と円満な相続という「真の利益」を最優先に見極めてアドバイスを行う必要があるためです。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、不動産管理会社の設立、小規模宅地等の特例、国際相続に関する設例でした。
不動産所得3,000万円超に対する「不動産管理法人の設立」や、長男への「住宅建築」を提案する際、「評価額の引き下げ(節税)」ばかりに目を奪われると、面接官から「手元の現金がさらに減って納税できなくなりますよ?」とカウンターを喰らいます。
常に「節税」と「納税資金(キャッシュ)」のバランスを意識して提案を組み立ててください。
本設例は2026年6月の試験です。問題文にある「長女Cさんへの教育資金援助」に対して、2026年3月末で終了した「一括贈与の非課税特例」をドヤ顔で提案してしまったらその時点で大幅減点です。
制度が終了した直後のタイミングだからこそ、「都度贈与(法21条の3)」や「法人からの役員報酬ルート」といった代替案をスマートに提示できるかが問われています。
また、二女Eさんの米国不動産における「プロベート(遺産割当手続)」や「全世界課税」の論点は、これからの時代確実に増える国際相続のド定番です。基本知識として必ず押さえておきましょう。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。