2023年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part1 (2023年6月10日) 過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2023年7月1日 最終更新日 2024年2月10日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2023年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2023年6月10日)

●設 例●
 大都市圏で電子部品製造業を営むX株式会社(非上場会社)は、代表取締役社長であるAさん(75歳)が30年前に友人のEさん(75歳)と設立した会社である。X社の技術力は取引先から高く評価され、経営状態は良好であり、今後も取引のさらなる拡大が見込まれている。


【事業承継について】
Aさんは、3年後をめどに非常勤の相談役となり、長男Cさん(45歳)に経営を任せたいと考えている。長男Cさんは、5年前にX社の取締役に就任して以来、いっそう精力的に業務に邁進し、社内外の関係者から一目置かれた存在となっている。

 Aさんは、将来の事業承継を見据えて、所有しているX社株式を数年前から暦年贈与により長男Cさんに移転しており、現在、Aさんが50%、長男Cさんが20%のX社株式を所有している。ただ、直近の税制改正によって相続税制・贈与税制が一部変更されたとの話を聞き、このまま暦年贈与を続けていて問題がないのかどうか不安に感じている。

 また、X社の専務取締役であるEさんは、Aさんの退任とともに自身も身を引くつもりで、その際には、所有している30%のX社株式をX社か長男Cさんに買い取ってほしいとのことであり、Aさんはどのように対応すればよいのか思案している。


【資産承継、資産運用について】
 Aさんは、自宅で妻Bさん(70歳)と2人で暮らしている。先月、他県に暮らす長女Dさん(42歳)が、久しぶりに3人の子(17歳、15歳、12歳)を連れて帰ってきた際、教育費の負担が大きくて大変だとこぼしているのを聞き、孫のために教育資金を援助してあげたいと思っている。

 また、Aさんは、先日、NISA制度が来年から大幅に拡充されるとの雑誌記事を目にし、その仕組みや拡充内容について知りたいと思っている。

 

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

  1 現預金 2億3,000万円 (役員退職金は考慮していない)
  2 X社株式 4,500万円  
  3 自宅      
   ①土地(300㎡) 9,000万円  
   ②建物(築40年) 2,000万円  
  4 X社本社土地(400㎡) 1億2,500万円 (注)
  合計 5億1,000万円  

 

※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億3,500万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

(注)X社は土地の無償返還に関する届出書をAさんと連名で税務署に提出し、Aさんに通常の地代を支払っている。

 

【X社の概要】
資本金:1,000万円 会社規模:中会社の大 従業員数:40人 配当:毎期20円/株
売上高:5億円 経常利益:3,000万円 純資産 :1億8,000万円
株主構成(発行済株式総数2万株):Aさん50%、長男Cさん20%、Eさん30%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額4,000円/株、純資産価額9,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である。

 

【Aさんの家族構成】
妻Bさん (70歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(45歳):X社の取締役。妻と子の3人で持家に住んでいる。
長女Dさん(42歳):パート従業員。会社員の夫と3人の子の5人で夫所有の持家に住んでいる。

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • このまま暦年贈与を続けていて問題がないのかどうか不安に感じていること。
  • Eさんが所有しているX社株式の買取りにどう対応すればよいのか思案していること。
  • 孫のために教育資金を援助してあげたいと思っていること。
  • 新NISA制度の仕組みや拡充内容について知りたいと思っていること。

問題点は、

  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

相続税制・贈与税制の変更された内容について教えてください。

2023年度の税制改正により特に注意したい点としては、生前贈与加算が延長されることや、相続時精算課税制度の見直しなどがあげられます。

生前贈与加算の適用期間の延長について説明してください。

生前贈与した場合は、亡くなる3年前までの贈与財産に対して全額が相続税の課税対象となりますが、2023年度の税制改正により、2024年1月1日以降に生前贈与した場合は、亡くなる4~7年前の贈与財産に対しては100万円を除いた全額、亡くなる3年前までの贈与財産に対しては全額が相続税の課税対象となります。

生前贈与加算対象期間が延長されることで、相続開始から7年以内に行われた生前贈与に対しては相続財産に加算されることがあります。そのため、実質的には増税となり、相続・贈与を受けた方の税負担が増える可能性もある点に注意が必要です。

相続時精算課税制度の見直しについて教えてください。

今回の改正で相続時精算課税制度に、年110万円の基礎控除の枠が加わります。2024年1月1日以降、相続時精算課税制度を選択した人への贈与でも、年110万円までなら贈与税も相続税もかからず、贈与税の申告も不要になります。

Aさんは、このまま暦年贈与を続けていて問題がないのかどうか不安に感じています。
どのようなアドバイスをしますか?

相続時精算課税制度を検討してみるようにアドバイスします。

どうしてですか?

Aさんは、X社株式を暦年贈与しています。
X社の経営状態は良好で、今後も取引のさらなる拡大が見込まれていることから、株価は上昇する可能性が十分に考えられます。
相続時生産課税制度で自社株を贈与する場合、時価の低いときに贈与すれば、持ち戻すときの金額は贈与時の時価なので、将来かかる相続税を抑えられるからです。


Eさんが所有しているX社株式の買取りにどう対応すればよいと思いますか?
長男Cさんが買い取る場合の課税関係について教えてください。

長男Cさんが買い取る場合は、譲渡価額と所得価額との差額が非上場株式の譲渡所得として20.315%の税率による申告分離課税となります。

X社が買い取る場合の課税関係について教えてください。

X社が買い取る場合は、原則として譲渡価額と譲渡した株式に対応する資本金等の額との差額が、みなし配当として超過累進税率による総合課税とされ、税率は最高税率だと55%となります。
また、譲渡した株式に対応する資本金等の額と、取得価額との差額は株式に係る譲渡所得として分離課税となり税率は、20%となります。


Aさんは、孫のために教育資金を援助してあげたいと思っています。
どのようにアドバイスしますか?

教育資金の一括贈与の特例を活用して援助するようにアドバイスします。

教育資金の一括贈与の特例について説明してください。

教育資金の一括贈与の特例とは、子や孫に教育資金を贈与する場合、子・孫1人につき1,500万円までを非課税とする特例です。

2023年の税制改正での変更点ついて説明してください。

2023年の税制改正で、適用期限は3年間延長され、2026年3月31日までとなりました。

他にありませんか?

孫が30歳になった時点で使い残しがあれば贈与税の課税対象となりますが、令和5年度の税制改正では、この使い残しには一般税率が適用されることとなりました。

他にはありませんか?

贈与者の相続税の課税価格が5億円を超える場合には、死亡した時点で孫がまだ学生の場合も、使い残しについて相続税の課税対象となりました。


新NISA制度の仕組みや拡充内容について教えてください。

NISA口座に関して、つみたてNISA・一般NISAのどちらかの口座のみ開設可能だったものが、つみたて投資枠・成長投資枠のどちらも同時併用できるように変わります。

新NISA制度の拡充内容について教えてください。

年間投資枠が、つみたてNISAで40万円、一般NISAで120万円ですが、新NISAでは、つみたて投資枠で120万円、成長投資枠で240万円に拡大され、2つの投資枠合わせて最大で1,800万円まで利用することができます。

他にはありませんか?

非課税期間がつみたてNISAは20年間、一般NISAでは5年間でしたが、新NISAでは口座開設期間も含め無期限になります。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

事業承継や税制改正は複雑で専門家の関与が必要になります。状況によって様々なパターンが考えられるので、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、相続税制・贈与税制の変更点、非上場株式の買取方法、教育資金の一括贈与、新NISA制度に関する設例でした。

新NISA制度概要

つみたて投資枠成長投資枠
制度の併用同時併用可
投資枠年間投資枠合わせて360万円
120万円240万円
非課税保有限度額
(総枠)
1,800万円※1
(うち成長投資枠は最大1,200万円まで保有可能)
投資期間制度実施期間2024年1月~
口座開設・
非課税期間
無期限(恒久化)
対象年齢18歳以上
対象商品投資信託
上場株式・投資信託など
購入方法積立一括(スポット)・積立

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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