2023年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2024年2月17日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2024年4月1日 最終更新日 2024年6月21日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2023年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2024年2月17日)

●設 例●
 Aさん(72歳)は、首都圏近郊のK市内にある自宅で妻Bさん(68歳)および子Cさん(40歳)家族(妻と子2人)と同居している。A家は古くからの資産家であり、今でもそれなりの土地や資産を所有している。Aさん夫妻には子がなく、妻Bさんの妹の子であるCさんを幼少の頃に養子として迎え、現在に至っている。

 Aさんには、姉Dさん(75歳)、弟Eさん(69歳)、妹Fさん(67歳)の3人の兄弟がいる。1987年に父親が死亡した際、甲土地(甲-1~5土地)を含む相続財産について、父親の遺言に従い、その大半を長男であるAさんが相続し、兄弟3人はそれぞれ甲土地の一部(各224m²)と現金500万円だけを相続した。また、Aさんは、相続するにあたり、甲-5土地(728m²)をマンション事業者に売却して納税資金に充当した。

 その後、弟Eさんは、取得した甲-2土地を売却し、現在はその土地上に賃貸アパートが建っている。また、姉Dさんは、取得した甲-3土地上で賃貸アパートを経営している。妹Fさんが取得した甲-4土地とAさんが取得した甲-1土地は、いずれも貸駐車場として使用されている。なお、甲土地は、最寄駅から徒歩5分と利便性が高く、周囲にはマンションやアパートなどの共同住宅が多くあり、比較的まとまった土地への需要が高い地域にある。

 約半年前、Aさんは体調が優れず病院に行ったところ、肺にがんが見つかり、治療を受けることになった。Aさんは、今後の相続対策について、知り合いの不動産会社X社の社長に相談したところ、甲-1土地に賃貸マンションを建てることを勧められ、紹介された大手建設コンサルタント会社と契約し、先日、設計プランの大枠が固まったところである。

 そのような折、Aさんの体調不良を聞きつけた姉Dさんが訪れ、「あなたが死んだら、A家の代々の財産がA家とは関係のないBさんの家系に渡ってしまう。それは納得できない。お父さんの相続時は遺言があったから仕方がなかったけど、あなたが生きているうちに私たちにA家の財産を少しでも分けてほしい。EもFも同じ気持ちよ」と伝えてきた。

 Aさんは、兄弟の言い分にも一理あると思い、自身の相続時に妻Bさん、子Cさんが嫌な思いをしないよう、妻Bさんたちと相談のうえ、手元資金から兄弟それぞれに現金3,000万円を提供することを決め、その旨を兄弟に伝えた。ところが、弟Eさんと妹Fさんは喜んだものの、姉Dさんからは、「私はお金はいらない。アパートをもう1棟建てたいので、甲-a土地(224m²)をもらいたい」と言われてしまった。甲-a土地を姉Dさんに譲ると、残った甲-1土地は形状がきわめて悪くなり、いま推し進めている賃貸マンションの建築プランに大きく影響してしまう。そこで、Aさんは、甲-b土地(224m²)でどうかと姉Dさんに打診したが、甲-3土地と地続きでなければ絶対に駄目だと断られてしまい、頭を悩ませている。

 なお、X社の社長からは、「甲-a土地が姉Dさんの所有になるなら、賃貸マンションの建築は諦めて、今後換金しやすいように、甲-1土地に開発道路を通し、6画地に分割する開発をしたらどうか」と勧められた。

 

(FPへの質問事項)

  1. Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
     ①Aさんから直接聞いて確認する情報
     ②FPであるあなた自身が調べて確認する情報

  2. 姉Dさんに納得してもらうためには、甲-a土地を割譲する以外に、どのような方法が考えられますか。
  3. 兄弟に現金3,000万円や土地を提供するには、どのような方法が考えられますか。
  4. X社の社長から勧められた開発案について、どのように思いますか。
  5. 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年2月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
 ①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?

①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
貸駐車場の経営状況や契約内容。
建設を予定しているマンションの大枠や希望収益。
Aさんの健康状態や将来のライフプラン。
相続税対策はしているか。

②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?

②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
 土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。

⑵権利関係として
 法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。

⑶法令上の制限として
 自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。

⑷市場調査として
 X社や大手建設コンサルタント会社の取引事例や財務状況を確認すること。
 周辺の取引事例を、地元の不動産業者等で確認し、X社の提案は妥当かを確認します。


姉Dさんに納得してもらうためには、甲-a土地を割譲する以外に、どのような方法が考えられますか?

甲-3土地と地続きになるように、妹Fさんが所有する甲-4土地ではどうかと打診します。

姉Dさんの意向は、甲-3土地と地続きでアパートをもう1棟建てたいことです。
妹Fさんが所有する甲-4土地であれば、甲-3土地と地続きですしアパートをもう1棟建てることも可能だと思います。

妹Fさんに対して問題はありませんか?

妹Fさんに甲-4土地と甲-1土地上の甲-b土地の交換を了承してもらう必要がありますが、妹Fさんが取得した甲-4土地とAさんが取得した甲-1土地は、いずれも貸駐車場として使用されているので問題はないと思います。

課税関係はどうなりますか?

交換により譲渡する資産の時価と取得する資産の時価との差額が交換差金となり、交換差金に対して所得税が課税されます。
ただし、一定の条件を満たしていれば、固定資産の交換の特例の対象となり課税されません。

固定資産の交換特例が適用できる要件を教えてください。

交換する資産は、いずれも固定資産で、同種類の資産であること。
交換により取得する資産は、交換の相手が1年以上所有していたものであり、かつ交換のために取得したものでないこと。
取得する資産を、交換直前の用途と同じ用途に使用すること。
交換により譲渡する資産の時価と交換により取得する資産の時価との差額が、いずれか高い方の時価の20%以内であることです。

甲-1土地への賃貸マンション建設は可能ですか?

甲-1土地のうち、甲-b土地部分が妹Fさん所有の駐車場となったとしても、規模は縮小するかもしれませんが、既存の賃貸アパートと甲-b土地の間を道路とした賃貸マンションの建築が可能だと思います。


兄弟に現金3,000万円や土地を提供するには、どのような方法が考えられますか?

兄弟に現金3,000万円や土地を提供するには、生前贈与や遺贈による方法が考えられます。

兄弟間で生前贈与する場合の注意点について教えてください。

兄弟間で生前贈与をする場合の注意点は、相続時精算課税制度が使えないこと。
暦年贈与で贈与をした場合でも、兄弟間では特例税率が適用されないため、親や祖父母から贈与を受ける場合に比べて税率が上がることです。

また、不動産を暦年贈与する場合は、毎年不動産を評価する手間と所有権移転登記の手間がかかり、評価を専門家に依頼する場合には報酬が都度かかることにも注意が必要です。

兄弟間で遺贈する場合の注意点について教えてください。

兄弟で、遺贈により財産を取得した場合には、通常よりも2割増しの相続税がかかる相続税の2割加算の対象となります。

X社の社長から勧められた開発案について、どのように思いますか?

X社の社長から勧められた開発案は、甲-1土地に開発道路を通し、6画地に分割するものです。
甲土地は、最寄駅から徒歩5分と利便性が高く、周囲にはマンションやアパートなどの共同住宅が多くあり、比較的まとまった土地への需要が高い地域です。
6画地に分割し、開発道路を通すと、まとまった土地への需要を満たさなくなる可能性があります。


FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?

不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、固定資産の交換特例、兄弟間の生前贈与、遺贈、土地の開発に関する設例でした。

今回の設例はドラマチックな内容でした。

ドラマチックな設例や関係者が多い設例は、集中して設例を読まないと、あっという間に15分間が過ぎてしまいますね。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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