公開日 2023年4月9日 最終更新日 2024年2月14日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(70歳)は、大都市近郊で食品スーパーを営むX社(非上場会社)の2代目社長(先代の娘婿)である。地場産品を中心とした品揃えを強みとして堅実経営に努めてきた。足許では、コロナ禍や働き方改革を背景として、地域住民が在宅時間を増やしたことから売上が増加し、業績も堅調に推移している。しかしながら、大手チェーン店や異業態との厳しい競争が続くなか、円安と資源高に伴う仕入れコストの高騰と人手不足に伴う人件費の上昇によって利益率は低下しており、先行きの業績不安は大きくなっている。
【事業承継について】
Aさんは、昨年体調を崩して2週間ほど入院した。現在は回復し、日常生活に支障はないが、厳しさを増す経営環境に立ち向かうためにも、新しい経営体制へ早期に移行する必要を感じている。
Aさんには子が2人いる。長男Cさん(43歳)は、X社で経理を担当しているが、幼少より病気がちのため、今以上の負荷はかけられない。長女Dさん(40歳)は、都内で夫が経営する会計事務所を手伝っており、今後もX社に関与する予定はない。
甥Eさん(42歳)は商社に勤務していたが、Aさんは、将来的にX社を託すことも展望し、5年前に甥EさんをX社に誘った。甥Eさんも小さい頃から祖父が経営するX社を身近に感じていたことから、Aさんの申出を意気に感じてX社に入社した。現在は主要店舗の店長を務めている。Aさんは、近いうちに甥Eさんを役員に登用し、ゆくゆくは社長職を譲りたいと考えており、長男Cさん、長女Dさんも賛同している。
AさんはX社の経営改革に努めてきた。顧客への訴求力を高めるために店舗のリニューアルを進めるとともに、商品力を向上させるため加工センターに投資してきた。最近では、 キャッシュレス化やEC化に対応するための投資負担も嵩んでいる。このため借入需要も大きく、Aさんは、金融機関からの借入れについて「経営者保証」を差し入れている。Aさんは、事業承継に際して、甥Eさんが経営者保証の引継ぎに難色を示し、事業承継に悪影響を及ぼすのではないかと一抹の不安を感じている。
Aさんは、先日参加したメインバンク主催の事業承継セミナーで「事業承継税制の特例」について説明を受けた。Aさんは、この特例によりX社株式の承継負担がなくなるのであれば、甥Eさんとしても経営者保証を引き継ぐ余力が生まれるのではないかと期待している。
一方、Aさんは、M&A仲介会社からセミナーや個別相談のアプローチを頻繁に受けている。しかし、事業承継とM&Aの関係がよくわからず、話を聞いてよいものか逡巡している。
【資産承継について】
長男Cさん、長女Dさんは、今後もX社の経営には携わらないが、親として相応の財産は残してあげたいと思っている。特に病気がちな長男Cさんには手厚くしたいとの希望がある。この点、妻Bさん(68歳)が先代から相応の財産を相続しており、それほど心配はしていない。
【X社の概要】
資本金:1,000万円 会社規模:大会社 従業員数:80人
売上高:25億円 経常利益:5,000万円 純資産 :4億円
株主構成(発行済株式総数2万株):Aさん60%、妻Bさん40%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額10,000円/株、純資産価額20,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である。
※Aさんの毎月の役員報酬は200万円で、役員在任年数は30年になる。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として
問題点は、
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
Aさんは、事業承継に際して、甥Eさんが経営者保証の引継ぎに難色を示し、事業承継に悪影響を及ぼすのではないかと不安を感じています。
経営者保証が、事業承継の妨げとなる理由としてどのようなことが考えられますか?
経営者保証とは、金融機関から融資を受けるときに、経営者個人が連帯保証人となることなので、経営者保証付きの借入金は、会社が倒産したときに経営者が借入金を返済しなければなりません。
この負担が大きいので、甥Eさんが事業を承継する妨げとなているのではないかと考えられます。
経営者保証の解決策として、Aさんにどのようなアドバイスをしますか?
経営者保証の解除ができないか、経営者保証ガイドラインが定める要件を満たしているか確認してみることをアドバイスします。
経営者保証ガイドラインが定める要件とは、どのようなものがありますか?
資産やお金のやりとりにおいて法人と経営者が明確に区分されていること、
財務基盤が強化され、法人のみの資産や収益力で返済が可能であること、
金融機関に対し、財務情報が開示されていることです。
事業承継税制の特例について教えてください。
事業承継税制特例とは、先代経営者から事業の承継を受けた後継者が次の後継者に事業承継できた場合には、相続税や贈与税が免除になる制度です。
留意点はありますか?
留意点は、届出書の提出など事務手続きが煩雑になること。
事業継続が困難な場合は、利子税と猶予された税金の支払いが必要になることです。
贈与税の納税猶予を受けるための、手続について教えてください。
納税猶予を受けるためには、2024年3月31日までに、特例承継計画を作成し都道府県庁へ提出します。特例措置の場合は、2027年12月31日までに贈与を行い、贈与年の10月15日から翌年1月15日までに申請し、認定書の写しとともに税務署への申告手続きが必要となります。
事業承継とM&Aの関係を教えてください。
M&Aで会社を売却するなど、後継者が事業を途中でやめてしまった場合は、事業承継税制の納税猶予を受けることができなくなります。
M&Aの手法には、どのようなものがありますか?
M&Aでは、主に「株式譲渡」、「事業譲渡」、「合併」、「会社分割」の4つの手法があります。
「株式譲渡」について教えてください。
「株式譲渡」とは、自社株式を譲渡する形で経営権を移譲するM&Aの手法です。
メリットは、手続きが簡単な点と、売却益への税金が事業譲渡と比べ抑えられるので、創業者利益が最大化しやすくなります。
デメリットは、会社全体が取引対象になるため、不採算事業があるとマイナス評価となり譲渡化学が減ってしまいます。また、負債が大きすぎる場合は買い手が見つかりにくい場合があります。
「事業譲渡」について教えてください。
「事業譲渡」とは、会社全体を売買対象とする株式譲渡と違い、譲渡対象の事業を選ぶことができます。
メリットは、継続したい事業は残し、売却したい特定の事業を売却することができるので、会社は存続することができ、負債があっても譲渡先が見つけやすくなります。
デメリットは、債権者や従業員とも承諾を得る必要があり、手間や時間、コストがかかります。
「合併」について教えてください。
「合併」とは、複数の会社を1つの会社に統合するM&A手法です。
メリットは、複数の事業が1つになることで、個別に事業を行うよりも、大きな効果を発揮することができます。
デメリットは、同業他社との合併では、顧客の重複が生じる場合があり、顧客にとっては取引先が1社となるため、取引量や取引回数を縮小される場合があります。
「会社分割」について教えてください。
「会社分割」とは、権利義務の一部、もしくは全部を別の会社に承継することで、もともとの会社は消滅しない点が特徴です。
メリットは、事業分野を分けることで、より専門的な分野へ参入できるなど事業拡大に活用できます。
デメリットは、従業員の同意は不要ですが、株主総会を開催しなければならず、特別決議に該当するので、株主構成によっては手間と時間がかかります。
円滑な遺産分割を行うためには、どのような方策が考えられますか?
遺言書を作成すること。
遺留分に関する民法の特例を利用することを提案します。
遺留分に関する民法の特例について教えてください。
事業承継による相続について、法定相続人の合意があれば、遺留分を減らせるという事です。
後継者に自社株式を集中して承継させようとしても、遺留分を侵害された相続人から遺留分に相当する財産の返還を求められた際、自社株式が分散してしまったり、資金不足になり業績が悪化し、廃業に追い込まれるということを避けるための制度です。
遺留分に関する民法の特例には、どのような種類がありますか?
合意の種類には、除外合意、固定合意の2つと、除外合意と固定合意を合わせた、付随合意の3つの種類があります。
除外合意について教えてください。
遺留分算定基礎財産から贈与等された株式等を除外するものであり、合意した他の相続人は、遺留分の主張ができなくなります。
その結果、相続による株式等の分散を防止できます。
固定合意について教えてください。
遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の価格に固定するものです。
この合意をすると、株式等の価額が上がっても遺留分額には影響しないので、想定外の遺留分の主張を防止できます。
固定する合意時の時価はについては、証明が必要ですか?
固定する合意時の時価は、合意の時における相当な価額であ るとの税理士、 公認会計士、弁護士等による証明が必要です。
⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんは70歳と高齢で、昨年体調を崩して2週間ほど入院もしています。
長男Cさん、長女Dさんも賛同しているものの、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、経営者保証、親族内承継に関する設例でした。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。
最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。