2025年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2025年6月7日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2025年6月23日 最終更新日 2025年6月25日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。

それでは、設例をお読みください。

2025年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2025年6月7日)

●設 例●
 三大都市圏で自動車部品製造業を営むX株式会社(非上場会社)は、代表取締役社長であるAさん(72歳)が35年前に設立した会社である。X社の技術力は取引先から高く評価され、経営状態は良好であり、今後も取引のさらなる拡大が見込まれている。

 

【X社の事業承継】

Aさんの長男Cさん(47歳)は、1年前にX社の専務取締役に就任し、Aさんに代わって実質的に経営上の意思決定を行っており、Aさんは社長交代の時期について考え始めている。

Aさんは、自身が健在であるうちに長男CさんにX社株式を移転して事業承継を完了させたいと考えているが、X社の創業者であるAさんはX社株式のすべてを保有しているため、X社株式をやみくもに移転した場合、高額な贈与税が発生するのではないかと懸念している。さらにX社の業績は好調であり、将来的にX社の価値が上昇していくことで、株式の移転がいっそう困難になることが懸念される状況である。

なお、X社本社土地はAさんが所有しているが、X社に余剰資金があることから、Aさんは当該土地をX社へ売却することも視野に入れている。

 

【Aさんの資産承継】

Aさんは、妻Bさん(70歳)と2人暮らしであり、自宅と現預金は妻Bさんに相続させる意向である。長女Dさん(44歳)には賃貸アパートを相続させようと考えているが、所有財産に占めるX社株式の割合が大きく、長男CさんにX社株式をすべて承継させると相続財産の配分に偏りが生じることが気にかかっている。

なお、長女Dさんは住宅の購入を検討しており、Aさんは資金面で協力してあげたいと考えている。

 

【Aさんの家族構成(推定相続人)】

妻Bさん (70歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(47歳):X社の専務取締役。妻と子の3人で持家に居住している。
長女Dさん(44歳):会社員。夫(会社員)と子の3人で賃貸マンションに居住している。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

現預金 9,000万円 (役員退職金は考慮していない)
X社株式 2億5,000万円  
自宅      
  ①土地(180m²) 2,000万円  
  ②建物 1,000万円  
X社本社土地(1,200m²) 1億1,000万円 (注)
賃貸アパート    
  ①土地(200㎡) 2,000万円  
  ②建物 1,000万円 (年間家賃収入480万円)
  合計 5億1,000万円  

 

Aさんの相続に係る相続税額は、約1億3,500万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

(注)X社は土地の無償返還に関する届出書をAさんと連名で税務署に提出し、Aさんに通常の地代を支払っている。

【X社の概要】

資本金:1億円 会社規模:大会社 従業員数:110人 配当:毎期20円/株 売上高:25億円 経常利益:1億5,000万円 純資産:5億円 株主構成(発行済株式総数20万株):Aさん100% 株式の相続税評価額:類似業種比準価額1,250円/株、純資産価額2,500円/株

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年6月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • X社株式を移転した場合、高額な贈与税が発生するのではないか。
  • 将来的にX社の価値が上昇することで、株式移転が困難になるのではないか。
  • 所有するX社本社土地をX社へ売却することを検討していること。
  • 相続財産の配分に偏りが生じることが気にかかっていること。
  • 長女Dさんの住宅購入に際し、資金面で協力してあげたいと考えていること。

問題点は、

  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 納税資金の確保。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

高額な贈与税が発生しないようにX社株式を移転するには、どのような方法がありますか?

事業承継税制を活用する方法があります。

事業承継税制について教えてください。

事業承継税制とは、会社の後継者が先代経営者などから自社株式などを取得した場合に、一定の要件を満たしているときは、贈与税や相続税の納税を猶予し、後継者が次の後継者に事業承継できた場合などには、相続税や贈与税が免除になる制度です。

AさんはX社株式のすべてを保有していますが、すべての株式について納税猶予の対象にできますか?

できます。
事業承継税制の特例措置を活用することで、すべての株式が贈与税や相続税の納税猶予の対象となります。

事業承継税制の特例措置と一般措置の違いを説明してください。

特例措置は2018年1月1日から2027年12月31日までの10年間限定で、特例措置を希望する場合は、2026年3月31日までに特例承継計画を作成し、都道府県知事に提出しなければなりません。

一般措置では、納税猶予の対象とされる非上場株式などが総株式数の最大3分の2までと制限されていましたが、特例措置では撤廃されています。

また、特例措置では相続にかかる納税猶予割合も、80%から100%へと引き上げられたり、複数の株主から最大3人の後継者へ承継できたり、雇用確保要件も弾力化されています。


将来的にX社の価値が上昇していくことで、株式の移転が困難になることを懸念されていますが、どのような提案をしますか?

役員退職金の支給を検討するように提案します。

役員退職金の支給で下げることができる要素は、利益と純資産です。
役員退職金を損金算入することで、1株あたりの年利益金額が減少するとともに、1株あたりの簿価純資産価額も減少するので、類似業種比準価額を引き下げることができます。


Aさんが所有するX社本社土地をX社へ売却することを検討していますが、どのようなことをアドバイスしますか?

AさんとX社間の不動産売買は、会社法上の利益相反取引に該当するため、適切な手続きが必要です。具体的には、取締役会の承認決議や株主総会の承認、議事録の作成、適正な時価での取引があげられます。

取引価格について、Aさんは、譲渡価格が時価の2分の1未満であれば、時価で譲渡したものとみなされ、所得税が課税されます。
X社は、時価との差額が受贈益として法人税が課税されます。


相続財産の配分に偏りが生じることについてはどのようなことをアドバイスしますか?

遺言書を作成することや、遺留分に関する民法の特例の活用を検討するようにアドバイスします。

遺留分に関する民法の特例について説明してください。

事業承継による相続について、法定相続人の合意があれば、遺留分を減らせるという事です。
後継者に自社株式を集中して承継させようとしても、遺留分を侵害された相続人から遺留分に相当する財産の返還を求められた際、自社株式が分散してしまったり、資金不足になり業績が悪化し、廃業に追い込まれるということを避けるための制度です。

遺留分に関する民法の特例には、どのような種類がありますか?

合意の種類には、除外合意、固定合意の2つと、除外合意と固定合意を合わせた、付随合意の3つの種類があります。

除外合意について説明してください。

遺留分算定基礎財産から贈与等された株式等を除外するものであり、合意した他の相続人は、遺留分の主張ができなくなります。
その結果、相続による株式等の分散を防止できます。

固定合意について説明してください。

遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の価額に固定するものです。
この合意をすると、株式等の価額が上がっても遺留分額には影響しないので、想定外の遺留分の主張を防止できます。

固定する合意時の時価については、証明が必要ですか?

固定する合意時の時価は、合意の時における相当な価額であるとの税理士、 公認会計士、弁護士等による証明が必要です。

遺留分に関する民法の特例の適用を受けるために必要な、手続について教えてください。

遺留分に関する民法の特例の適用を受ける手続は、経営者の推定相続人全員と後継者が合意し、合意書を作成します。

次に、合意をした日から1カ月以内に「遺留分に関する民法の特例に係る確認申請書」に必要書類を添付して、経済産業大臣へ申請します。

申請後に確認書の交付を受け、確認を受けた日から1カ月以内に家庭裁判所に申立てを行い、家庭裁判所の許可を得ます。


長女Dさんの住宅購入に際し、資金面で協力してあげたいことに関してどのようなことをアドバイスしますか?

相続時精算課税制度と住宅取得資金贈与の非課税制度を併用し、Dさんへ建築資金を贈与することをアドバイスします。

住宅取得資金贈与の非課税制度について説明してください。

Aさんから住宅取得資金として贈与を受けた場合、取得する住宅が省エネ等住宅の場合で1,000万円、それ以外の住宅の場合は、500万円まで非課税になります。

住宅取得資金贈与の非課税制度は、令和5年12月31日までの期限から、令和8年12月31日まで、3年延長されました。


最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

AさんはX社の創業社長で、長男Cさんへの事業承継や遺産分割などの課題もあります。
事業承継や遺産分割に関して大まかなイメージは掴んでいますが、所有財産も多く期限付きの制度もあるため、早急に課題に着手する必要があります。その上で一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、事業承継税制特例、株価引き下げ対策、遺留分に関する民法の特例、住宅取得資金等贈与に関する設例でした。

この設例は、2025年5月25日に実施された「FP1級学科試験(応用編)」の【第5問】と同じシチュエーションでした。

2025年度 5月実施 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級学科試験(応用編)【第5問】 
非上場会社のX株式会社(以下、 「X社」という)の代表取締役社長であるAさん(70歳)の推定相続人は、妻Bさん(67歳) 、長男Cさん(42歳) 、長女Dさん(39歳)の3人である。Aさんは、先日、専務取締役である長男Cさんから今後のX社の業績拡大に係る構想を聞いたことで、X社の経営を早期に長男Cさんに任せることを決めた。
Aさんは、所有財産について、長男CさんにX社株式を贈与し、長女Dさんには住宅取得資金の贈与をする予定である。また、妻Bさんには自宅と相応の金融資産を相続させたいと考えている。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級学科試験 2025年5月 参考:技能検定試験問題の使用について


【第5問】《問65》の穴埋め問題は「遺留分の額」「遺留分に関する民法の特例」「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税」でした。

直前の学科試験もチェックしておくと出題される設例がわかるかもしれませんね。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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