公開日 2022年5月12日 最終更新日 2024年1月12日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(58歳)および弟Cさん(56歳)の実家がある甲土地は、T市内の住宅地として人気の高いエリアにあり、その実家には母親Bさんが1人で暮らしていた。甲土地は、もともと父親が地主Dさん(88歳)から1964年に借り受けた借地である。10年前、父親が死亡し、甲土地上の建物(実家:甲建物)と借地権について、母親Bさん2分の1、Aさん4分の1、弟Cさん4分の1の共有持分で相続した。また、父親が所有していた金融資産は、母親Bさんが全額相続した。
4年前、地主Dさんから、月極駐車場として利用している乙土地(地積100m²)とともに甲土地(地積100m²)を購入する気はないかと持ちかけられ、甲土地(底地)および乙土地を総額4,000万円で購入した。その購入資金は母親Bさんが全額負担し、甲土地および乙土地の所有名義は母親Bさんとなっている。なお、その際、「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を所轄税務署長に提出している。
【甲土地および乙土地の状況】
- 甲土地:地積100m²、所有名義は母親Bさん
- 甲建物:木造2階建て、延べ面積100m²、1980年築、所有名義は母親Bさん・Aさん・弟Cさんの共有。4年前に総額300万円で耐震補強工事(新耐震基準適合)を行っている。
- 乙土地:地積100m²、所有名義は母親Bさん、取得後も引き続き月極駐車場として活用(現在の契約車両は3台、利用料月額15,000円/台)、アスファルト舗装で車止めがあり、周囲はネットフェンスで囲まれている。
- T市内で不動産会社を経営している知人によると、更地前提で、甲土地の売却価格は3,300万円程度、乙土地の売却価格は3,000万円程度が相場とのことである。
母親Bさんは、1年前からがんを患って入退院を繰り返していたが、3カ月前に病状が急変し、死亡した。母親Bさんの相続財産には、甲土地、甲建物、乙土地のほか、金融資産が約2,500万円あり、相続人はAさんと弟Cさんの2人である。Aさんは、実家の遺品整理もようやく目途が立ち、相続税の申告が必要なのかどうか、どの程度の相続税がかかるのかなど、FPであるあなたに相談してきた。
なお、Aさんは市役所に勤務し、弟Cさんは中堅企業の役員を務めており、いずれも持家で暮らし、生活は安定しているが、将来のことを考えると、甲土地か乙土地のいずれかを売却して現金化しておきたいとのことである。
(FPへの質問事項)
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
①Aさんから直接聞いて確認する情報Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報母親Bさんの相続に係る相続税額の計算上、甲土地および乙土地の価額はどのように評価しますか。
甲土地または乙土地を売却した場合のそれぞれの課税上の取扱いを教えてください。
本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
母親Cさんの相続に際して、遺産分割協議書があるか、生命保険や金融資産の状況。
月極駐車場の契約内容、契約者との関係性などを確認します。
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し物件の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
⑷市場調査として
周辺の取引事例を、地元の不動産業者等で確認し、土地の評価額は妥当かを確認します。
甲土地の相続税評価額は、自用地として評価します。
甲土地の借地権について、10年前に、母親Bさん2分の1、Aさん4分の1、弟Cさん4分の1の共有持分で相続しています。
自用地評価から、借地権分を評価減することはできませんか?
4年前、地主Dさんから、甲土地の底地を購入し、甲土地の所有名義は母親Bさんになっています。
Aさん、弟Cさんが、地代を支払えば「賃貸借」ですが、おそらく「使用貸借」になります。
通常、親子の場合は、地代を取らないので、使用貸借に係る土地を相続により取得した場合は、その土地に係る相続税法上の評価額は、自用地としての価額となります。
甲土地の底地を購入した際、「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を所轄税務署長に提出しているのは、どういう理由からですか?
新地主の母親Bさんと借地人であるAさん、弟Cさんが借地契約書を交わし、親子間で地代を今後も継続して支払ってゆくことは、あまり考えられません。
ただ、このまま地主と借地権者間の借地権関係の継続が明確になっていないと、借地人のAさん、弟Cさんが、母親Bさんに借地権を贈与したと税務署に認定され贈与税を課される恐れがあります。
Aさん、弟Cさんが地代を支払わない場合でも、「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を所轄税務署長に提出することで、贈与税を課される心配はありません。
乙土地の価額はどのように評価しますか。
自用地として評価します。
乙土地の月極駐車場は、アスファルト舗装で車止めがあり、周囲はネットフェンスで囲まれていますが、土地の所有者自らが土地を更地状態で駐車場として貸し付けている場合や、所有者自らがアスファルト舗装やフェンス等の設置を行った上で貸し付けている場合には自用地として評価します。
乙土地に小規模宅地の特例は適用できますか?
適用できます。
小規模宅地等の特例対象となる貸付事業は、貸付をしている建物、又は構築物の敷地であること、適用要件は、相続税の申告期限までにその土地を保有し、貸付事業を継続していることです。
乙土地は、アスファルト舗装で車止めがあり、周囲はネットフェンスで囲まれています。
さらに、取得後も引き続き月極駐車場として、活用するということなので、小規模宅地の特例が適用でき、200㎡まで、50%評価減が可能です。
ただし、入口の部分だけ、アスファルト敷きになっているなど、敷地の一部だけしか整備されていない場合には、敷地全体に適用することはできません。
現在の契約車両は3台ということですが、アパートの場合は空室があると、減額割合が減少してしまいます。
しかし、駐車場の場合は、空車部分の地積按分などはする必要がなく、駐車場の全部が契約していなくても、賃貸募集等を適切にしているのであれば、その敷地全体に適用できます。
甲土地、または、乙土地を売却した場合の、それぞれの課税上の取扱いを教えてください。
甲土地を売却した場合は、相続等により取得した空き家を譲渡した場合の3,000万円特別控除が適用できます。
特例の概要や適用要件を教えてください。
相続によって取得した空き家を一人暮らしだった被相続人が死亡した日以後3年を経過した日の属する年の12月31日までに譲渡したときは、その空き家を譲渡して得た利益から3,000万円を控除できるというものです。
適用要件は、
昭和56年5月31日以前に建築された建物で、耐震基準を満たしていること。
相続開始から譲渡まで空き家であったこと。
被相続人が亡くなられた時点で一人暮らしの場合に限られます。
乙土地を売却した場合はどうですか?
乙土地は、4年前、地主Dさんから購入しているので、所有期間5年以下の短期譲渡所得になります。
相続税の申告期限から3年以内に売却した場合には、納付した相続税の一部を所得税の計算上マイナスすることができる、相続税の取得費加算の特例が適用できます。
不動産の取引に関する課税上の具体的な税務相談は税理士に、
売買契約等における宅地建物取引業法に規定する業務については宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については司法書士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回の設例も、Part2の問題ですが、相続に関する設例でした。
土地の相続税評価や、借地権は計算式などを答える質問があるかもしれません。
設例に関し、詳細な計算を行う必要はないと書いてありますが、電卓を持参していた方が安心ですね。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。