合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(62歳)は、会社員の夫と2人で大阪府内の戸建て住宅に住んでいる。2人の子は、各々結婚して大阪府内の別の都市に自宅を持ち、それぞれの家族と暮らしている。Aさんの実家は、首都圏に所在するS市にある。5年前に母親が亡くなり、2年前に父親が亡くなってからは、同居していた兄Bさん(64歳)夫妻が2人で暮らしている。兄Bさんは、東京都内の大手企業に勤務しており、今年8月に定年を迎える。
【甲土地の概要および売却の検討】
Aさんは、S市内に甲土地の南側半分の甲-a土地を所有している。甲土地は、実家のあるS駅から1駅先の東S駅徒歩圏の区画整理済みの良好な住宅地に所在している。甲土地は、4年前に父親が「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」の適用を受けて取得したものである。2年前の父親の相続時に甲土地を2分割して、Aさんが甲-a土地/兄Bさんが甲-b土地を取得し、甲土地(甲-a土地/甲-b土地)を更地化し、全体を月極駐車場(34台)として2カ月前まで貸し出していた。
6カ月前、兄Bさんから「定年を機に実家を処分し、甲-b土地に新居を構え、引越しをしたいと考えている。駐車場をやめてよいか」との電話があった。Aさんからは「この際、甲-a土地を売却して、自宅のリフォーム費用や老後の生活資金等に充てたい」との希望を伝え、兄Bさんの了解を得た。Aさんは、S市内の大手不動産流通会社X社に売却を依頼した。売値はX社と相談し、路線価の1.25倍の7,500万円を目標とするが、指値を考慮し、とりあえずの出し値を9,000万円とした。
【兄Bさんの計画】
兄Bさんは、老後の生活を考え、甲-b土地に平屋(延床面積120m²)の新居を計画しており、設計プランも固まっている。広い庭で、好きなガーデニングをしながら、夫婦2人でのんびり暮らしたいとの意向である。実家の売却の話も順調に進んでいる。
【甲-a土地の販売状況】
先日、X社の営業担当者から「S市内に工場がある大手企業Y社が社員寮の用地を探していたところ、甲-a土地を見て気に入り、9,000万円で購入してもよいとの返事が来ました。購入後は、延床面積800m²の4階建ての社員寮を建築する予定のようです。大変よい話ですから、早く手続を進めましょう」との電話があり、その後、催促の電話が何度も来ている。
Aさんは、価格には満足しているが、この申出を受けることにためらいを感じており、返事を保留している。
(FPへの質問事項)
Aさんがためらう理由は何だと思いますか。それを解決する方法はありますか。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報(確認)が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから何点か具体的にしたいことがありますが、どのようなことですか。
②FPであるあなたが確認しておくべきことは、どのようなことですか。Aさんが甲-a土地を売却した場合の課税関係を教えてください。
Aさんにどのようなアドバイスをしますか。あなたの考えを教えてください。
本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
ためらう原因は、甲-a土地に延床面積800m²の4階建ての社員寮を建築すると、甲-b土地の日当たりや通風が悪くなり、広い庭で、好きなガーデニングをしながら、夫婦2人でのんびり暮らしたいと兄Bさんの意向が叶わなくなる可能性があるからだと思います。
解決策としては、甲-a土地と甲-b土地を交換する方法があります。
Aさんが所有する甲-a土地は南側に面しており、甲-b土地より全面道路は狭くなりますが十分な日照が確保できるのでガーデニングにも支障ありません。
Y社の社員寮も、現地を確認する必要がありますが全面道路が広くなることで出入りがしやすくなるなどのメリットがあると考えます。
留意点は兄Bさん夫婦の意向や、Y社は甲-b土地でも同条件で購入の意思があるのか等、確認しておく必要があります。
①Aさんから直接聞いて確認する確認する情報は、
⑴本人しか知らないこと。トラブルの理由、関係者の意向として
取得費や取得日、契約書等が確認できる資料があるか。
地積は実際に測量されているか、境界標が存在するか。
父親の死亡時、相続税が課税されたか。
⑵お客様に寄り添うこと、本当のニーズを引き出すこととして
Aさん自身は、ためらいを感じている理由がどういう点だと思っているのか。
兄Bさん夫婦に甲-a土地と甲-b土地を交換することや、隣地に4階建ての社員寮が建築されることに対する意向の確認。
兄Bさん夫婦の新居の設計プランの進捗状況。
Aさんの自宅のリフォーム費用や老後の生活資金等はいくらぐらいを想定しているか。
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・建物・全面道路や交通量などの物理的状況を実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し物件の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し今後の開発予定や周辺環境の変化を把握すること。
⑷市場調査として
他の不動産業者などから取引事例等を確認し、市場価格の確認、近隣の地価公示価格、基準地価格、路線価、X社やY社の評判を確認すること。
Aさんが甲-a土地を譲渡した場合、所有期間が5年以内なので短期譲渡所得となり、所得税・住民税合わせて39.63%と税負担が大きくなります。
取得日は、相続した土地や建物を譲渡した場合、被相続人から引き継ぐことになります。
甲土地は、4年前に父親が「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」の適用を受けて取得したものを、父親の相続によりAさんが取得したので現時点での所有期間は5年以下で、短期譲渡所得となり税負担が大きくなります。
ただ、父親の相続が2年前なので、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」が適用できる可能性もあるため、譲渡時期をX社やY社と調整することが可能か交渉し、調整可能であれば、具体的な税額などを税理士と協力して判断します。
親から相続した土地や建物の取得時期は、親が土地や建物を取得した時期をそのまま引き継ぐことができます。
所有期間が5年以内なら短期譲渡、5年超なら長期譲渡になり税率が異なりますが、Aさんが売却した年の1月1日までの所有期間で、長期か短期かを判定します。
Aさんが相続開始の日の翌日から3年10ヶ月以内に売却すると、相続した時の相続税のうち一定額を取得費に加算できます。
甲-a土地に4階建ての社員寮を建築すると、兄Bさんの新居に対し日当たりや通風が悪くなる可能性があり、日当たりのいい甲-a土地に兄Bさんの新居を建設する方が、広い庭で、好きなガーデニングを楽しむことができます。
そのためには、甲-a土地と甲-b土地を交換し甲-a土地に兄Bさんの新居、甲-b土地に社員寮を建設することを提案します。
ただし、兄Bさんの新居は設計プランも固まっているので、プランの変更や工期の遅れなどの費用をAさんが負担するなど、Bさんが納得できるように話を進める必要があります。
次に、甲-b土地を現時点で譲渡した場合、所有期間が5年以内なので短期譲渡所得となり、所得税・住民税合わせて39.63%と税負担が大きくなります。譲渡時期をX社やY社と調整することが可能か、甲-b土地に社員寮を建設することのメリット等を調べ、甲-a土地と甲-b土地の交換と合わせて交渉することを提案します。
不動産の取引に関する課税上の具体的な税務相談は税理士に、
売買契約等における宅地建物取引業法に規定する業務については宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については司法書士に、
地積の更正や変更の登記は土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
Part2は不動産関連の問題ですが、Part1と同じように相続が関係していることも多く、人間関係を想像するのも解答のヒントになります。振り返ってみると、本番の面接ではかなり緊張してしまい、分かっていても言葉が出てこないことがありました。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。