2022年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part1 (2023年2月4日) 過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2023年2月23日 最終更新日 2024年2月14日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2022年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2023年2月4日)

●設 例●
 Aさん(68歳)は、大都市圏郊外で社団医療法人Xクリニック(内科、経過措置型医療法人)を営む2代目の内科医である。父親から引き継いだ内科医業を2002年4月に法人化し、 理事長として勤務している。また、法人化したときから、弟Eさん(65歳)も理事・事務長としてXクリニックに勤務している。現在、Xクリニックの社員は、Aさん、妻Bさん(63 歳)、弟Eさんの3名であり、Aさんと弟Eさんは出資持分を有している。


 Aさんは、そろそろ引退して長男Cさん(35歳)に後を譲るつもりで、長男Cさんも承諾している。また、弟Eさんから、Aさんの引退と同時に社員を退社し、出資持分の払戻しを受けたいと打診されている。

 Aさんは、先日、地元医師会主催のセミナーに参加し、出資持分の払戻しのリスクや税金対策、認定医療法人への移行などの話を聞き、まずは定款の出資持分の規定を確認するようにとのことであったが、その意味がよくわからない。特に出資持分の払戻しのリスクについて気になっており、FPであるあなたに説明を求めている。

 なお、Aさんは、長男CさんにXクリニック関連資産を承継させる一方で、長女Dさん(33歳)にも相応の資産を承継させたいと考えているが、米国在住で非居住者である長女Dさんの相続税の負担がどのようになるのかわからない。また、老朽化が進んだ自宅を長男Cさん 家族との二世帯住宅に建て替えたいと考えており、長男Cさんも賛同している。

 

【Aさんの家族構成(推定相続人)】
 妻Bさん (63歳):Xクリニックの理事・社員。出資持分はない。
 長男Cさん(35歳):内科医。母校の附属病院に勤務後、Xクリニックに勤務している。妻と2人の子の4人で賃貸マンションに住んでいる。
 長女Dさん(33歳):10年前から米国在住。国籍は日本。

 

【Xクリニックの概要】
 年商 :1億円
 資本金(出資金):4,000万円(40,000口) 利益剰余金:2億円
 出資持分:Aさん80%(32,000口)、弟Eさん20%(8,000口)
 会社規模:中会社の小
 出資持分の相続税評価額:類似業種比準価額2,000円/口、純資産価額5,000円/口

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

  1 現預金 1億円  
  2 有価証券 5,000万円  
  3 自宅      
   ①土地(300㎡) 8,000万円  
   ②建物(築40年) 2,000万円  
  4 Xクリニック出資持分 1億240万円  
  5 Xクリニック      
   ①土地(400㎡) 1億円  
   ②建物(築25年) 8,000万円  
  合計 5億3,240万円  

※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億4,500万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 定款の出資持分の規定を確認することの意味がわからないこと。
  • 出資持分の払い戻しリスクについて気になっていること。
  • 米国在住で非居住者の場合、相続税の負担がどのようになっているのかわからないことです。

問題点は、

  • 納税資金不足が予想されるので、納税資金の準備。
  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

セミナーで「まずは、定款の出資持分の規定を確認するように」と言われたのはどうしてだと思いますか?

社団医療法人Xクリニックは、経過措置型医療法人ですが、定款を確認し、社員の章が「社員を喪失した者は、その出資額を限度として払戻を請求することができる」であったり、解散及び合併の章が「本社団が解散した場合の残余財産は出資額を限度として分配するものとする」の場合は、経過措置型医療法人でも、出資限度額医療法人になるからです。

経過措置型医療法人について教えてください。

経過措置型医療法人は、医療法人に出資した者が医療法人の財産に持分を有し、社員退社時に請求又は会社解散時の残余財産分配により、出資した割合に応じて、会社財産から払戻を受けることができる法人です。

出資額限度法人について教えてください。

出資額限度法人とは、社員の退社に伴う出資持分の払戻しや医療法人の解散に伴う残余財産分配の範囲につき、払込出資額を限度とする旨を定款で定めているものをいいます。
なので、社員退社時や、会社解散時の残余財産分配の払戻は出資額が限度となります。

出資持分の払戻しのリスクについて教えてください。

出資持分とは、医療法人に出資した者が、その医療法人の資産に対し、出資額に応じて有する財産権のことをいいます。
 
仮に、出資者の出資割合が50%だとすると、社員が退社する際には医療法人の財産の50%を払戻請求することができますが、医療法人の財産には、現金以外にも医療機器や不動産などの固定資産も含まれるので、出資者から持分の払戻しを請求され、すぐに動かせる現金がそれほど無いにも関わらず、この払戻請求に応じなければならないとなると、経営に大きな影響が出てしまいます。

また、出資者に相続が発生した場合も、医療法人からすぐに払い戻しが受けられないのに出資者の相続人には巨額の相続税が課される可能性があり、相続人にも大きな影響があります。

認定医療法人への移行について教えてください。

認定医療法人へ移行するということは、持分の定めのある医療法人が、持分の定めのない医療法人へ移行するということです。

認定医療法人へ移行することで、出資者が持分を放棄したことによる医療法人に対して課される贈与税が一旦猶予され、移行後6年経過した時点で贈与税の納税が免除されることとなります。

また、後継者等の出資持分を相続等により取得した相続人や残存出資者に対して課される相続税・贈与税についても、持分なし医療法人へ移行した場合は免除されます。


米国在住で非居住者である、長女Dさんの相続税の負担について教えてください。

海外在住の相続人であっても、基本的には日本において相続税の納付義務が発生します。

日本国内の財産を相続する場合は、被相続人、相続人の一方が海外在住でも、両者とも海外在住でも、相続する財産が日本国内にあれば日本の税制が適用されます。

相続手続きは、どのように行いますか?

Aさんが亡くなり、長女Dさんが相続する場合は、すべての資産について日本での相続手続きが必要になります。
しかし、Dさんは、日本での相続手続きに必要な、印鑑証明や住民票を取得することができないため、印鑑証明に代わる署名証明書、住民票に代わる在留証明書などが必要になります。


老朽化が進んだ自宅を、長男Cさん家族との二世帯住宅に建て替えたいと考えていますが、どのようなアドバイスをしますか?

建築資金を長男Cさんに贈与することをアドバイスします。

建物の名義は出資比率に応じて行うのが基本で、建築費用をAさんが負担したのに長男Cさんの名義にしてしまうとAさんが出資した分が贈与とみなされ贈与税が課せられる可能性があります。

住宅取得資金の非課税特例と相続時精算課税を活用し、建築資金を長男Cさんに贈与することをアドバイスします。

二世帯住宅の場合でも、小規模宅地の特例は適用できますか?

適用できます。
二世帯住宅に立て替えた場合でも、同じ棟の建物に親と子が住んでいることや、建物の敷地の名義がAさんであること、長男CさんはAさんに家賃を払っていないこと、区分所有登記されていないことなどの要件を満たすことで、小規模宅地の特例は適用できます。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

Aさんは、セミナーに参加したものの、よくわからないことも多く、長女Dさんも米国に居住しているので、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、認定医療法人制度、非居住者の相続に関する設例でした。

最近の試験では、あまり出題されることのない設例でしたが、2021年10月9日や2022年6月4日に実施された試験でも出題されています。

学科試験では、あまり勉強することのない分野ですが、「合格ターゲット FP技能士特訓テキスト」にも記載してありますので、一度目を通しておくとよさそうですね。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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