2024年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2025年2月8日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。

それでは、設例をお読みください。

2024年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2025年2月8日)

●設 例●
 Aさん(69歳)は、首都圏でフランチャイズのコンビニエンスストアを営むX株式会社(非上場会社)の代表取締役社長である。最近、Aさんは健康に不安を感じており、そろそろ専務取締役である長男Cさん(45歳)に事業を承継して自身は身を引きたいと思っているが、X社株式の移転は進んでいない。時機をみて移転を進めたいと考えているが、昨年、日経平均株価が乱高下したことが、自社の株価にも影響があるのか気にかかっている。

 また、相続税評価額を引き下げるための株価対策として役員退職金の支給が有効であると聞いているが、支給額をどのように決めればいいのか、どのような課税が行われるのかわからない。今後の生活に備え、X社の資金繰りに影響を与えない範囲でできるだけ多くの役員退職金を受け取りたいと思っている。

 

 Aさんは、妻Bさん(69歳)と話し合い、現在住んでいる自宅を長男Cさんに贈与し、その自宅の住宅ローンも長男Cさんに引き継いで、妻Bさんと一緒に郷里に戻り、役員退職金を元手に新たに自宅を購入する計画である。40年以上連れ添った妻Bさんに、将来自宅ぐらいは残してあげたいとの気持ちから、贈与税の配偶者控除を活用することで贈与税が課されないのであれば、新たに取得する自宅の名義は妻Bさんにしたいと考えている。

 また、Aさんは、自身が契約者(=保険料負担者)および満期保険金受取人で長女Dさん(43歳)が死亡保険金受取人である養老保険について、郷里に戻った後は手続等を長女Dさんに任せたいと思っており、契約者(=保険料負担者)および満期保険金受取人を長女Dさんに変更する場合の課税上のアドバイスを求めている。

 長男Cさんと長女Dさんの関係は良好であり、Aさんとしてはなるべく公平に財産を残してやりたいが、妻Bさんが現預金および有価証券の過半を相続し、長男CさんがX社株式を相続した場合、相続財産が長男Cさんに偏ってしまう点を懸念している。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

現預金 1億1,000万円  
有価証券 4,400万円  
X社株式 2億5,600万円  
自宅      
  ①土地(240㎡) 4,000万円  
  ②建物 500万円  
借入金(住宅ローン) ▲4,500万円  
  合計 4億1,000万円  


※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億1,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
※自宅の土地の時価は6,000万円、建物の時価は1,500万円と見積もられている。
※Aさんは、契約者(=保険料負担者)・被保険者・満期保険金受取人をAさん、死亡保険金受取人を長女Dさんとする養老保険(保険金2,000万円)に加入している。

 

【X社の概要】

資本金:2,000万円 会社規模:中会社の大 従業員数:58人
売上高:13億円 経常利益:5,000万円 純資産:4億円
株主構成(発行済株式総数4万株):Aさん100%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額6,000円/株、純資産価額10,000円/株

 

【Aさんの家族構成(推定相続人)】

妻Bさん (69歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(45歳):X社の専務取締役。賃貸マンションに住んでいる。
長女Dさん(43歳):会社員。夫と子の3人で賃貸マンションに住んでいる。

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年2月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 日経平均株価が乱高下したことが、自社の株価にも影響があるのか気にかかっていること。
  • 役員退職金の支給額をどのように決めればいいのか、どのような課税が行われるのかわからないこと。
  • X社の資金繰りに影響を与えない範囲でできるだけ多くの役員退職金を受け取りたいと思っていること。
  • 現在住んでいる自宅を長男Cさんに贈与し、その自宅の住宅ローンも長男Cさんに引き継ぎ新たに自宅を購入すること。
  • 贈与税の配偶者控除を活用することで贈与税が課されないのであれば、新たに取得する自宅の名義は妻Bさんにしたいと考えていること。
  • 契約者および満期保険金受取人を長女Dさんに変更する場合の課税上のアドバイス。
  • 相続財産が長男Cさんに偏ってしまう点。

問題点は、

  • 長男Cさんに事業を承継したいと思っているが、X社株式の移転は進んでいないこと。
  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

日経平均株価が乱高下したことが、X社の株価に影響がありますか?

あります。

X社の会社規模は中会社の大なので、類似業種比準方式と純資産価額方式を併用する方式で評価額を求めます。

類似業種比準価額は、その企業と類似した上場企業の株価と連動するので、同業種の上場会社の株価が乱高下すると、自社の業績に変動がなくても株価に影響があります。


Aさんは、X社の資金繰りに影響を与えない範囲で、できるだけ多くの役員退職金を受け取りたいと思っています。
役員退職金の支給額をどのように決めればよいですか?

役員退職金の金額は、原則自由に決められます。
ただし、不当に高額と判断される部分は役員賞与の扱いとなり、税務上での損金算入ができません。
したがって、最終報酬月額に勤続年数、功績倍率を掛けた、功績倍率方式や、1年あたり平均額方式によって算出するのが一般的です。

役員退職金を受け取った場合には、どのような課税が行われますか?

役員退職金を一時金として受け取った場合は、課税退職所得金額×所得税率-退職所得控除額で算出されます。
退職所得控除額は、勤続年数が20年以下のときは、40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)、20年を超えるときは、800万円+70万円×(勤続年数-20年)で計算します。

年金形式で退職金を受け取る場合は雑所得の扱いになるので、受け取り期間中は毎年、課税対象になります。


現在住んでいる自宅を長男Cさんに贈与し、その自宅の住宅ローンも長男Cさんに引き継ぐ方法は、どんな方法がありますか?

負担付贈与か親族間売買によって引き継ぐ方法があります。

負担付贈与とはどういった方法ですか?

負担付贈与は、自宅を贈与する代わりに住宅ローンは引き継いでもらうという方法です。

負担付贈与では、受贈者が債務を履行するまでは贈与者が契約を解除することができます。
現在住んでいる自宅を長男Cさんに渡したのに、住宅ローンの返済を履行しない場合は、Aさんはこの契約を解除して自宅を取り戻すことが可能です。

贈与税はどのように計算しますか?

負担付贈与にかかる贈与税を計算する場合は、贈与された財産の価額から受贈者が負担する債務額を差し引いて計算します。

贈与される財産が現金や預貯金のみの場合は、額面がそのまま評価額となりますが、不動産を贈与する場合は、負担付贈与では時価によって贈与税を計算する必要があります。

Aさんの税負担はありませんか?

負担付贈与した自宅の取得費よりもCさんが負担する住宅ローンの方が大きい場合には、Aさんにその差額分の譲渡所得があったとされるため、所得税や住民税が課税されます。

親族間売買とはどういった方法ですか?

親族間売買とは、親子間等の親族間で自宅などの不動産を売買する方法です。

親族間売買の注意点を教えてください。

売買価格が時価よりも著しく低い場合には、差額分が贈与したものとみなされ、贈与税が課せられることがあります。

Aさんの税負担はありませんか?

売買価格が時価よりも高いと、Aさんに譲渡所得税が課せられます。
第三者に自宅を売却した場合は、居住用財産の3,000万円特別控除が使えますが、親族間売買の場合には、この3,000万円特別控除が使えません。

他に注意点はありませんか?

親族間売買では住宅ローンの審査が通りにくいことも注意点としてあげられます。
住宅ローンで借りたお金を別の用途に使う可能性があるため、親族間売買での住宅ローンの利用は審査が厳しくなる傾向があります。


贈与税の配偶者控除の特例について説明してください。

婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、贈与税の申告をすることにより基礎控除額110万円のほかに最高2,000万円まで控除できるという特例です。

贈与税の配偶者控除の注意点を教えてください。

不動産を取得すると不動産取得税や登録免許税がかかることです。
同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用を受けることができず、配偶者が先に亡くなると相続税が増える可能性があります。


養老保険の契約者および満期保険金受取人を、長女Dさんに変更する場合の課税関係を教えてください。

契約者および満期保険金受取人を変更した時点で課税されることはありませんが、保険金などを受け取るときは適用される税金が変わります。

死亡保険金にかかる税金は、Aさんの負担した保険料に相当する部分は相続税の課税対象となりますが、契約者を変更しDさんが負担した保険料に相当する部分については、所得税・住民税の課税対象となります。

満期保険金にかかる税金は、Aさんの負担した保険料に相当する部分が贈与税の課税対象となり、Dさんの負担した保険料に相当する部分については、所得税・住民税が課税対象になります。


相続財産が長男Cさんに偏ってしまうことについてどのようなアドバイスをしますか?

相続財産の偏りを解消するためには、遺留分を考慮した遺言書を作成することや、遺留分に関する民法の特例を適用したり、生前贈与を行うなどをアドバイスします。


最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんは健康に不安を感じており、長男Cさんに事業を承継して自身は身を引きたいと思っていますが、株式移転は進んでいません。
自宅の贈与や生命保険の変更など、CさんDさんにも直接関係することも多いので、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、非上場株式(取引相場のない株式)の評価方法、役員退職金、負担付贈与、生命保険の契約者・受取人の変更に関する設例でした。

他にも、事業承継税制や株価引き下げ対策、遺言書の種類や遺留分に関する民法特例など、この設例で予想される質問は盛りだくさんです。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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