公開日 2021年7月14日 最終更新日 2024年1月16日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(72歳)は、三大都市圏M市内に所在する甲土地(地積:1,400m²)を所有している。甲土地は、準住居地域と第一種低層住居専用地域にまたがっており、幅員12mのT街道(県道)から6m市道を10mほど入った場所にある。街道沿いは店舗も多いが、中に入ると戸建て住宅、低層マンションが建ち並ぶ地域である。Aさんは、甲土地をアスファルト敷きの月極駐車場として利用しているが、甲土地の固定資産税・都市計画税を毎年300万円程度支払っており、収益性は高くない。今後の土地活用について、友人である地元不動産会社のC社長に相談したところ、C社長から「食品スーパーX屋を展開するX社が駐車場を確保できる甲土地に出店したいと言っている。Aさんが希望すれば、契約形態は建設協力金方式と事業用借地権方式のどちらでもかまわないと言ってい る」とX社の提案内容を提示された。
【X社の提案内容】
i)建設協力金方式
- 店舗は鉄骨造平屋建て、延べ面積500m²、建設費は9,000万円、建物の固定資産税・都市計画税は年間70万円を見込んでいる。
- 建設資金は、建設協力金として全額X社が負担する。
- 賃借期間は20年間の普通借家契約
- 敷金1,000万円、建設協力金9,000万円(20年間均等返済、無利息)、年間賃料1,600万円(建設協力金の年間均等返済450万円を含む)
- 営業開始後5年間は解約しないが、その後は1年前の解約予告で退去可能
ii)事業用借地権方式
- 店舗は鉄骨造平屋建て、延べ面積500m²、建設費は9,000万円(上記iと同様)
- 期間20年、敷金1,000万円、地代80万円(月額)
- Aさんが希望すれば、地代の一部を前払地代として支払ってもよい。前払地代は、月額30万円の当初5年分(60月分)の1,800万円までは可能。
Aさんは、先祖代々の土地である甲土地を手放すことを考えておらず、将来は大手企業に勤務する一人息子の長男Bさん(42歳)に承継する予定である。Aさんは、10年前に妻を亡くしており、相続税の納税資金の確保のために、預貯金を増やしたいと考えている。
一低 二低 一中 二中 一住 二住 準住 近商 商業 住宅、共同住宅等 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 店舗(150㎡以下) × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 店舗(500㎡以下) × × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 店舗(500㎡超) × × × ① ② ③ ③ ○ ○ ×(建築不可)、○(建築可)、○内に数字のあるもの…条件内で可
①2階以下かつ延べ面積1,500㎡以下 ②延べ面積3,000㎡以下
③延べ面積1万㎡以下
(FPへの質問事項)
①Aさんから直接聞いて確認する情報Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報
- 甲土地にX社提案の食品スーパーの店舗を建築することはできますか。
- Aさんに対して、建設協力金方式と事業用借地権方式のどちらを勧めますか。
- 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
①Aさんから直接聞いて確認する確認する情報は、
⑴本人しか知らないこと。関係者の意向として
甲土地一部でも売却は考えていないか
まとまった資金が必要か、定期的な収入が必要か
長男Bさんは同居か、住居は持ち家か
Aさんの資産状況や、Aさんの相続に係る相続税はいくらぐらいか、相続対策はおこなっているか
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し物件の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し今後の開発予定や周辺環境の変化、最低敷地面積、特定行政庁が指定する角地かどうかを把握すること。
⑷市場調査として
甲土地周辺の取引事例や、スーパーの需要はあるか地元の不動産等で確認すること。
X社の業績や、建設費は妥当かを確認します。
現状では、甲土地にX社提案の食品スーパーの店舗を建築することはできません。
甲土地は、準住居地域と第一種低層住居専用地域の異なる複数の用途地域にまたがっており、異なる複数の用途地域にまたがる敷地の場合は、敷地面積の大きい方の用途地域が敷地全体に適用されます。
甲土地の場合、敷地全体が第一種低層住居専用地域の制限を受けるため、X社提案の食品スーパーを建築することはできません。
甲土地を準住居地域が過半を占める割合で分筆する方法が考えられます。
X社提案の食品スーパーの店舗は、延べ面積が500㎡の平家建です。
甲土地を準住居地域が過半を占めるように分筆すると、甲土地の用途制限は準住居地域が敷地全体に適用され、1万㎡以下の店舗の建築が可能になります。
分筆後の敷地が、X社の建設計画を満たすことや最低敷地面積以上になるように留意する必要があります。
入居予定のテナントから建設資金を借り入れてテナントに合った建物を建設しテナントからの賃料を返済にあてます。建設協力金は、返済期間中に返済ができるように入居後の返済計画を立て契約します。
メリットはテナントの確保が容易なこと。入居者のノウハウで事業ができること。
デメリットはテナント側が倒産や中途解約した場合、収入の消滅や転用しづらい建物が残るこ
とです。
留意点は、今回の契約では、5年以降は1年前の解約予告で退去可能とあるが、中途解約の場合にテナント側は建設協力金の返済の権利を放棄し、オーナー側は解約後の建設協力金返還が不要になる条項が盛り込まれているか確認が必要です。
また、普通借家契約の条項に「契約期間中、賃料の増減はしない」という特約がある場合、増額請求はできなくなりますが減額請求はできることになります。X社側には普通借家契約ではなく、定期借家契約とし契約期間中の家賃を減額しない旨の特約を入れることを交渉すべきです。
契約期間を10年以上50年未満で定め、契約期間満了時には建物が取り壊され、土地が確実に返還されます。契約の際は、契約書を必ず公正証書で締結することが必要です。
メリットは、土地の所有権を移転せず、期間の更新もなく更地返還されること。建物投資が不要で借入金の返済リスクがなく、安定した収益をあげることができます。
デメリットは、用途が事業用に限られるため汎用性がなく、地代収入は家賃収入よりも低くなること。事業者が倒産した場合は倒産した会社の建物が残り手続きが煩雑になることです。
事業用定期借地権方式を勧めます。
Aさんの意向は、先祖代々の土地である甲土地を手放すことは考えておらず、納税資金の確保のために、預貯金を増やしたいとあります。
相続税の軽減対策がおこなわれているか確認する必要がありますが、借入金をしてまで土地活用する必要はないと考えます。
よって、前払地代方式の定期借地権では、賃料を一括で授受しても期間に応じた収益計上ができ、
契約期間満了時には確実に土地が更地返還されるため、今回のケースでは、事業用定期借地権方式を勧めます。
不動産の取引に関する課税上の具体的な税務相談は税理士に、
売買契約等における宅地建物取引業法に規定する業務については宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記など、不動産の権利にかかる登記については司法書士に、
地積の更正や変更など、不動産の表示に関する登記は土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
実技試験で質問される内容は、過去問でよく出る定番問題もあります。今回の「またがる用途地域」や「不動産の有効活用方式」の問題はよく出題されています。
概要 | メリット | デメリット | |
自己建設方式 | 事業の全てを土地の所有者自らが行う。小規模事業向き。 | 収益の全てを享受できる。不動産事業のノウハウが蓄積できる。 | 建物の建設資金も土地所有者自らが調達するなど、自己資金や借入金の返済が必要。 |
事業受託方式 | 一切の業務をデベロッパーが請け負う。 | デベロッパーが土地建物を一括借り上げて、テナントへ転貸することで安定的な収益の確保ができる。 | 建物の建設資金は土地所有者自らが調達するなど、自己資金や借入金の返済が必要。 |
土地信託方式 | 信託銀行に土地を信託し、建物の建設や運用を行い運用益の一部を信託配当として受け取る。名義は信託銀行となるが期間満了後は返還される。 | 資金は信託銀行が用意するので自己資金が不要。 | 開発リスクは土地所有者が負う。元本保証ではない。赤字の場合損失は土地所有者が負う。 |
等価交換方式 | 土地所有者の土地にデベロッパーが建物を建設し、完成後土地と建物それぞれの一部を交換し土地と建物をそれぞれが所有する。 | 資金はデベロッパーが調達するので資金調達なしで建物を所有できる。リスクが少なく採算性も良い。 | 土地は実質共有となる。 |
定期借地権方式 | 土地を一定期間のみ貸し付け収益を上げる。登記をすることで第三者に対抗できる。公正証書での契約が必要。 | 土地の所有権を移転せず、期間の更新もなく期間満了後は土地は更地返還される。 | 用途が事業用に限られるため汎用性がない。地代収入は他の方式と比べ低い。 |
建設協力金方式 | 土地所有者が建設する建物のテナントから建設資金を借り入れて建物を建設し賃貸する。 | テナントの確保が容易。入居者のノウハウで事業の立案が可能。借入が金融機関よりも有利。 | 契約期間中にテナント側が倒産や中途解約した場合、予定していた賃料収入の消滅や転用しずらい仕様の建物が残り建物と保証金の処理が複雑になる。 |
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。