公開日 2023年7月9日 最終更新日 2024年1月11日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
大手企業で役員を務めているAさん(57歳)は、首都圏近郊のK市内の自宅で両親と同居していたが、5年前に母親が、2年前に父親が亡くなり、現在は妻(55歳)と子(27歳)との3人で暮らしている。Aさんの自宅(木造2階建て、延べ面積180㎡、築30年)は、もともと祖父が所有していた甲土地(地積1,200㎡)上に父親が30年前に建てた入母屋造りの住宅である。現在も建物はしっかりしており、不具合は見られない。実業家として財を成した父親は、その当時から、敷地内に息子たちの家を建てて一緒に住むことを望んでいた。そのため、自宅は、北側に寄せて建築し、南側は庭として空けていた。
その後、父親は、二男Bさん(54歳)、三男Cさん(52歳)がそれぞれ結婚して所帯を持ったときに、甲土地上にそれぞれの家族が暮らすための住宅を建築した(Bさん自宅:木造2階建て、延べ面積116㎡、築24年、Cさん自宅:木造2階建て、延べ面積110㎡、築16年)。
2年前の父親の相続時、金融資産はAさん、Bさん、Cさんの3人で均等に分割し、甲土地は3人の共有とした。また、建物については、それぞれが住んでいた家屋を相続し、それぞれの名義に変更した。
Aさんは、先日、Bさん、Cさんから、「当面はこのまま住み続けたいと思っているが、将来的には転居も考えているため、売却しやすいように甲土地を分割しておいたほうがよいのではないか」と相談された。Aさんも、甲土地の共有状態については気になっており、3人で話し合った結果、下記の希望を満たすように甲土地について共有物の分割をすることにした。なお、3人とも、父親からの相続もあり、それなりの資金負担力を有している。
【甲土地の分割に関する希望】
- 甲土地内に道路を新設する。
- ほぼ等価になるように3等分したい。
- それぞれが取得した土地を将来2区画(整形地)に分割して使用できるようにしたい。
- 費用は3人で均等に負担する。
そこで、Aさんは、K市主催の不動産鑑定士の無料相談会に参加し、甲土地の実測図を見せながら相談したところ、担当の不動産鑑定士から「分割案①」を提示された。この分割であれば、分割後の3区画はほぼ等価になるとの説明であった。しかし、この案を持ち帰ってBさん、Cさんと検討したところ、Cさんの自宅が新設道路にはみ出ることがわかった。その後、Cさんから、自ら作成したという「分割案②」が提示された。
Aさんは、甲土地をどのように分割するのが3人にとって望ましいのか、FPであるあなたにアドバイスを求めている。
(FPへの質問事項)
- Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報- あなたはAさんに「分割案①」と「分割案②」のどちらを勧めますか。その理由とともに教えてください。
- 甲土地上に建築基準法上の道路を新設するには、どのような方法がありますか。
- 共有物分割の手続と課税関係について教えてください。
- 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
具体的な転居の時期や売却予定は決まっているか。
Cさんの職業は何か、不動産鑑定士か。
甲土地の分割に関する資金計画を確認します。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況などを、実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを確認します。
あなたはAさんに「分割案①」と「分割案②」のどちらを勧めますか?
分割案①を勧めます。
どうしてですか?
甲土地の分割に関する希望として、それぞれが取得した土地を将来2区画に分割して使用できるようにしたいとあります。
分割案②の場合だと、それぞれの土地を2区画の整形地に分割した場合、接道義務を満たせなくなる可能性があるからです。
他にはありませんか?
分割案②は、Cさんが自ら作成した案なので、分割後の3区画がほぼ等価となるかわかりません。
Cさんの自宅が新設道路にはみ出ることに関して解決策はありますか?
新設道路にはみ出していることに関して、事実確認や現状使用承諾、撤去する時期などの覚書を取り交わすことをアドバイスします。
甲土地上に建築基準法上の道路を新設するには、どのような方法がありますか?
位置指定道路の指定を受ける方法があります。
位置指定道路について説明してください。
位置指定道路とは、建築基準法上の道路として認められており、特定行政庁から指定を受けています。
新しい道路を私道として設けて、特定行政庁の指定を受けると位置指定道路となり、位置指定道路に面した土地に建物を建てることが可能になります。
甲土地を分割すると隣地に設備を設置しなければ、上下水道管等の供給を受けることができません。
分割後のライフラインは問題なく確保できますか?
これまでは、隣地の所有者に設備の設置に応じてもらえない場合や、隣地の所有者が所在不明である場合等には、隣地を使用することが困難でしたが、必要な範囲内で、他の土地に設備を設置する設備設置権が認められました。
今後は、隣地の所有者が所在不明で承諾を得られない場合であっても、隣地を使用して給水管を引き込むことができるようになります。
共有物分割の手続について教えてください。
共有物分割をしたい場合、まずは共有者の間で共有物分割協議を行います。
共有物分割協議で共有状態の解消ができない場合はどうしますか?
共有物分割協議がスムーズに進まない場合は、弁護士に相談をして交渉を依頼するか、裁判手続きをとることになります。
共有状態を解消する方法には、どのようなものがありますか?
共有関係を解消する方法としては、現物分割、代償分割、換価分割があります。
現物分割とはどのような方法ですか?
現物分割は、共有不動産そのものを分割することになります。
土地であれば、分筆の手続きをとり、各共有者のそれぞれの名義で登記を行うことで、共有関係が解消でき、それぞれの持ち分を単独で売却することが可能となります。
代償分割とはどのような方法ですか?
代償分割は、共有不動産の持分を、共有者のうち1名が引き取り、持分を引き取った者が、持分を渡した共有者に対して、お金を支払う方法です。
換価分割とはどのような方法ですか?
換価分割は、共有の不動産を売却して、持分に応じて、売却代金を分配する方法です。
共有物分割の課税関係について教えてください。
共有物分割が持分に応じておこなわれ、分筆後の土地の時価と面積が持分割合と一致する場合は譲渡所得税も贈与税もかかりません。
持分割合と一致していない場合にはどうなりますか?
共有物分割は、時価比率が持分に応じていれば税務上の問題はありませんが、
持分割合と一致していない場合には、その差額を贈与したことになり、贈与税の課税対象となります。
また、分割前の持分を上回って取得している場合は、上回る部分について不動産取得税が課されます。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、共有名義の不動産、位置指定道路、ライフライン設置権に関する設例でした。
現物分割 | 土地などの共有不動産を物理的に2つ以上に分け(分筆)、それぞれの共有持分権者が単独所有する方法。 土地の分筆の場合、境界確定の測量、分筆案の作成、隣地土地所有者の立ち会いや同意、境界標の設置、法務局への申請などが必要。 |
代償分割(価額賠償) | ひとりの共有者が他の共有者の持分を買い取ることで共有の解消を図る方法。 |
換価分割(代金分割) | 共有物をすべて売却し、売却で得た金額を各共有者の持分割合に応じて分配する方法。 |
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。
最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。