公開日 2024年3月30日 最終更新日 2024年6月21日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
会社員のAさん(42歳)は、三大都市圏にあるM市内の戸建て住宅で、母Bさん(66歳)、妻Cさん(40歳)、長女Dさん(14歳)との4人で暮らしている。Aさんの父親はM市内で農業を営んでいたが、3年前にがんで死亡し、自宅の土地建物はAさんが、甲土地(1,100m²、地目:宅地)と数カ所ある生産緑地(現在は特定生産緑地)は母Bさんが相続した。ほかに相続人はいない。甲土地は、アスファルト敷きの月極駐車場として利用しており、一定の収入を得ているが、固定資産税・都市計画税の負担を考えると収益性は高くない。幅員18mのK街道(国道)から6m市道を15mほど入った場所にあり、近隣商業地域と第一種低層住居専用地域にまたがっている。K街道沿いは店舗やマンション等が混在し、甲土地周辺は戸建て住宅やアパート等が立ち並んでいる。
Aさんは、休日には生産緑地で母Bさんの農作業を手伝っているが、最近、休日出勤の多い今の会社を退職して農業に専念したいと考えるようになった。ただ、農業収入だけで今後の生計を維持できるのか不安に感じている。母Bさんは、心身ともに健康で、元気なうちは農業を続けたいと思っている(厚生労働省の2022年簡易生命表によると、女性・66歳の平均余命は約23年である)。
そのような折、Aさんと母Bさんは、乳幼児、小児用品店を全国展開しているX社の担当者の訪問を受け、「駐車場を確保できる甲土地にぜひ出店させてほしい」と提案を受けた。
【X社の提案内容】
- 建設協力金方式
- 店舗は鉄骨造平屋建て、延べ面積500m²、建築費9,000万円、建物の固定資産税・都市計画税は年間70万円(見込み)
- 建築資金は、建設協力金として全額X社が建築主に貸し付ける。
- 賃借期間20年の普通借家契約
- 敷金1,000万円、建設協力金9,000万円(20年間均等返済、無利息)、年間賃料2,400万円
(建設協力金の年間均等返済450万円を含む)- 営業開始後5年間は解約しないが、その後は1年前の解約予告で退去可能
Aさんと母Bさんは、提示された年間賃料に魅力を感じ、X社からの提案を前向きに検討したいと思っている。ただ、どのようなリスクがあるのか、建築する店舗の名義は誰にすればよいのかなどわからないことも多く、FPであるあなたにアドバイスを求めている。
(FPへの質問事項)
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報 甲土地にX社が希望する店舗を建築することはできますか。 甲土地にX社が希望する店舗を建築する場合、Aさんと母Bさんのどちらの名義で建築するのがよいでしょうか。その理由とともに教えてください。 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年2月 参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
月極駐車場の契約内容や収益。
農業収入の状況や今後の見込み。
将来のライフプラン。
母Bさんの資産状況や相続税対策は検討しているかです。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
⑷市場調査として
X社の取引事例や財務状況を確認すること。
周辺の取引事例を、地元の不動産業者等で確認し、X社の提案は妥当かを確認します。
甲土地にX社が希望する店舗を建築することはできますか?
現状ではできません。
どうしてですか?
甲土地は、近隣商業地域と第一種低層住居専用地域の異なる複数の用途地域にまたがっており、異なる複数の用途地域にまたがる敷地の場合は、敷地面積の大きい方の用途地域が敷地全体に適用されます。
甲土地の場合、敷地全体が第一種低層住居専用地域の制限を受けるため、X社が希望する店舗を建築することはできません。
甲土地にX社が希望する店舗を建築するためには、どのような方法が考えられますか?
甲土地を近隣商業地域が過半を占める割合で分筆する方法が考えられます。
X社が希望する店舗は、延べ面積500m²の鉄骨造平屋建てです。
甲土地を近隣商業地域が過半を占めるように分筆すると、甲土地の用途制限は準住居地域が敷地全体に適用され、店舗の建築が可能になります。
分筆後の敷地が、X社の建設計画を満たすことや最低敷地面積以上になるように分筆する方法が考えられます。
甲土地にX社が希望する店舗を建築する場合、Aさんと母Bさんのどちらの名義で建築するのがよいでしょうか。
Aさん名義で建築する方がよいと思います。
どうしてですか?
Bさんは66歳とまだ若く、心身ともに健康で元気なうちは農業を続けたいと思っています。
Bさん名義で建築し賃料収入がBさんに入ってくると、長期的にはBさんの金融資産が増え、相続税や所得税負担が増える可能性があります。
Aさんは、今の会社を退職して農業に専念したいと考えていますが、農業収入だけで今後の生計を維持できるのか不安に感じています。
Aさん名義で店舗を建築すると、賃料収入は建物の所有者であるAさんに入ることになるので、農業収入以外の収入を得ることができ、今後の生計に関する不安を解消できるとともに納税資金を準備することもできます。
Aさんで建築した場合のデメリットを説明してください。
甲土地の相続税評価額がBさんで建築した場合は、貸家建付地評価となり評価額が下がります。
しかし、Aさんで建築した場合は、使用貸借になるので自用地評価となり、相続税評価額は下がりません。
Bさんの所有財産や今後のライフプランなども確認し、相続税の見込み額などを専門家と連携してアドバイスします。
建設協力金方式の概要について教えてください。
建設協力金方式とは、入居予定のテナントから建設資金を借り入れてテナントに合った建物を建設しテナントからの賃料を返済にあてます。
建設協力金は、返済期間中に返済ができるように入居後の返済計画を立て契約します。
建設協力金方式のメリットについて教えてください。
メリットはテナントの確保が容易なこと。入居者のノウハウで事業ができることです。
建設協力金方式のデメリットについて教えてください。
デメリットはテナント側が倒産や中途解約した場合、収入の消滅や転用しづらい建物が残ることです。
建設協力金方式の契約について、どのようなことを確認しますか。
建設協力金方式の契約内容について確認する点は、中途解約の場合にテナント側は建設協力金の返済の権利を放棄し、オーナー側は解約後の建設協力金返還が不要になる条項を入れてあるはずですが、今回の契約でも同様の条項が盛り込まれているか確認が必要です。
生産緑地とはどのような制度ですか?
生産緑地とは、自然や環境と調和の取れた都市計画を推進するために、都市計画法によって市街化区域内の農地を保全していこうとする制度です。
生産緑地の指定を受けることで、固定資産税や相続税が優遇される一方、建物の建設や売却などが制限され、一定期間農業経営を続けることが義務付けられます。
特定生産緑地とはどのような制度ですか?
指定から30年を経過する生産緑地について、所有者等の同意を得て、生産緑地地区の買取り申出ができる時期を10年延長するものです。
特定生産緑地に指定されることにより、生産緑地地区に適用している税制等の優遇措置が継続されることとなり、10年経過前であれば、繰り返し10年の延長ができます。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回の設例は、またがる用途地域、建設協力金方式、生産緑地に関する設例でした。
またがる用途地域に店舗を建築したいという設例は、2021年6月13日の設例とよく似ています。
実技試験対策でも、過去問を繰り返し解いてみるのが効果的です。
実技試験の過去問に限らず、学科試験の過去問を解いてみるのもいいのではないでしょうか。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。