2023年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2024年2月11日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2024年3月31日 最終更新日 2024年6月21日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2023年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2024年2月11日)

●設 例●
 Aさん(59歳)は、東京都S区内に所有する戸建て住宅で妻Bさん(58歳)と2人で暮らしている。先日、1人娘であり、2年前に結婚した長女Cさん(26歳)から、住まいに関する相談があった。家電メーカーに勤めている長女Cさんは、同じ会社に勤める夫Dさん(27歳)と社宅で2人暮らしをしており、半年後に第一子を出産予定である。

 

【長女Cさんからの相談内容】
 「出産後しばらくは産休・育休を利用する予定だけど、できるだけ早く職場復帰して共働きを続けたい。でも、今の社宅は会社までの通勤時間が長く、実家からも遠い。出産後は子育てをしながらの共稼ぎになるからいろいろとお母さんの手を借りたいが、そのためには、実家の近くに住むか同居をしたいと思っていて、夫も賛成してくれている。

 ただ、賃貸物件で暮らす場合、セキュリティのしっかりしたマンションタイプで、1LDK以上の広さがほしい。その条件で探してみたけど、最近、賃貸物件の賃料が上がっているみたいで、実家の近くで見つけるのは難しそう。いっそのこと家を買うことも考えたけど、マンションの価格も上がっていて、多額の住宅ローンを組まないといけない。住宅ローンには、収入合算やペアローンという仕組みもあるらしいけど、よくわからない。

 だから、夫とも相談して、自分たちとしてはできれば同居をさせてもらえればありがたいと思っている」

 

【Aさんが所有する自宅の概要】

・土地: 地積150m²、第一種住居地域、指定建蔽率60%、指定容積率200%、最寄駅から徒歩7分、固定資産税評価額5,000万円
・建物: 木造2階建て、築30年、延べ面積130m²、4LDK(1階・2階にトイレあり、キッチン・浴室は1階のみ)、固定資産税評価額400万円

 

 Cさん夫婦との同居について、妻Bさんは「もうじき孫にも会えるなんて楽しみだわ」と喜んでおり、Aさんも異存はない。ただ、今の間取りのままだとDさんが気疲れしてしまわないか気になっている。また、築30年が経って修繕が必要な箇所が目に付くようになっていたこともあり、Aさんは、自宅を完全分離型の二世帯住宅に建て替えることを考えている。

 なお、Aさんは、上場企業の役員を務め、金融資産は現在1億円程度あり、二世帯住宅の建築資金は全額負担するつもりでいるが、将来の相続を見据えて、建替え後の二世帯住宅を長女Cさんとの区分所有にしてはどうかと思っている。

 

(FPへの質問事項)

  1. Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
     ①Aさんから直接聞いて確認する情報
     ②FPであるあなた自身が調べて確認する情報

  2. 住宅ローンの収入合算やペアローンとはどのような仕組みですか。それぞれのメリット、デメリットを教えてください。
  3. Aさんが建築資金を全額負担し、建て替えた二世帯住宅を長女Cさんとの区分所有にした場合、課税上、どのような問題が生じますか。
  4. 長女Cさんからの相談に対し、あなたはAさんにどのようなアドバイスをしますか。
  5. 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年2月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
 ①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?

①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
長女Cさん夫婦の年収や社宅の家賃、住宅購入費用の目安。
二世帯住宅の建設費用。
将来のライフプラン。
Aさんの年収や所有財産、相続税対策は検討しているか。

②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?

②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
 土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。

⑵権利関係として
 法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。

⑶法令上の制限として
 自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。

⑷市場調査として
 周辺の1LDKマンションの家賃相場や価格を、地元の不動産業者等で確認します。


住宅ローンの収入合算とはどのような仕組みですか

収入合算とは、申込者の収入に加えて、配偶者や親子の収入を合算して住宅ローンを組む方法です。
収入を合算することで、単独でローンを組むよりも大きな金額を借り入れることができます。

メリットを教えてください。

メリットは、収入合算をすることで、金融機関へ申告する収入額が増えるので、借入額の増額が期待できます。

収入合算は、契約する住宅ローンが1本なので、事務手数料や諸費用もローン1本分の金額だけで済みます。

デメリットを教えてください。

デメリットは、主債務者しか団信加入ができないため、収入合算している連帯保証人に万が一のことがあっても返済金額は変わらず、ローンはそのまま継続します。

収入合算の場合、住宅ローン控除の恩恵を受けられるのは、主債務者のみです。
収入合算者には住宅ローン控除が適用されず、税制面で有利になりません。

住宅ローンのペアローンとはどのような仕組みですか

ペアローンとは、夫婦や親子でそれぞれが契約者となり、お互いの連帯保証人となる住宅ローンです。

メリットを教えてください。

メリットは、それぞれの収入に応じて借り入れができるので、単独で住宅ローンを組むよりも借入金額を増やすことができます。

それぞれが住宅ローンの契約者となるので、夫婦ともに住宅ローン控除が適用でき、単独でのローンや収入合算よりも税制メリットが高くなる可能性があります。

連帯債務の場合、団体信用生命保険に加入できるのは主たる債務者となる1人だけなので、連帯債務者が亡くなってもローンはそのまま残ってしまいます。
ペアローンでは団信にそれぞれ加入することができるので、亡くなった人の分の残債は、保険で完済でき、亡くなった人の分の返済義務までは生じません。

デメリットを教えてください。

デメリットは、団信にそれぞれ加入できるものの、どちらかが亡くなった場合、債務免除は1人分のみで、残された人の返済義務はそのままとなります。
また、事務手数料や諸経費は2名分かかり、負担額が増えます。


Aさんが建築資金を全額負担し、建て替えた二世帯住宅を長女Cさんとの区分所有にした場合、課税上、どのような問題が生じますか。

区分所有の場合には、AさんとCさんの住む部分を、それぞれ単独のものとして登記するので、建築資金を全額Aさんが負担しているにも関わらず、住宅を子Cさんの名義にするなら、建築資金を贈与したとみなされ、贈与税がかかることがあります。

区分所有の場合、Aさん世帯とCさん世帯は別々の住宅に住んでいるとみなされ、不動産取得税、固定資産税の軽減措置を受けられる可能性があります。
ただし、Cさんの居住部分の敷地は、被相続人が居住していた土地には含まれないので、小規模宅地等の特例が適用できません。

長女Cさんからの相談に対し、あなたはAさんにどのようなアドバイスをしますか?

相続時精算課税制度と住宅取得資金贈与の非課税制度を併用し、Cさんへ建築資金を贈与することをアドバイスします。

Aさんは、将来の相続を見据えて二世帯住宅の建築を検討しています。
区分所有にしてしまうと、相続の際に小規模宅地等の特例が適用できなくなってしまいます。
Cさんへ相続時精算課税制度と住宅取得資金贈与の非課税制度を併用して、建築資金の贈与をおこない、建築資金の負担割合に応じて、二世帯住宅を共有登記とするようにアドバイスします。

住宅取得資金贈与の非課税制度について説明してください。

Aさんから住宅取得資金として贈与を受けた場合、取得する住宅が省エネ等住宅の場合で1,000万円、それ以外の住宅の場合は、500万円まで非課税になります。

住宅取得資金贈与の非課税制度は、令和5年12月31日までの期限から、令和8年12月31日まで、3年延長されました。


FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?

不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回の設例は、住宅ローンの収入合算、ペアローン、二世帯住宅の登記方法、住宅取得資金贈与に関する設例でした。

実技試験対策でも、過去問を繰り返し解いてみるのが効果的だと思います。

実技試験の過去問に限らず、学科試験の過去問を解いてみるのもいいのではないでしょうか。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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