公開日 2024年7月13日 最終更新日 2024年8月2日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(90歳)は、三大都市圏のS市内に所在する甲土地と乙土地を所有している。甲土地は1990年10月からカーディーラーのX社に旧借地法による期間40年の借地契約により店舗敷地として賃貸している。また、乙土地には1980年10月に自宅として乙建物を構え、子が独立し、3年前に妻が亡くなった後は、1人で暮らしている。Aさんの子は、長男Bさん(60歳)と二男Cさん(58歳)の2人であり、いずれも隣県のT市内にある分譲マンションで妻子と暮らしており、S市に戻る予定はない。Aさんは、認知能力にはまったく問題はないものの、要介護1の要介護認定を受けており、子の勧めもあって、近々T市内にある介護付き有料老人ホームに入居する予定である。
先日、AさんのもとにX社から連絡が入り、X社の担当者が来訪した。子の立会いのもとで話を聞くと、「賃借している甲土地の南側にある県道は、かつては幹線道路でしたが、3年前にバイパス道路が開通して以来、車の流れが変わってしまい、社内で検討を重ねた結果、店舗をバイパス道路沿いに移転することになりました。そこで、借地契約の期限は2030年9月ですが、2025年9月をもって契約を解約させてください。その際、店舗を無償でAさんに譲り渡すか、解体して更地返還するか、どちらでもかまいません」とのことであった。
後日、Aさんは、子とともに地元の不動産会社を訪問して今後のことを相談したところ、「当該エリアは、沿道サービス施設の敷地としての需要はなくなってきましたが、マンション用地としての需要は多く、甲土地と乙土地の一体地であれば、マンションディベロッパーに3億5,000万円程度で売却することができると思います」との説明を受けた。Aさんは、老人ホームへの入居を機に、甲土地と乙土地を売却してもかまわないと思っている。
【Aさんの所有財産の概要】
- 現預金:1,000万円(10年前から長男Bさん家族、二男Cさん家族にそれぞれ毎年300万円贈与している)
- 甲土地:地積1,500m²。X社に期間40年の借地契約により店舗敷地として賃貸している。契約書に中途解約に関する条項はない。現在の地代は年額1,200万円で、固定資産税・都市計画税は年間220万円。X社の店舗は軽量鉄骨造平屋建て。
- 乙土地:地積300m²
- 乙建物:木造2階建て、築43年、延べ面積165m²
※入居予定の介護付き有料老人ホーム:年間費用360万円(賃料、管理費、食費、日用品等)
(FPへの質問事項)
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報 Aさんは、X社からの借地契約の解約の申入れに応じる必要がありますか。 乙土地について、Aさんが老人ホームに入居後に売却する場合の課税関係はどうなりますか。また、老人ホームに入居したAさんが亡くなった後、相続人である子が売却する場合の課税関係はどうなりますか。 あなたはAさんや長男Bさん、二男Cさんにどのようなアドバイスをしますか。 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年6月 参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
健康状態や書類の記入ができるか。
長男Cさんや二男Cさんの意向。
今後のライフプラン。
相続税対策は検討しているか。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
⑷市場調査として
X社の取引事例や財務状況を確認すること。
マンション用地としての需要を、地元の不動産業者等で確認します。
Aさんは、X社からの借地契約の解約の申入れに応じる必要がありますか?
必ずしも応じる必要はありません。
契約書に中途解約に関する条項はないので、借地契約期間中の中途解約は原則できません。
中途解約条項がなくても、賃借人と賃貸人の間で合意ができれば、中途解約をすることは可能です。
ただし、中途解約条項がない場合は、高額の解約承諾料の支払いが発生します。
例外的に中途解約できるケースはありませんか?
借主側が例外的に中途解約できるケースは、災害や老朽化などが原因で建物が使えなくなり、取り壊さなければならなくなった場合です。
貸主側が例外的に中途解約できるケースは、契約違反などがあった場合です。
借主が無断で許可していない建物を建てた場合などは、貸主から中途解約を申し出ることができます。
乙土地について、Aさんが老人ホームに入居後に売却する場合の課税関係はどうなりますか?
居住用財産の3,000万円特別控除と、10年超所有の軽減税率が適用できます。
居住用財産の3,000万円特別控除とは、居住用財産を譲渡した場合、一定の条件のもとで譲渡所得から最大3,000万円まで控除することができる制度です。
以前に住んでいた家屋や敷地等の場合に、この特例を受けるには、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることなどの条件を満たす必要があります。
老人ホームなどの施設へ入所した場合でも、この期間内に売却すると居住用財産の3,000万円控除が適用できます。
10年超所有の軽減税率とは、10年以上所有する居住用財産を譲渡し、譲渡所得が生じた場合、6,000万円以下において軽減税率の適用を受けることができます。
老人ホームに入居したAさんが亡くなった後、相続人である子が売却する場合の課税関係はどうなりますか?
相続空き家を譲渡した場合の3,000万円の特別控除が適用できます。
一人暮らしだった被相続人が死亡した日以後、3年を経過した日の属する年の12月31日までに、相続によって取得した空き家を譲渡したときは、その空き家を譲渡して得た利益から3,000万円を控除できる制度です。
平成31年度税制改正により、被相続人が亡くなる直前に老人ホームなどに入所している場合でも、要介護認定を受けていることや、自宅を貸し付けたりほかの者の居住用などに使用したりしていないといった要件を満たすことで特例の適用を受けられるようになりました。
令和6年1月1日以後に行う譲渡に適用される要件を教えてください。
特例の対象となる譲渡について、耐震改修工事を行うか取壊し後の土地を譲渡した場合が対象でしたが、譲渡後、譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修工事又は取壊しを行った場合でも適用対象に加わることとなりました。
相続人が3人以上いるケースでは、控除額が1人あたり2,000万円に引き下げられますので、この点には注意が必要です。
あなたはAさんや長男Bさん、二男Cさんにどのようなアドバイスをしますか?
甲土地や実家を売却することで手元の現金が増えた場合は、相続税が高くなってしまう可能性があります。
土地と建物の相続税評価額は時価よりも低くなることがほとんどですが、現金はそのまま評価されます。
甲土地は地積規模の大きな宅地の評価を適用できるので、甲土地や実家を売らないほうが相続税評価額は低くなり税額も低くなる場合があります。
土地を売却するのではなく有効活用する方法を検討できないか、Aさんの相続税額を専門家とシミュレーションしてアドバイスします。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、借地契約、居住用財産の3,000万円特別控除、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除、地積規模の大きな宅地の評価に関する設例でした。
FPへの質問事項に「どのようなアドバイスをしますか?」という質問があります。
今回の設例の場合だと、土地を売るのか、保有し続けるのかについてのアドバイスだと思いますが、良い悪いは設例の内容だけでは判断できない場合もあります。
アドバイスの根拠をFPとしてしっかり説明できた方が良いですね。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。