公開日 2023年7月18日 最終更新日 2023年11月25日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(50歳)は、個人で10年前に開業した美容外科クリニックを経営している。経営は順調であるが、毎年の所得税の負担が大きいと感じており、また、将来の経営への漠然とした不安も感じている。2023年2月、Aさんの父親が急逝し、実家の近隣にある甲土地(地積800㎡)と甲土地上にある甲建物(S造平屋建て、築15年、延べ面積300㎡)を、外資系金融機関に勤める弟Bさん(46歳)とともに相続することになった。母親は10年前に他界している。甲建物は、父親が15年前、建設協力金方式により建築したもので、地元中堅スーパーマーケットのX社に賃貸している。
【X社との賃貸条件】
- 20年間の普通借家契約、建設協力金は20年間均等返済(無利息)
- 敷金960万円、月額賃料120万円(建設協力金の月額返済23万円を含む)
Aさんは、安定した収入が得られる資産を得たことを心強く思っていたが、先日、AさんのもとをX社の担当者が訪れ、スーパーの経営悪化を理由に甲建物の賃貸借契約を中途解約したいとの申出を受けた。甲土地は、最寄駅から徒歩15分の場所にあるが、数年前から駅前の再開発が進んで大型店舗が次々と進出し、地元の中小店舗は軒並み経営が厳しく、X社も当地から撤退を余儀なくされたとのことである。
Aさんは、弟Bさんに解約の申出を受けたことを伝え、後日、一緒に地元不動産会社のY社を訪問して今後のことを相談したところ、Y社から、「駅ビルが開業して駅近辺に商業機能が集中し、甲建物に入る新たなテナントを探すのが難しい状況です。もったいないですが建物は取り壊し、賃貸マンションを建築してはどうでしょうか」との提案を受けた。甲土地周辺は、駅前の再開発に伴い、マンション需要が高まっており、十分採算が取れるとのことである。Aさんは、先祖代々の土地である甲土地を手放したくはないと考えている。
Aさんと弟Bさんは、Y社から、「賃貸マンション経営は所得税や将来の相続税の軽減になる場合があります。また、区分所有建物にしてご兄弟で分け合えば、今後の資金需要に応じて個別に売却することも可能です」との話も聞き、前向きに検討したいと思っている。建築資金についても、父親から相続した資産に借入金を組み合わせて十分に捻出できそうである。そこで、Aさんは、X社に、すぐに代わりのテナントが見つからないときは、甲建物を取り壊し、甲土地を更地で返還してもらえないかと交渉したいと思っている。
(FPへの質問事項)
- Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報- 建設協力金方式の概要について教えてください。また、甲建物の賃貸借契約の解約にあたって、X社に甲土地の更地返還を要求することは可能ですか。
- 賃貸マンションを建築するメリット・デメリットを教えてください。また、賃貸マンション経営が所得税や相続税の軽減になる仕組みについて教えてください。
- 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
X社との建設協力金等の契約内容。
弟Bさんの意向。
Aさんの家族構成や資産状況。
今後のライフプラン。
美容外科クリニックの経営状況などを確認します。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況などを、実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し、不動産の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを確認します。
⑷市場調査として
X社の取引事例や財務状況を確認すること。
周辺の取引事例を、地元の不動産業者等で確認し、X社やY社の提案は妥当かを確認します。
建設協力金方式の概要について教えてください。
建設協力金方式とは、入居予定のテナントから建設資金を借り入れてテナントに合った建物を建設しテナントからの賃料を返済にあてます。
建設協力金は、返済期間中に返済ができるように入居後の返済計画を立て契約します。
建設協力金方式のメリットについて教えてください。
メリットはテナントの確保が容易なこと。入居者のノウハウで事業ができることです。
土地や建物はどのように評価しますか?
土地は自用地から貸家建付地の評価になり、建物に関しては貸家評価となるため評価額が下がり節税が可能になります。
建設協力金方式のデメリットについて教えてください。
デメリットはテナント側が倒産や中途解約した場合、収入の消滅や転用しづらい建物が残ることです。
建設協力金方式の契約について、どのようなことを確認しますか。
建設協力金方式の契約内容について確認する点は、中途解約の場合にテナント側は建設協力金の返済の権利を放棄し、オーナー側は解約後の建設協力金返還が不要になる条項を入れてあるはずですが、今回の契約でも同様の条項が盛り込まれているか確認が必要です。
甲建物の賃貸借契約の解約にあたって、X社に甲土地の更地返還を要求することは可能ですか。
できません。
建物の所有者はAさんなので、建物を解体する場合の解体費用はAさんが負担することになります。
賃貸マンションを建築するメリット・デメリットを教えてください。
賃貸マンションを建築するメリットは、長期的に安定した収入を得られ相続対策にもなることです。
賃貸マンション経営は、賃貸住宅管理業務適正化法が適用されるので、事業系の不動産よりも貸主が守られており、店舗やオフィスの事業系の不動産よりも安心して賃貸経営ができます。
デメリットを教えてください。
デメリットは、建築資金が必要なこと、空室リスクや家賃下落リスク、災害リスクがあります。
地価の下落により資産価値が減少したり、建物本体も年数とともに老朽化は避けられません。
賃貸マンション経営が所得税の軽減になる仕組みについて教えてください。
不動産所得は、給与所得や事業所得などのほかの所得との損益通算が可能です。
不動産所得が赤字となった場合、赤字分をほかの所得から差し引くことができるため、所得税が軽減できます。
相続税の軽減になる仕組みについて教えてください。
賃貸マンションとして不動産で相続する場合には、土地と建物の両方で評価額が下がります。
土地は貸家建付地となり8割程度になり、建物は取得価額の4割程度で評価されます。
他にありませんか?
賃貸マンションが建っている土地は、 小規模宅地等の減額の特例により、200㎡までを評価額の50%に減額することができます。
注意する点はありませんか?
2018年4月1日以後に経営開始した土地の場合、経営開始3年以内に相続が発生した場合は、特例から除外されるので注意が必要です。
貸家建付地の評価額の計算式を説明してください。
貸家建付地価額=自用地価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
貸家の評価額の計算式を説明してください。
貸家価額=家屋の評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は建設協力金方式、賃貸マンションの経営に関する設例でした。
特徴 | メリット | デメリット | |
自己建設方式 | 事業の全てを土地の所有者自らが行う。小規模事業向き。 | 収益の全てを享受できる。不動産事業のノウハウが蓄積できる。 | 建物の建設資金も土地所有者自らが調達するなど、借入金の返済が必要。 |
事業受託方式 | 一切の業務をデベロッパーが請け負う。 | デベロッパーが土地建物を一括借り上げてテナントへ転貸することで安定的な収益の確保ができる。 | 建物の建設資金は、土地所有者自らが調達するなど借入金の返済が必要。 |
土地信託方式 | 信託銀行に土地を信託し、信託銀行が資金を調達し建物の建設や運用を行い、運用益の一部を信託配当として受け取る。名義は信託銀行となるが期間終了後は返還される。 | 資金は信託銀行が用意するので自己資金が不要。ノウハウがなくても大丈夫。相続対策にもなる。 | 開発リスクは土地所有者が負う。元本保証ではない。赤字の場合、損失は土地所有者が負う。 |
等価交換方式 | 土地所有者の土地にデベロッパーが建物を建設し、完成後土地と建物それぞれの一部を交換し土地と建物を所有する。 | 資金はデベロッパーが調達するので自ら資金を調達しなくても建物を所有できる。リスクが少ない。採算性も良い。 | 土地は実質共有となる。 |
定期借地権方式 | 土地を一定期間のみ貸し付け収益を上げる。登記することで第三者に対抗できる。 | 土地の所有権を移転せず、期間の更新もなく更地返還される。ノウハウも不要で、安定して収益を上げることができる。 | 用途が事業用に限られるため汎用性がない。地代収入は他の方式と比べ収益が低い。貸宅地として評価。 |
建設協力金方式 | 土地所有者が建設する建物のテナントから建設資金を借り入れて建物を建設し賃貸する。 | テナントの確保が容易。入居者のノウハウで事業の立案が可能。借入が金融機関よりも有利。貸家、貸家建付地として評価。 | 期間中にテナント側が倒産や中途解約した場合、予定していた賃貸収入の消滅や転用しづらい仕様の建物が残り、残された建物と補償金の処理が複雑になる。 |
実技試験でよく出題されるのは「建設協力金方式」と「事業用定期借地権方式」です。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。
最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。