公開日 2025年3月5日 最終更新日 2025年3月6日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
地方都市のN市に住むAさん(78歳)は個人で不動産賃貸業を営んでおり、自宅兼賃貸マンションと賃貸アパートから年間2,000万円の家賃収入を得ている。Aさんの家族は、妻Bさん(72歳)、長男Cさん(43歳)、長女Dさん(39歳)の3人である。
自宅兼賃貸マンションは、Aさんが、父親から相続した戸建て住宅を取り壊し、その土地の一部を売却した資金をもとに10年前に建築した8階建て1棟であり、最寄駅まで徒歩5分の立地にある(ローンの返済は終わっている)。1階は貸店舗、2階から6階までを居住用として賃貸しており、Aさんと妻Bさんが7階に、長女Dさん家族が8階に住んでいる。建築後から現在まで入居率は100%であり経営に問題はないが、最近、貸店舗に入居するテナントの法人から、賃借料についてインボイスがほしいと言われており、消費税の課税事業者でないAさんは、どのように対応すればよいのかわからないでいる。
一方、郊外にある賃貸アパートは父親から相続したものであるが、築55年で建築設備の不具合が発生するようになり、維持管理に手間と費用がかかっている。入居率もかなり下がっているため、更地にして青空駐車場にでもしてしまおうかと悩んでいる。
Aさんは、相続対策として、5年前から長男Cさんの子ども2人(7歳と5歳)と長女Dさんの子ども2人(10歳と8歳)に毎年110万円ずつ贈与している。数日前、友人から、「毎年贈与する場合は、定期贈与とみなされないように注意したほうがよい」と言われたため、毎年110万円を孫たちに贈与し続けるとしたらどのようなことに注意したらよいのか知りたいと思っている。また、加入している生命保険について、保険会社の担当者から受取人の変更ができると聞いたが、相続対策において受取人を妻Bさんから変更するとどのような影響があるのか知りたいと思っている。
【Aさんの家族構成】
妻Bさん (72歳):専業主婦。Aさんと自宅兼賃貸マンションで同居している。
長男Cさん(43歳):公務員。妻と子2人(7歳と5歳)の4人で官舎に居住している。
長女Dさん(39歳):専業主婦。夫と子2人(10歳と8歳)の4人で自宅兼賃貸マンションの8階に居住している(使用貸借)。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
⒈ 現預金 : 7,700万円 ⒉ 自宅兼賃貸マンション ①土地(400m²) : 1億2,000万円 ②建物(築10年、各階150㎡) : 7,000万円 (年間家賃収入1,800万円) ⒊ 賃貸アパート : ①土地(300㎡) : 1,000万円 ②建物(築55年、10部屋) : 300万円 (年間家賃収入200万円) 合計 : 2億8,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約5,000万円(配偶者の税額軽減、小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。※賃貸アパートは空室が多く、現状有姿での売却予想価格は2,000万円である。
※Aさんは、契約者(=保険料負担者)・被保険者をAさん、死亡保険金受取人を妻Bさんとする生命保険(死亡保険金1,500万円)に加入している。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年2月 参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として
問題点は、
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
Aさんは自宅兼賃貸マンションと賃貸アパートから年間2,000万円の家賃収入を得ていますが、消費税の課税事業者ではありません。消費税の免税事業者について教えてください。
消費税の免税事業者とは、消費税の納税義務を免除されている事業者のことで、課税期間の基準期間中における課税売上高が1,000万円以下の場合、事業者に対して納税義務は課せられません。
Aさんの自宅兼賃貸マンションは、1階は貸店舗、2階から6階までを居住用として賃貸しています。
個人向けに賃貸経営をしている場合の家賃や敷金等は、非課税売上として扱われるため課税売上が1,000万円以下となり、消費税の課税事業者ではないのだと思います。
インボイス制度について説明してください。
インボイス制度とは、消費税率が複数税率になったことで導入された仕入税額控除の方式です。
消費税は、売上げに係る消費税から仕入れに係る消費税を差し引いて計算します。この差し引く計算を仕入税額控除と言います。
インボイス発行事業者の登録を受けると、課税事業者として消費税の申告が必要になります。
登録しないとどうなりますか?
インボイスを交付できないので、取引先が仕入れや経費について仕入税額控除ができません。
ただし、経過措置として、令和8年9月30日までは課税仕入れの80%、令和8年10月1日から令和11年9月30日までは課税仕入れの50%を仕入税額控除できることとなっています。
Aさんは消費税の課税事業者でないままでいれば、これまでと同様に消費税の納付が免除され、消費税の確定申告を行う必要もありません。
ただし、テナント賃料は消費税の課税対象なので、貸店舗に入居するテナントの法人は支払った消費税額が仕入税額控除の対象外となります。
テナントの法人から消費税分の値下げなどが求められたり、取引自体を打ち切られてしまったりする可能性があります。
登録してよいものか判断基準を教えてください。
インボイス登録するかどうかの判断は、売上先や取引状況、将来の事業戦略などを踏まえて総合的に検討する必要があります。
売上先が一般消費者のみの場合は仕入税額控除は不要なのでインボイス登録する必要はありません。
売上先が事業者でも、その事業者が免税事業者や簡易課税を選択している事業者なら仕入先からのインボイスは不要なのでインボイス登録する必要がない場合もあります。
Aさんは、郊外にある賃貸アパートを、更地にして青空駐車場にでもしてしまおうかと悩んでいますがどのようにアドバイスしますか?
固定資産税や相続税などに影響があるので、希望する収益や利回り、将来の相続税対策などを考慮して判断するようにアドバイスします。
固定資産税についてはどのような影響がありますか?
賃貸アパートの場合、小規模住宅用地の軽減が受けられ、固定資産税の課税標準は1戸当たり200㎡まで評価額の6分の1、都市計画税の課税標準は同じく3分の1となります。
駐車場の場合は、住宅用地の軽減が適用されないため、固定資産税や都市計画税の負担が大きくなってしまいます。
相続税についてはどのような影響がありますか?
青空駐車場は、自用地として扱われます。
賃貸アパートが建っている土地は貸家建付地として相続税評価が軽減されるので、自用地として相続するよりも課税価格を圧縮することができます。
ただし、貸家建付地の計算には賃貸割合が影響するので、満室のアパートであれば、貸家建付地の評価減を最大に受けられますが、入居率が下がるほど評価減が縮小します。
賃貸アパートは貸付事業用宅地等として、小規模宅地等の特例の対象になります。要件を満たすと200㎡までの部分の評価額を50%減額できます。
青空駐車場の場合は、貸駐車場が事業として認められなければなりません。砂利敷きの青空駐車場では認められないため、アスファルト舗装など特例の条件を満たすための条件を備えておく必要があります。
毎年110万円を孫たちに贈与し続けるとしたら、どのようなことに注意したらよいですか?
定期贈与とみなされないように注意します。
定期贈与とは毎年一定の金額を贈与することが決まっている贈与のことです。
定期贈与の場合は毎年の贈与金額が110万円以下であっても、贈与額の合計に対して定期金に関する権利の贈与を受けたものとして贈与税がかかります。
定期贈与とみなされないためには、生前贈与を行う度に贈与契約書を作成します。
契約書を交わすということで、その都度、贈与契約の合意をしたということにもなるので、定期贈与とみなされにくくなります。
毎年、同じ時期に同じ金額を贈与すると、定期贈与とみなされる可能性が高くなります。
時期や金額を変えて贈与することでも定期贈与とみなされにくくなります。
Aさんは、契約者(=保険料負担者)・被保険者をAさん、死亡保険金受取人を妻Bさんとする生命保険に加入しています。
この生命保険について、相続対策において受取人を妻Bさんから変更するとどのような影響がありますか?
相続人以外に変更すると、その人が取得した死亡保険金には非課税の適用がありません。
死亡保険金にかかる税金の種類は、契約者、被保険者、受取人の関係によって異なります。
被保険者と契約者が同一人の場合、死亡保険金は相続税の対象になります。
相続人が死亡保険金を受け取る場合、500万円 × 法定相続人の数までの金額は非課税となりますが、相続人以外の人が取得した死亡保険金には、非課税の適用はありません。
最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさん所有財産は不動産が多く、不動産賃貸業の事業承継や遺産分割などの課題もあります。
生前贈与を行うなど相続対策にも積極的に取り組んでいるので、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、インボイス制度、賃貸アパートと駐車場の違い、定期贈与、生命保険の課税関係に関する設例でした。
相続・事業承継というよりもタックスプランニングの分野からの出題でしょうか?
タックスプランニングは全分野に関連するので、学科試験後も改正内容などを中心に復習しておきましょう。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。