合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(77歳)は、15年前に大手メーカーを退職し、三大都市圏近郊のS市内にある自宅で妻Bさん(75歳)と暮らしている。1人息子の長男Cさん(50歳)は公務員で、同市内にある分譲マンションで妻と2人の子(DさんとEさん)と暮らしている。Dさん(22歳)は来春大学を卒業予定であり、就職先も決まっている。Eさん(18歳)は医学部を目指して受験勉強中である。先日、長男Cさんは、Aさん夫妻のもとを訪れ、「Eは、何とか志望する医学部に合格する見込みがでてきた。しかし、私の貯蓄と収入では学費を全額賄うことはできそうにない。初年度に500万円、2年度目以降5年間、毎年400万円ずつ不足する見込みであり、資金を援助してもらえないだろうか」と相談を持ちかけた。Aさんと妻Bさんは話し合い、「Eが医師になる夢を叶えるためなら、できるだけの援助をしよう。また、この機会にそろそろ将来の相続について計画をたててみよう」ということになった。
【Aさんの相続財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
⒈ 現預金等の金融資産 : 5,000万円 (借入金はない) ⒉ 自宅 ①甲土地(200m²) : 3,000万円 ②甲建物(130㎡) : 500万円 ⒊ 賃貸マンション(3階建て12室の一棟) ①乙土地(300m²) : 4,000万円 (貸家建付地評価) ②乙建物 : 1,200万円 (貸家評価) ⒋ 丙土地(1,000㎡) : 100万円 ※丙土地は、父親から相続した郷里(三大都市圏外)にある更地の宅地である。
※Aさんの年間収入(税引後)は1,100万円(公的年金250万円、金融資産運用益50万円、賃貸マンション純収益800万円)である。なお、丙土地は、都市計画区域外に所在しており、固定資産税と草刈り等の管理費が毎年10万円程度かかっている。Aさんは、活用方法がなく、維持管理に手間と費用がかかる丙土地を手放したいと思っているが、地元の不動産会社の話では、購入希望者は見込めないとのことである。また、地元自治体に寄附の相談もしてみたが、引き取ることはできないと回答された。Aさんは、有効活用のできない丙土地の問題を自分の代で解消したいと思っている。
【Aさんの計画】
Aさんは、長男Cさんに、現金(初年度納入金の不足額500万円)と、賃貸マンション(乙土地・乙建物)の持分の2分の1を贈与し、その賃貸収入で2年度目以降の不足額を補塡させようと考えている。また、丙土地については、不動産引取サービスを行っているⅩ社から、引取料100万円を支払えば引き取るとの提案を受けており、検討したいと考えている。
Aさんは、孫Eさんの学費支援方法や丙土地の処分について、自身の計画に何か問題はないか、FPであるあなたに相談することにした。
(FPへの質問事項)
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報孫Eさんの学費支援として、Aさんの考える計画は妥当ですか。問題があるとしたら、代わりにどのような方法を提案しますか。
丙土地をⅩ社の提案により処分する前に、他に確認すべきことはありますか。Ⅹ社の提案により処分する場合、どのようなアドバイスをしますか。
本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年9月 参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
丙土地の状況(建物は立っていないか、担保権や使用収益権が設定されていないか、隣接する土地の所有者等との関係は良好か)
長男Cさんの年収や資産状況。
将来のライフプラン。
賃貸マンションの入居者との関係は良好か。
入居年数は何年ぐらいかを確認します。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として、主に丙土地について、境界は明らかか、土壌汚染されていないか、勾配、工作物、車両、樹木などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
⑷市場調査として
X社の取引事例や財務状況を確認すること。
周辺の取引事例を、地元の不動産業者等で確認し、X社の提案は妥当かを確認します。
孫Eさんの学費支援として、Aさんの考える計画は妥当ですか?
問題があるとしたら、代わりにどのような方法を提案しますか?
妥当だと思います。
学費支援だけでなく、Aさんの所有している賃貸マンションを長男Cさんに贈与すれば、家賃収入をCさんに移転させることができ、所得税や相続税を軽減できる場合があります。
問題はありませんか?
建物の贈与には、贈与税のほかに登記費用や不動産取得税もかかるため、注意が必要です。
さらに、贈与する際の建物の評価額には固定資産税評価額を用いますが、賃貸マンションの場合、敷金などの負担すべき債務を付けたまま贈与すると、負担付贈与となり固定資産税評価額を利用した贈与ができなくなってしまい建物は時価で評価しなければなりません。
どのような方法を提案しますか?
負担付贈与を回避するために、敷金に対応する金額も同時に贈与しておくと、敷金返還債務を引き継いでも負担付贈与には該当しなくなります。
他に問題はありませんか?
Aさんが賃貸マンションの建物と土地の両方所有したまま相続が発生した場合、賃貸マンションの土地は貸家建付地として評価減ができます。
Cさんに賃貸マンションの建物のみを贈与すると、土地の所有者はAさん、建物の所有者はCさんとなり、土地と建物の所有者が異なります。
その際、地代の授受は行わず、無償で子が親の土地を利用する使用貸借となり、賃貸マンションの土地は相続時に自用地として評価されることになり土地の評価額が増加します。
どのような提案をしますか?
賃貸マンションの建物を贈与後も、賃借人に変動がない場合には、貸家建付地の評価減を認めるという例外があります。
マンション入居者の状況を確認すること。
専門家と連携し、教育資金の一括贈与を検討することや、賃貸マンションの建物を贈与した場合の税負担と、Aさんの相続税額の負担とをシミュレーションし、トータルで負担が少なくなるような計画を検討するように提案します。
丙土地をⅩ社の提案により処分する前に、他に確認すべきことはありますか?
個人的に丙土地を利用したい人がいないか、心当たりがないか確認します。
また、Aさんは自分の代で解消したいと思っているが、相続土地国庫帰属制度が利用できないか法務局などに確認します。
相続土地国庫帰属制度では、相続した土地であれば、全ての土地を国に引き渡すことができますか?
相続した土地であっても、
建物がある土地。
担保権や使用収益権が設定されている土地。
他人の利用が予定されている土地。
特定の有害物質によって土壌汚染されている土地。
境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地は引き取りの対象外です。
費用はどのくらいかかりますか?
申請する際に、1筆の土地当たり1万4000円の審査手数料を納付する必要があります。
法務局による審査を経て承認されると、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金を納付します。
負担金は、1筆ごとに20万円が基本ですが、一部の市街地の宅地、農用地区域内の農地、森林などについては、面積に応じて負担金を算定します。
Ⅹ社の提案により処分する場合、どのようなアドバイスをしますか?
取引の安全性について、 引取料を支払う前に所有権移転登記が行われたことを確認すること。
引取料以外の費用や条件など、具体的な契約内容の確認をすること。
適正価格で取引されているのかどうか、宅建業者等へ相談するなど、売却を含む様々な取引形態の比較検討をすること。
引取後の不動産は適正に管理されるのか、引取後の土地の管理方針を確認するようにアドバイスします。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回の設例は、収益物件の贈与、相続土地国庫帰属制度、不動産の引取サービスに関する設例でした。
不動産の引取サービスについては、令和7年2月に「不動産取引に係る新たなサービス形態について」という資料が国土交通省から出ていました。
不動産コンサルティング業務や、住宅のリースバックについても記載があります。
少し前にリリースされた各省庁の文章は、一度目を通しておくと良いのではないでしょうか。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。