合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(71歳)は、食料品製造業を営むX株式会社(非上場企業)の創業社長である。X社は、Aさんが40年前に設立して以来、ロングセラー商品を中心に業容を拡大させてきた。しかし、近年はヒット商品に恵まれず、売上が減少し、前期は創業以来初めて赤字に転落した。今期も業績が厳しく、2期連続での赤字決算となる見込みである。過去の内部留保が多く、また赤字額が少ないため、今のところ経営に対する影響は出ていない。
【事業承継について】
Aさんは、新たに開発した商品の発売を機に社長職を辞し、X社を去る決意をした。今後は、希望退職者を募り、人員の削減を図るなど会社の体質を強化したうえで、専務取締役の長男Cさん(44歳)に事業を承継し、長男Cさんを含む若手社員にX社を託すつもりである。大手食品メーカーでの勤務を経てX社に入社した長男Cさんは、10年前に専務取締役に就任し、Aさんを補佐してきた。取引先・従業員からの信頼は厚く、後継者としての資質に問題はない。X社株式の承継方法について、Aさんは贈与による移転を検討しているが、現時点では明確な考えはなく、長男Cさんと相談して実行する予定である。
Aさんは、今期も赤字が見込まれるため、X社が黒字に転ずるまでは、毎年行っていた配当をゼロにしたいと思っているが、長男CさんにX社株式を移転するにあたり、X社株式の評価上、何か問題となることはないか知りたいと思っている。
【資産承継について】
会社員の二男Dさん(39歳)は、妻と子の3人で都内の賃貸マンションで暮らしている。二男Dさんは、以前から長男Cさんと折り合いが悪く、Aさんの相続が発生した場合、相当額を相続できなければ納得できないと考えている。このままでは、遺産分割において争いが起こり、申告期限までに分割ができないおそれがあるため、Aさんはどのように資産承継をすればよいか頭を悩ませている。
【Aさんの家族構成(推定相続人)】
妻Bさん(68歳):専業主婦。Aさん、長男Cさん家族と二世帯住宅に居住している。
長男Cさん(44歳):X社専務取締役。妻と子2人(12歳・9歳)の4人で二世帯住宅に居住している。
二男Dさん(39歳):会社員。妻と子(7歳)の3人で賃貸マンションに居住している。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
⒈ 現預金 : 1億円 (役員退職金は考慮していない) ⒉ X社株式 : 2億円 ⒊ 自宅 ①土地(360㎡) : 1億5,000万円 ②建物(二世帯住宅) : 5,000万円 ⒋ X社本社土地(400㎡) : 1億円 ⒌ X社本社建物 : 5,000万円 (年間家賃800万円) 合計 : 6億5,000万円 ※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億9,500万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
【X社の概要】
資本金:5,000万円 会社規模:大会社 従業員数:120人 配当:毎期25円/株
売上高:21億円 経常利益:▲1,000万円 余剰資金:3億円
株主構成(発行済株式総数10万株):Aさん100%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額2,000円/株、純資産価額5,000円/株
今期の損失金額は約300万円と、赤字幅の縮小が見込まれている。(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年9月 参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として
問題点は、
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
X社株式の承継方法について、どのような方法がありますか?
事業承継税制を活用する方法があります。
事業承継税制について教えてください。
事業承継税制とは、会社の後継者が先代経営者などから自社株式などを取得した場合に、一定の要件を満たしているときは、贈与税や相続税の納税を猶予し、後継者が次の後継者に事業承継できた場合などには、相続税や贈与税が免除になる制度です。
事業承継税制の特例措置と一般措置の違いを説明してください。
特例措置は2018年1月1日から2027年12月31日までの10年間限定で、特例措置を希望する場合は、2026年3月31日までに特例承継計画を作成し、都道府県知事に提出しなければなりません。
一般措置では、納税猶予の対象とされる非上場株式などが総株式数の最大3分の2までと制限されていましたが、特例措置では撤廃されています。
また、特例措置では相続にかかる納税猶予割合も、80%から100%へと引き上げられたり、複数の株主から最大3人の後継者へ承継できたり、雇用確保要件も弾力化されています。
X社が黒字に転ずるまでは、配当をゼロにしたいと思っていますが、株式を移転するにあたり、X社株式の評価上、何か問題となることはありませんか?
問題点として、自社株式の評価額が高くなることがあります。
赤字が続いている時に配当をゼロにしてしまうと、資産や売り上げが大きくても比準要素1の会社に該当することがあり、自社株式の評価額が高くなることがあります。
比準要素数1の会社について教えてください。
比準要素数1の会社ですが、類似業種比準方式では、1株当たりの配当金額、1株当たりの利益金額、1株当たりの純資産価額の3つの比準要素を使います。
比準要素数1の会社とは、3つの比準要素のうち、評価直前期末の要素のいずれか2つがゼロであり、かつ、評価直前々期末の要素のいずれか2つ以上がゼロである会社のことです。
X社は2期連続での赤字決算となる見込みなので、黒字に転ずるまで配当をゼロにしてしまうと比準要素数1の会社に該当する可能性があります。
比準要素数1の会社に該当すると株価が高くなるのはどうしてですか?
X社は大会社ですが、比準要素数1の会社に該当すると、会社の規模にかかわらず、純資産価額方式による評価、又は選択により併用方式において、類似業種比準価額のLの割合を0.25として評価することになります。
そのため純資産価額の割合が大きくなり、一般的に株価が高く算出されます。
資産承継についてはどのようなことをアドバイスしますか?
遺言書を作成することや、遺留分に関する民法の特例、金庫株特例、生前贈与の活用を検討するようにアドバイスします。
生前贈与の活用はどのように提案しますか?
生前贈与の活用には、歴年贈与、教育資金、結婚・子育て資金贈与、住宅取得資金贈与などがあげられます。
今回のケースでは、後継者である長男Cさんが遺産の多くを取得するため二男Dさんの遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があります。
教育資金の一括贈与や住宅取得資金贈与などを積極的に行うことを提案します。
遺留分に関する民法の特例について説明してください。
事業承継による相続について、法定相続人の合意があれば、遺留分を減らせるという事です。
後継者に自社株式を集中して承継させようとしても、遺留分を侵害された相続人から遺留分に相当する財産の返還を求められた際、自社株式が分散してしまったり、資金不足になり業績が悪化し、廃業に追い込まれるということを避けるための制度です。
遺留分に関する民法の特例の適用を受けるために必要な、手続について教えてください。
遺留分に関する民法の特例の適用を受ける手続は、経営者の推定相続人全員と後継者が合意し、合意書を作成します。
次に、合意をした日から1カ月以内に「遺留分に関する民法の特例に係る確認申請書」に必要書類を添付して、経済産業大臣へ申請します。
申請後に確認書の交付を受け、確認を受けた日から1カ月以内に家庭裁判所に申立てを行い、家庭裁判所の許可を得ます。
申告期限までに分割が行われない場合、相続税の申告はどうしたらよいですか?
遺産分割が相続税の申告期限に間に合わないときは、申告期限までに一度、法定相続分で相続したことにして相続税を申告・納税し、正式に遺産分割ができたときに改めて税務署に対して申告します。
申告期限までに分割が行われない場合のデメリットを教えてください。
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など、税額を軽減する特例が適用できないので、相続税が高くなってしまいます。
ただし、未分割申告をするときに申告期限後3年以内の分割見込書を添付すると、配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は適用できるようになります。
手続きは、遺産分割後4ヶ月以内に更正の請求を行い申告を修正することで、納めすぎた税金が還付されます。
最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんは事業承継について後継者は決まっているものの具体的な方法は決まっておらず、資産承継に関しても兄弟間で折り合いが悪いということなので、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、比準要素数1の会社、遺留分に関する民法の特例、生前贈与、未分割申告に関する設例でした。
比準要素数1の会社は2023年9月30日の設例にも記載されています。
実技試験対策も多くの過去問を繰り返し解いてみることが有効です。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。