公開日 2024年10月10日 最終更新日 2024年10月25日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(60歳)は、三大都市圏にあるM市内の戸建て住宅で妻と2人で暮らしている。母親は3年前に他界しており、父親も1年前に死亡し、相続人であるAさんと妹Bさん(58歳)がM市内にある甲土地を各2分の1の持分で相続した。甲土地は、父親が50年前に家具販売店を創業した土地であるが、Aさんと妹Bさんは、市場環境の変化のため事業は承継せず、廃業して跡地の有効活用を検討している。そのような折、家具販売店の閉店の現況と登記記録から相続されたことを知ったX社とY社から跡地の有効活用の提案を受けた。
【甲土地の概要】
- 所在:既成市街地であるM市内のS駅から徒歩5分の商店街に所在する。
- 地積:600㎡(間口20m、奥行30mの整形地)、固定資産税評価額:2億1,000万円
- 周辺環境:家具販売店の創業当時、周辺には空き地もあったが、現在は5~6階建ての店舗や事務所、共同住宅等が立ち並び、甲土地はビルの谷間になっている。
【X社の提案内容】
- 甲土地に、借地期間30年の事業用定期借地権方式によりドラッグストアとクリニックが入居する鉄骨造2階建て店舗(延べ面積1,000㎡)を建築する。
- X社は、Aさんと妹Bさんに合計で年間地代1,080万円を支払い、保証金540万円を差し入れる。固定資産税と都市計画税を支払った後のAさんと妹Bさんの1人当たりの手取額は360万円。
【Y社の提案内容】
- 甲土地に、等価交換方式により鉄筋コンクリート造8階建てのマンションを建築し、Y社の取得する部分は分譲マンションとする。
- マンションは、延べ面積2,400㎡、専有面積2,100㎡、Y社の資金負担10億円
- Aさんと妹Bさんが取得する合計専有面積420㎡、満室想定賃料年額1,440万円、年間維持管理費360万円(固定資産税、都市計画税、マンション管理費・修繕積立金、損害保険料等)。Aさんと妹Bさん1人当たりの年間手取額は540万円。
Aさんには独立して生計を立てている長男と二男が、妹Bさんには長女がいるため、Aさんと妹Bさんは、将来を考えれば甲土地の共有状態は解消したいと思っている。また、Aさんは甲土地の活用により安定した収益を得たいと考えており、妹Bさんは、甲土地のうち3,000万円相当部分を売却し、その売却後の手取額をM市内のアパートに住む長女夫婦のマイホームの購入支援に充てたいと考えており、具体策では意見が一致していない。
Aさんは、Aさんと妹Bさんの跡地利用の考えを実現させるため、X社とY社の提案内容の問題点の指摘と、計画案をどう変更すべきかFPであるあなたに相談することとした。
(FPへの質問事項)
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報 X社が提案する事業用定期借地権方式のメリットとAさんと妹Bさんにとっての問題点を教えてください。また、その問題点を解決するためにどのような計画案の変更が考えられますか。 Y社が提案する等価交換方式によりマンションを建設することのメリットとAさんと妹Bさんにとっての問題点を教えてください。また、その問題点を解決するためにどのような計画案の変更が考えられますか。 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年9月 参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
健康状態や今後のライフプラン。
ご家族の意向。
資産状況。
相続税対策は検討しているか。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
⑷市場調査として
X社とY社の取引事例や財務状況を確認すること。
店舗やマンション用地としての需要を、地元の不動産業者等で確認します。
X社が提案する事業用定期借地権方式のメリットとAさんと妹Bさんにとっての問題点を教えてください。また、その問題点を解決するためにどのような計画案の変更が考えられますか。
事業用定期借地権方式とは、契約期間を10年以上50年未満で定め、契約期間満了時には建物が取り壊され、土地が確実に返還されます。
メリットは、土地の所有権を移転せず、期間の更新もなく更地返還されること。建物投資が不要で借入金の返済リスクがなく、安定した収益をあげることができます。
Aさんにとっての問題点を教えてください。
Aさんにとっての問題点は、甲土地は共有状態が継続することです。
妹Bさんにとっての問題点を教えてください。
妹Bさんにとっての問題点は、長女夫婦のマイホームの購入支援金が得られないことです。
問題点を解決するためにどのような計画案の変更が考えられますか。
甲土地の共有状態を解決する変更案として、妹Bさんが所有する甲土地の持分をAさんが買取り、Aさん単独でX社と契約するような計画案の変更が考えられます。
Aさんが単独で契約すると地代収入は増えます。
Aさんの資産状況はわかりませんが、妹Bさんの持分を借入金をして買い取っても、地代収入の一部を返済に利用できるので返済計画が立てやすくなります。
妹Bさんの問題点も、Bさんの持分をAさんが買取ることで、Bさんはまとまった資金を得ることができます。
二人の問題点を解決するために、妹Bさんの持分をAさんが買取り、Aさん単独でX社と契約するような計画案の変更が考えられます。
Y社が提案する等価交換方式によりマンションを建設することのメリットを教えてください。
等価交換方式とは、土地をデベロッパーに譲渡し、代わりに建物を建ててもらい、土地の所有者は建物の価値に対する土地の価値の分だけ、建物や不動産を所有することができる土地活用の方法です。
等価交換のメリットは、土地所有者は建築費用を出さずに建物を得られることや、建物のための手続きや建設をデベロッパーがすべて行ってくれるため、土地の所有者は建物建築に関する費用が不要なだけでなく、手続きに時間を取られることがありません。
地上3階以上の中高層の耐火共同住宅など、条件が合えば、立体買い替えの特例の適用を受けることができるので、譲渡益に係る所得税の課税を繰延べることができます。
Aさんにとっての問題点を教えてください。
Aさんにとっての問題点は、甲土地は共有状態が継続することです。
その問題点を解決するためにどのような計画案の変更が考えられますか。
等価交換ではそれまで所有していた土地も、デベロッパーと共有することになりますが、最終的にどのように持ち合うかは、デベロッパーとの協議次第となります。
土地の全部をデベロッパーに提供し、売却した土地の価格に相当する建物の区分所有権を得るような計画案の変更が考えられます。
妹Bさんにとっての問題点を教えてください。
妹Bさんにとっての問題点は、長女夫婦のマイホームの購入支援金が得られないことです。
その問題点を解決するためにどのような計画案の変更が考えられますか。
デベロッパーと協議し、受け取るマンションの持ち分を減らし、代わりに現金を受け取るような計画案の変更が考えられます。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、土地の有効活用、事業用定期借地権方式、等価交換方式に関する設例でした。
土地の有効活用は2級の学科試験でもよく出題されます。
学科試験と異なり実技試験の場合だと、いろいろな有効活用の内容を理解してニーズに合ったアドバイスを考える必要があります。
アドバイスの根拠をFPとしてしっかり説明できた方が良いですね。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。