2021年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part1 (2021年10月9日) 過去問解説

本ページはプロモーションが含まれています

スポンサーリンク



きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2022年6月9日 最終更新日 2024年1月19日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2021年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2021年10月9日)

●設 例●
 Aさん(68歳)は、大都市圏近郊でXクリニック(一般内科・糖尿病外来)を個人で営んでいる。Xクリニックは開業から30年が経ち、地元住民からの評判も良好で、地域医療の中 核を担っている。

 Aさんは、将来、長男Cさん(38歳)に医業を承継してもらいたいと考えており、長男Cさんもそのつもりでいる。先日、医師会主催の医業承継セミナーに参加したところ、承継の方法として医療法人化や個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度の話を聞いた。Aさんは、どのような方法で長男Cさんに承継すればよいのか、今のうちに整理しておきたいと思っている。

 また、Aさんは、社会保険診療報酬が5,000万円を超えていることから所得税の負担が大きいと感じており、何か軽減する方法がないかと考えている。

 

【Xクリニックの概要】

  • 年間収入額は1億円。
  • 従業員は受付・看護師(社会保険加入済)の計7名。他に管理栄養士2名、内科医1名と契約している。
  • 建物の一部を調剤薬局に賃貸している。家賃は月額20万円。

 

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

  1 現預金 1億円  
  2 自宅      
   ①土地(400㎡) 1億5,000万円  
   ②建物 5,000万円  
  3 Xクリニック      
   ①土地(400㎡) 1億4,000万円 (貸付の用に供している部分は50㎡)
   ②建物 1億円  
  4 医療機器 3,000万円  
  5 未収入金   1,500万円 (社会保険診療報酬)
  合計 5億8,500万円  

※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億7,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

【Aさんの推定相続人】

  • 妻Bさん(65歳):青色事業専従者としてXクリニックの経理を担当している。Aさんと自宅で同居して いる。
  • 長男Cさん(38歳):私立大学医学部を卒業後、母校の附属病院で勤務医として働いている。妻と子2人(10
    歳、7歳)の4人家族で、病院近くの賃貸マンションで暮らしている。ゆくゆくはXクリニックを継ぐとの自覚があり、病院を辞めた後は両親との同居を考えている。
  • 二男Dさん(36歳):上場企業に勤務している。妻と子1人(4歳)の3人家族で、賃貸マンションで暮らしている。長男CさんがXクリニックを継ぐことに異論はないが、相続財産は均等に分割してもらいたいと思っている。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 長男Cさんへ、どのような形で医業承継すればよいか整理したいこと。
  • 医療法人化や個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度の活用。
  • 所得税負担の軽減対策。

問題点は、

  • 納税資金不足が予想されるので、納税資金の準備。
  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

医療法人化の、メリットを教えてください。

医療法人化のメリットは、
税負担を軽減できること。
事業承継に際し、新たに開設許可を受ける必要がないこと。
複数施設の開設や介護事業などを運営することができ幅広い事業展開が可能になることなどです。

税負担の軽減とはどういうことですか?

税負担の軽減とは、個人診療所の税率は、所得税と住民税を合わせて最大で55%にまでなってしまいますが、個人で得ていた収入を法人に分散することで、法人課税に切り替わり、最高税率が下がるため節税効果が見込めます。

ただし、法人を設立してまで個人の所得税を引き下げる効果があるかどうかは、個人の所得規模によりますので慎重に判断が必要です。

今回のケースの場合は、Xクリニックの年間収入は、1億円とあるので、法人化することで税負担の軽減効果を期待できます。

医療法人化の、デメリットを教えてください。

医療法人化のデメリットは、
運営管理が複雑化すること。
社会保険と厚生年金への加入義務が生じるため、未加入だったクリニックにとっては費用負担になること。
現在は出資持分のない医療法人しか設立できないということです。


個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度について教えてください。

個人事業者の後継者が、事業用資産を贈与または相続などで取得した場合に、一定の要件のもとで贈与税や相続税が猶予される制度です。

留意点を教えてください。

留意点は、
事前に「個人事業承継計画」を都道府県庁へ提出すること。
「継続届出書」を3年ごとに提出すること。
事業を廃止した場合や取得した財産を売却した場合は猶予された税額を納税する必要があります。
小規模宅地の特例と併用することができないので、個人版事業承継税制とどちらが有利になるか専門家を交えてシミュレーションする必要があります。

さらに、個人版事業承継税制は、後継者である長男Cさんのみにメリットがあり、他の相続人にはメリットがありません。そのため、二男Dさんのも含めてメリット・デメリットを理解して意思決定することが望ましいと考えます。


Aさんは、社会保険診療報酬が5,000万円を超えていることから所得税の負担が大きいと感じていますが、何か軽減する方法はありますか?

総収入金額が7,000万円以下かつ社会保険診療報酬が5,000万円以下の場合、「社会保険診療報酬の所得計算の特例」が適用可能です。

社会保険診療報酬が、5,000万円を超えている場合、
事業承継前後でそれぞれ、もしくは一方が5,000万円いかにできるか、
医療用機器の特別償却や、
診療報酬の、未入金残高の一定額を、貸倒引当金として経費に計上できないかなど、専門家と連携しアドバイスします。


二男Dさんは、長男CさんがXクリニックを継ぐことに異論はないが、相続財産は均等に分割してもらいたいと思っています。
何か対策はありますか?

遺言書を作成すること。
小規模宅地の特例を活用した自宅の相続や、調剤薬局からの家賃収入を代償金とした代償分割を提案します。

遺言書の種類や留意点について教えてください。

遺言書を作成する場合、相続人が争うことのないように遺留分に考慮して作成することが望ましいです。

遺言の種類には普通方式として「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、一般的には公正証書遺言、自筆証書遺言で作成されます。

自筆証書遺言保管制度について教えてください。

自筆証書遺言を法務局に保管できる制度で、保管されている遺言書は家庭裁判所の検認が不要になり相続人等の中で誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした場合には、その他の全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知が届きます。

しかし、証人がいないので自筆証書遺言の内容の有効性が争われたり、代理人では保管の申請はできず必ず本人が法務局に出向く必要があるので注意が必要です。


⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

事業承継対策や、税額軽減など、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、医業承継に関する設例でした。

最近の試験では、あまり出題されることのない設例ですが、「実技試験対策問題集」にも、医療法人やサラリーマン、個人事業主への提案事例も一定数出題されていると記載されています。

学科試験では、あまり勉強することのない分野ですが、「合格ターゲット FP技能士特訓テキスト」にも記載してありますので、一度目を通しておくとよさそうですね。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。

最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
詳しくはこちらをご覧ください

スポンサーリンク



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です