2023年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part1 (2023年6月17日) 過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2023年7月14日 最終更新日 2024年6月24日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2023年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2023年6月17日)

●設 例●
 Aさん(68歳)は、妻Bさん(66歳)、長女Cさん(42歳)、二女Dさん(38歳)との4人 家族で、個人で不動産賃貸業を営んでいる。Aさんは、将来の相続税の支払が現状の金融資産で足りるのかどうかが心配になり、所有する不動産を活用した相続対策を検討している。


【Aさんが所有する不動産の概要】

  1. 別荘
     20年前に避暑地に購入した別荘について、最近はほとんど利用していないため、貸家として活用することを検討している。ただ、ずっと貸し続けるつもりはなく、一定期間の期限付きで賃貸する方法がないか知りたいと思っている。

  2. テナントビル
     テナントビルは、鉄骨造8階建て、延べ面積1,000m²(各階の床面積は125m²で同一)で、 23年前に建設した。現在、1~6階は賃貸し、7~8階は妻Bさんと二女Dさんとの3人で暮らす自宅として使用している。立地が良好なことから空室はなく、年間4,500万円の家賃収入(不動産所得3,000万円)を得ている。

  3. 月極駐車場
     月極駐車場として一定の収入を得ているが、固定資産税・都市計画税の負担を考えると 収益性は高くない。テナントビルの建設時に融資を受けた金融機関に相談したところ、「賃貸マンションの建設や事業用定期借地権による貸付を検討してみませんか」との提案を受けた。Aさんは、まだ残債があるため、新たな借入れには消極的であるが、これらの選択肢の効果を検討し、今後の利用形態を考えたいと思っている。

 

 なお、Aさんは、自身の相続開始後、長女Cさん、二女Dさんの2人が賃料収入を得られるようにしたいと考えている。また、Aさんは、最近、減価償却費が少なくなり、所得税の負担が大きくなったと感じていた。先日、同業の知人から「法人を設立すれば税負担を軽減できる」との話を聞き、その仕組みを詳しく知りたいと思っている。

 

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

  1 現預金 1億円  
  2 有価証券 1億円  
  3 別荘      
   ①土地(200㎡) 2,000万円  
   ②建物(築20年) 1,000万円  
  4 テナントビル      
   ①土地(400㎡) 3億2,000万円  
   ②建物(築23年) 2億円  
  5 月極駐車場(1,000㎡)   1億円  
  6 借入金   △7,000万円  
  合計 7億8,000万円  

 

※Aさんの相続に係る相続税額は、約2億5,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

 

【Aさんの家族構成(推定相続人)】

妻Bさん (66歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長女Cさん(42歳):専業主婦。会社員の夫と子の3人で夫所有の持家に住んでいる。
二女Dさん(38歳):会社員。Aさんと自宅で同居している。

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 将来の相続税の支払が現状の金融資産で足りるのかどうか知りたいこと。
  • 所有する不動産を活用した相続対策を検討していること。
  • 別荘について、一定期間の期限付きで賃貸する方法がないかを知りたいこと。
  • 月極駐車場の利用形態を検討していること。
  • 所得税の負担が大きくなったので、法人を設立すれば税負担を軽減できることの仕組みを詳しく知りたいこと。

問題点は、

  • 納税資金不足が予想されるので、納税資金の準備。
  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

Aさんは、所有する不動産を活用した相続対策を検討しています。
所有する別荘を貸家として活用することで相続対策になるのはどうしてですか?

別荘を貸家として活用することで土地は貸家建付地として、自用地評価×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)で評価することになります。
借地権割合に借家権割合を掛けた分だけ評価が下がりますので、自用地の評価に比べ約18%〜21%の評価減になります。

建物については、 建物の固定資産税評価額 × (1-借家権割合(30%)×賃貸割合)で評価するので30%の評価減が設けられています。
一般的に、建物の相続税評価額は建築代金の6〜7割で評価されますが、更に貸家としての評価減があるため別荘を貸家として活用することで相続税対策になります。

別荘について、一定期間の期限付きで賃貸する方法はありますか?

契約期間を自由に決めることができる、定期借家契約で賃貸契約をする方法があります。

定期借家契約の特徴について説明してください。

定期借家契約は、必ず契約書などの書面を取り交わして契約を行わなければなりません。
あわせて、契約書などとは別に「契約の更新がなく、期間の満了により契約が終了すること」を書面で説明することが必要です。この説明がされなかった場合は普通借家契約となります。

定期借家契約の終了に当たって、貸主は契約期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に借主に契約が終了する旨の通知をする必要があります。


テナントビルは、鉄骨造8階建てで、賃貸部分と自宅として使用している部分がありますが、宅地の評価はどのように計算しますか?

賃貸部分と併用している自宅の評価は、建物全体の床面積を賃貸部分と居住部分の床面積比で按分し、居住用に対応する敷地部分を自用地評価、賃貸部分に対応する敷地部分を貸家建付地として評価します。

小規模宅地等の特例の適用部分はどのように計算しますか?

賃貸部分と併用している自宅の場合、小規模宅地等の特例の適用部分は、土地全体を賃貸部分と居住部分の床面積比で按分し、要件を満たすことで賃貸部分は貸付事業用宅地等として50%減額され、居住部分は特定居住用宅地等として宅地の評価額が80%減額されます。


月極駐車場に関して、「賃貸マンションの建設や事業用定期借地権による貸付を検討してみませんか」との提案を受けています。
Aさんにどのようなアドバイスをしますか?

事業用定期借地権による貸付を前向きに検討してみるようにアドバイスをします。

どうしてですか?

賃貸マンションの建設には新たな借入が必要になりますが、Aさんは、新たな借入れには消極的です。
事業用定期借地権による貸付であれば建物投資が不要で借入金の返済リスクがなく、安定した収益をあげることができます。

事業用定期借地権方式について説明してください。

事業用定期借地権方式とは、契約期間を10年以上50年未満で定め、契約期間満了時には建物が取り壊され、土地が確実に返還されます。
メリットは、土地の所有権を移転せず、期間の更新もなく更地返還されること。建物投資が不要で借入金の返済リスクがなく、安定した収益をあげることができます。
デメリットは、用途が事業用に限られるため汎用性がなく、地代収入は家賃収入よりも低くなること。事業者が倒産した場合は倒産した会社の建物が残り手続きが煩雑になることです。

法人を設立することで税負担を軽減できる仕組みについて教えてください。

個人と法人の税率の違いから、所得が多いと法人を設立する方が税率が低くなるからです。

個人と法人の、税率の違いについて教えてください。

個人の所得税は、所得が高いほど税率が高くなる超過累進税率で課税され、最高税率が課せられると、住民税等を含めて50%を超える税率になります。

法人を設立した場合、法人税と住民税等を含めた実効税率は高い場合でも33%前後なので、所得が多い場合は法人を設立する方が税率が低くなります。

資産管理会社には、どのような形態がありますか?

資産管理会社の形態は、不動産所有方式、管理会社方式、サブリース方式があります。

不動産所有方式について教えてください。

不動産所有方式とは、所有する不動産を資産管理会社に売却し、管理会社が不動産を所有する形態です。
管理会社が土地と建物の両方を所有する形態と、建物だけを所有する形態があります。

土地と建物の両方を所有する形態の特徴を説明してください。

土地と建物の両方を所有する形態では、収益がすべて管理会社に入るためオーナーの財産が増えるのを抑える効果が大きくなります。
土地を売却する場合は、売買価格が相場からかけ離れている場合は、時価との差額に課税される場合があるので注意が必要です。

建物だけを所有する形態の特徴を説明してください。

建物だけを所有する形態では、土地を無償で管理会社に貸し付けると借地権の認定課税となる場合があります。

借地権の認定課税を回避する方法はありますか?

借地権の認定課税を回避する方法は、管理会社がオーナーに権利金を支払う方法。相当の地代として地価の6%に相当する地代を支払う方法。管理会社とオーナーで、土地の無償返還に関する届出書を税務署に提出する方法があります。

管理会社方式について教えてください。

管理会社方式とは、不動産の所有はオーナーのままで、設備などの管理を管理会社に委託し管理費を支払う形態です。

メリットやデメリットを教えてください。

管理会社方式のメリットは、不動産の売却手続きが不要なので手軽にできる点です。
デメリットは、不動産はオーナー個人が所有することになるので、相続税の節税効果はあまり期待できません。

サブリース方式について教えてください。

サブリース方式とは、不動産の所有はオーナーのままで、管理会社に一括で貸し付ける形態です。

メリットやデメリットを教えてください。

サブリース方式のメリットは、管理会社が空室リスクを負う仕組みになっているので、空室の有無に関わらずオーナーの収益は安定すること。
一括貸付なので、空室があっても賃貸割合は100%で評価額を計算できることです。
デメリットは、他の形態と比べ収益性は低くなります。


賃貸不動産からの収入は、将来的には長女Cさん、二女Dさんの2人が均等に得られるようにしておきたいと考えていますが、どのようにアドバイスしますか?

法人を設立し、管理会社の役員にすることをアドバイスします。

注意する点はありますか?

家族を会社の役員にする場合は、役員としての実態が伴っている必要があります。他の会社で勤めている人などを役員にした場合は実態がないと見なされる場合があるので注意が必要です。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

不動産を活用した相続対策は複雑で専門家の関与が必要になります。状況によって様々なパターンが考えられるので、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、わかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、定期借家契約、事業用定期借地権、不動産管理会社の設立に関する設例でした。

普通借家契約と定期借家契約の違い

普通借家契約定期借家契約
契約締結口頭でも可 ※法律上の話。実務では契約書を作成するのが一般的書面の契約が必要 ※令和4年5月18日から電子メール等による契約も可能に ※契約書とは別の書面で賃貸人からの説明が必要
中途解約契約に定めていなければ中途解約はできない一定の条件(※)を満たせば借主からは中途解約ができる ※200m2未満の居住用建物で転勤、療養等のやむを得ない事情で使用が困難な場合
1年未満の契約できないできる
契約期間の満了と更新借主が希望すれば更新される ※貸主が拒む場合は正当な事由が必要借主が希望しても更新はできない ※貸主借主双方が合意すれば「再契約」は可能
普通借家契約と定期借家契約

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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