合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(45歳)は大手電気部品メーカーに勤務し、三大都市圏近郊のY市内にある自宅で妻Bさん(44歳)と2人で暮らしている。Aさんの両親は、自宅から車で1時間程度離れたT市内にある実家で暮らしていたが、5年前に母親が亡くなり、1年前に父Cさんが亡くなった。父Cさんの相続における法定相続人は、Aさんと兄Dさん(47歳)の2人である。兄弟で話し合った結果、兄Dさんが実家の土地建物を、Aさんが実家の近くにある甲土地および甲建物(賃貸アパート)を相続し、現預金等の金融資産は等分することになった。甲建物は古いアパートを建て替えたもので、空室時の賃貸募集は地元の不動産会社に任せていたが、賃借人からの入金管理は父Cさんが行っていた。
その甲建物の102号室で家賃の滞納があり、Aさんは頭を悩ましている。
【甲土地および甲建物(賃貸アパート)の概要】
- 甲土地:地積120m²、第一種住居地域、指定建蔽率60%、指定容積率200%
- 甲建物:木造2階建て、築18年(2006年2月竣工)、延べ面積120m²、1DKタイプ(専有面積30m²)×4戸、現在の月額賃料7万5,000円(平均)
【賃貸アパートの家賃滞納者に関する情報】
- 102号室の賃借人であるEさん(35歳)が家賃を4カ月間滞納している。Eさんの話によれば、勤務先が倒産して失業してしまったことが原因とのことである。
- Eさんは、Eさんの前に102号室に居住していたFさんの友人で、Fさんから直接父Cさんに、自分の退去後はEさんが賃借したい旨の申入れがあった。父Cさんは、空室期間が生じないことから、不動産会社を通さずにEさんの入居を認め、2021年1月にEさんと賃貸借契約を締結した。その際、契約書は、Fさん入居時の内容で父Cさんが作成した。また、Eさんの父Gさんが連帯保証人となり、契約書上、連帯保証債務の範囲は「借主の貸主に対する一切の債務」となっている。
- Aさんが、先々週、直接Eさんと会って話したところ、「預金もなくて生活が苦しい。引っ越す費用もないので、もうしばらくここに居させてほしい」と悪びれずに言われ、早期に退去する様子が見られなかった。
このような状況のもと、Aさんは、連帯保証人のGさんに家賃滞納分を支払ってもらえるのか、このままEさんが居座った場合はどのように対応すればよいのかわからず、FPであるあなたにアドバイスを求めている。なお、Aさんは、賃貸管理に煩わしさを強く感じ、いっそのこと甲土地および甲建物を売却してしまうことも考えている。
(FPへの質問事項)
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報 Aさんは、GさんにEさんの家賃滞納分の支払を求めることができますか。 Eさんの退去を求めるには、どのような方法が考えられますか。 甲建物のような収益物件(賃貸アパート)を売却する場合、どのような書類を揃えておくとよいでしょうか。 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年6月 参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
賃貸アパートの入居率や入居者との関係は良好か。
Aさんの資産状況。
今後のライフプラン。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
⑷市場調査として
収益物件の売却や賃貸アパートの家賃相場、稼働率などを、地元の不動産業者等で確認します。
Aさんは、GさんにEさんの家賃滞納分の支払を求めることができますか。
Gさんに家賃滞納分の支払を求めることはできません。
2020年4月1日から賃貸借契約に関する民法のルールが変わりました。
今回の法改正では、極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約(不動産の賃借人の一切の債務の保証)は無効とするというルールが新たに設けられました。
個人が保証人になる根保証契約については,保証人が支払の責任を負う金額の上限となる極度額を定めなければ保証契約は無効となります。
極度額は書面に記載しておかなければなりません。
Eさんと賃貸借契約を締結したのは、2021年1月なので極度額を定めなければ保証契約は無効となります。
Eさんの退去を求めるには、どのような方法が考えられますか?
まずは、Eさんの意思を確認し、公的な支援制度の利用を勧めることや家賃の分割払いを提案し、Eさん自身に支払い能力がなければ、連帯保証人に連絡や催促をします。
それでも滞納が続く場合は、任意の明渡しを請求します。
しかし、話し合いで問題が解決しない場合は、最終手段として法的措置を取らざるを得ません。
家賃滞納の解決手段として用いられる法的措置としては、支払督促、少額訴訟、明け渡し請求訴訟といった方法があります。
甲建物のような収益物件(賃貸アパート)を売却する場合、どのような書類を揃えておくとよいでしょうか?
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料。
不動産移転登記の際に必要な、権利証、登記識別情報。
建築確認通知書、検査済書。
土地・建物の固定資産税評価証明書。
賃貸借契約書。
共用の機械警備、清掃会社等の保守関係書類。
過去の修繕履歴がわかる書類。
管理規約などの書類を揃えておくとよいと思います。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
支払督促、少額訴訟、明け渡し請求訴訟については弁護士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、不動産賃貸借契約における連帯保証人の極度額、家賃滞納者への対応、収益物件の売却書類に関する設例でした。
学科試験では出題されなさそうな設例で、家賃滞納者が居座った場合の相談相手としてFPを選ぶという、FPの守備範囲の広さが問われるような設例でした。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。