2024年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2024年9月29日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2024年10月9日 最終更新日 2024年10月24日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。

それでは、設例をお読みください。

2024年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2024年9月29日)

●設 例●
 Aさん(70歳)は、社団医療法人Xクリニックの理事長である。父親から引き継いだ内科医業を2002年4月に法人化し、理事長として勤務している。また、弟Eさん(65歳)も理事・小児科医としてXクリニックに勤務している。現在、Xクリニックの社員は、Aさん、妻Bさん(63歳)、弟Eさんの3名であり、出資持分はAさんが100%有している。

 Aさんは、Xクリニックに内科医として勤務している長男Cさん(35歳)への事業承継や出資持分の相続・贈与対策のため、2024年の4月にXクリニックの持分なし医療法人への移行計画を厚生労働大臣に提出し、認定医療法人の認定を受けている。現在、Aさんは出資持分の放棄はしていない。

 Aさんは、長男CさんにはXクリニック関連資産を承継させ、長女Dさん(33歳)にも相応の資産を承継させたいと考えているが、出資持分の放棄をする前に相続が発生した場合、長女Dさんの遺留分が気になっており、医療法人にも遺留分に関する民法の特例を適用することができないか知りたいと思っている。さらに、老朽化が進んだ自宅を長男Cさん家族との二世帯住宅に建て替えることを検討している。

 なお、Aさんは、4人の孫に対してジュニアNISAを利用して資金を拠出し、管理をしていたが、制度終了後も孫に対する贈与を継続するつもりであり、ジュニアNISA口座内にある投資信託をいつまで非課税で保有することができるのか、贈与税の改正を受けてどんな生前贈与を行えばよいのか知りたいと思っている。

 

【Aさんの家族構成(推定相続人)】

妻Bさん (63歳):Xクリニックの理事・社員。
長男Cさん(35歳):内科医。Xクリニックに勤務。妻と2人の子の4人で賃貸マンションに住んでいる。
長女Dさん(33歳):夫(会社員)と2人の子の4人で都内の持家に住んでいる。

 

【Xクリニックの概要】

年 商 :1億2,000万円
資本金(出資金):4,000万円(40,000口)、利益剰余金:1億円
出資持分:Aさん100%(40,000口) 会社規模:中会社の小
出資持分の相続税評価額:類似業種比準価額2,000円/口、純資産価額4,000円/口

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

現預金 8,000万円  
有価証券 4,200万円  
自宅      
  ①土地(200m²) 5,000万円  
  ②建物(築35年) 1,500万円  
Xクリニック出資持分 1億1,200万円  
Xクリニック      
  ①土地(400㎡) 1億1,000万円  
  ②建物(築20年) 8,000万円  
  合計 4億8900万円  


※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億2,600万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年9月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 長女Dさんの遺留分が気になっている。
  • 医療法人にも遺留分に関する民法の特例を適用することができないか知りたい。
  • 自宅を長男Cさん家族との二世帯住宅に建て替えることを検討している。
  • ジュニアNISA口座内にある投資信託をいつまで非課税で保有することができるのか。
  • 贈与税の改正を受けてどんな生前贈与を行えばよいのか知りたい。

問題点は、

  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 納税資金の確保。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

長女Dさんの遺留分が気になっているということですが、遺留分について説明してください。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人が最低限相続できる割合を定めたもので、民法で定められています。
遺言書に全財産を寄付するなどの指定があっても、遺留分を侵害することはできません。

遺留分の割合は、相続人が直系尊属のみの場合は法定相続割合の3分の1となり、それ以外の場合は2分の1です。

遺留分に関する民法の特例について説明してください。

事業承継による相続について、法定相続人の合意があれば、遺留分を減らせるという事です。
後継者に自社株式を集中して承継させようとしても、遺留分を侵害された相続人から遺留分に相当する財産の返還を求められた際、自社株式が分散してしまったり、資金不足になり業績が悪化し、廃業に追い込まれるということを避けるための制度です。

遺留分に関する民法の特例の適用を受けるために必要な、手続について教えてください。

遺留分に関する民法特例の適用を受ける手続は、経営者の推定相続人全員と後継者が合意し、合意書を作成します。

次に、合意をした日から1カ月以内に「遺留分に関する民法の特例に係る確認申請書」に必要書類を添付して、経済産業大臣へ申請します。

申請後に確認書の交付を受け、確認を受けた日から1カ月以内に家庭裁判所に申立てを行い、家庭裁判所の許可を得ます。

医療法人にも遺留分に関する民法の特例を適用することができますか?

遺留分に関する民法の特例は、医療法人には適用されません。

特例の適用要件は、中小企業であること、合意時点において3年以上継続して事業を行っている非上場企業であることです。
医療法人や社会福祉法人、外国会社は中小企業者に該当しないので、遺留分に関する民法の特例は適用できません。


老朽化が進んだ自宅を、長男Cさん家族との二世帯住宅に建て替えたいと考えていますが、二世帯住宅の場合でも、小規模宅地の特例は適用できますか?

適用できます。
二世帯住宅に立て替えた場合でも、同じ棟の建物に親と子が住んでいることや、建物の敷地の名義がAさんであること、長男CさんはAさんに家賃を払っていないこと、区分所有登記されていないことなどの要件を満たすことで、小規模宅地の特例は適用できます。


ジュニアNISA口座内にある投資信託は、いつまで非課税で保有することができますか?

ジュニアNISAで投資した商品については、5年間の非課税期間終了後、自動的に継続管理勘定に移管され、18歳になるまで非課税で保有することができます。

ジュニアNISAは、原則として18歳まで払い出しができませんでしたが、2024年1月からは、いつでも非課税で払い出しができます。

ただし、一部のみを引き出すことはできず、全額払い出しをした後に口座は廃止となります。


贈与税の改正を受けてどんな生前贈与を行えばよいのか知りたいとありますが、相続税制・贈与税制の変更された内容について教えてください。

2023年度の税制改正により特に注意したい点としては、生前贈与加算が延長されることや、相続時精算課税制度の見直しなどがあげられます。

生前贈与加算の適用期間の延長について説明してください。

生前贈与した場合は、亡くなる3年前までの贈与財産に対して全額が相続税の課税対象となりますが、2023年度の税制改正により、2024年1月1日以降に生前贈与した場合は、亡くなる4~7年前の贈与財産に対しては100万円を除いた全額、亡くなる3年前までの贈与財産に対しては全額が相続税の課税対象となります。

生前贈与加算対象期間が延長されることで、相続開始から7年以内に行われた生前贈与に対しては相続財産に加算されることがあります。そのため、実質的には増税となり、相続・贈与を受けた方の税負担が増える可能性もある点に注意が必要です。

相続時精算課税制度の見直しについて教えてください。

今回の改正で相続時精算課税制度に、年110万円の基礎控除の枠が加わります。2024年1月1日以降、相続時精算課税制度を選択した人への贈与でも、年110万円までなら贈与税も相続税もかからず、贈与税の申告も不要になります。

どんな生前贈与を行えばよいと思いますか?

長男CさんがXクリニック関連資産を承継し、相続財産の多くをCさんが相続すると、長女Dさんの不満が出る可能性があります。
孫に対する贈与は継続するつもりとあるので、教育資金一括贈与を活用し、積極的に生前贈与を行うとよいと思います。


最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

Aさんは事業承継や出資持分の相続・贈与対策のため、認定医療法人の認定を受けています。
事業承継や相続対策にも積極的に取り組んでいるので、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、遺留分、遺留分に関する民法の特例、ジュニアNISA、生前贈与に関する設例でした。

設例を開いたときに医療法人と書いてあったので、出資持分に関することや、認定医療法人に関する内容かと思いましたが、最後まで読んでみても出資持分などの医療法人特有の質問は思いつきませんでした。

試験では医療法人に関する質問があったのでしょうか?

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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