合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(55歳・会社員)は、大都市圏M市内の自宅において、妻Bさん(50歳・専業主婦)と長女Cさん(20歳・大学生)の3人で暮らしている。
自宅のある甲土地は、昭和30年代に亡父が当時の地主(現在の地主Dさんの父親)から借りたもので、甲土地には自宅のほかに賃貸アパートが存している。現在の自宅は、昭和54年に亡父が建て替え、その際に賃貸アパートを新築した。いずれも当時の地主の承諾を得ている。父の他界後、母が1人暮らしとなったため、家族で同居していたが、母は昨年10月に亡くなった。母が所有していた自宅および賃貸アパートとその敷地(借地)は、一人息子のAさんが相続により取得し、申告・納税等の手続を完了した。
Aさんは、借地関係を煩わしく思っていること、自宅も老朽化していることから、自宅および賃貸アパートとその敷地(借地)を売却し、最寄駅近くのマンションを購入したいと考えている。Aさんは、借地を第三者に売却する際には地主Dさんとの間でどのような手続を行えばよいのか、売却は容易にできるものなのか、売却が困難な場合に地主Dさんが借地と建物を買い取ってくれるものなのか、不明な点が多いため、FPに相談することにした。
【自宅および賃貸アパート、借地の概要】
①自宅
- 木造2階建て、延床面積80m²、4DK、築41年
- 20年前に外壁と屋根の補修、15年前に水回りの取替工事は行っているが、全体的に老朽化が進んでいる
②賃貸アパート
- 木造2階建て、8戸(各30m²)、2戸空室、家賃は平均6万円/戸、築41年
- 20年前に外壁と屋根の補修をした。その後は、賃借人からの苦情があれば、その都度、応急的な修繕を行っている。
- 建物管理は地元の不動産業者に委託しており、賃貸アパートの維持管理費等や自宅部分の地代を含めた地代支払後のAさんの手取収入は年間200万円程度である。
③借地
- 地積400m²、土地の権利は旧借地法に基づく借地権(賃借権)である。
- 権利金の支払はなく、現在の地代は年間240万円である。
- 自宅のある地域は、閑静な住宅エリアとして人気があり、借地権付き建物の取引も散見される。借地権の取引慣行のある地域である。
【購入を検討しているマンション】
- 鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)、総戸数150戸、最寄駅から徒歩5分、
- 築3年、所在階10階、専有面積80m²、3LDK、価格8,000万円
(FPへの質問事項)
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報Aさんが借地を第三者に売却する際の留意点を教えてください。
自宅および賃貸アパートとその敷地(借地)の売却/マンションの購入にあたり、課税上の論点を教えてください。
本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
①Aさんから直接聞いて確認する確認する情報は、
⑴本人しか知らないこと。トラブルの理由、関係者の意向として
取得費や取得日、契約書等が確認できる資料があるか。
借地契約書、地代の支払いを証明できる書類はあるか。
建物の設計図や契約書、重要事項説明書はあるか。
⑵お客様に寄り添うこと、本当のニーズを引き出すこととして
Aさんは、いつまで働く予定か、賃料収入は必要か。
地主Dさんとの関係は良好か。
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・建物の物理的状況を実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し物件の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し今後の開発予定や周辺環境の変化を把握すること。
⑷市場調査として
他の不動産業者などから取引事例等を確認し、市場価格の確認、近隣の地価公示価格、基準地価格、路線価、借地権や承諾料の相場を確認すること。
借地権を第三者に売却する場合には、地主に対して借地権価格の10%程度を支払い、譲渡の承諾を得る必要があります。
譲渡の承諾以外にも、建物建て替えの承諾、抵当権設定の承諾など借地契約条件のすり合わせが必要になります。
地主が承諾してくれない場合、借地非訟手続きで裁判所に申し立てを行い、裁判所の許可を得て借地権を譲渡する方法があります。
ただし、借地非訟手続きは最終手段で、借地権の取り扱いには、売却以外にも「底地と借地権の共同売却」「底地と借地権の等価交換」という方法もあるので、地主との話し合いを専門家を交えて双方納得いくように進めるべきです。
Aさんが、自宅および賃貸アパートとその敷地(借地)を売却し、マンションを購入した場合は、「特定居住用財産の買換え特例」が適用できます。
この特例は、居住用不動産の所有期間が10年を超え、居住期間が10年以上の場合に適用できます。
売却する住宅よりも高い金額の住宅に買い換える場合、元の住宅の譲渡益にかかる譲渡所得課税を買い換え先の住宅を売るときまで先送りされるので、買い替えの際、譲渡所得税等は課税されません。
元の住宅より低い金額の住宅に買い換えた場合は、売却価格から買い換え先の住宅の購入費を引いた金額を譲渡益とし、その譲渡益に見合う取得費・譲渡費用を控除した金額が課税対象となります。
買換え特例は、3,000万円の特別控除の特例と併用できません。いずれか選択制になっています。
3,000万円の特別控除と10年超所有の場合の軽減税率は併用できます。
どちらを選択した方が有利かは、税理士と協力して判断します。
親から相続した住宅の取得時期は、親が住宅を取得した時期をそのまま引き継ぐことができます。
所有期間が5年以内なら短期譲渡、5年超なら長期譲渡になり税率が異なりますが、Aさんが売却した年の1月1日までの所有期間で、長期か短期かを判定します。
Aさんが相続開始の日の翌日から3年10ヶ月以内に売却すると、相続した時の相続税のうち一定額を取得費に加算できます。
小規模宅地の特例を受けると加算額が小さくなるので、小規模宅地の特例で相続税を減らす方と売却時に取得費加算の特例を受けた方のどちらが有利か考慮する必要があります。
不動産の取引に関する課税上の具体的な税務相談は税理士に、
売買契約等における宅地建物取引業法に規定する業務については宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については司法書士に、
地積の更正や変更の登記は土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
振り返ってみると、本番の面接ではかなり緊張してしまい、分かっていても言葉が出てこないことがありました。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。