公開日 2021年12月13日 最終更新日 2024年1月19日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
大都市圏K市に所在する株式会社X社(非上場会社・精密測定器製造業)は、代表取締役社長のAさん(70歳)が40年前に設立した会社である。近年、市場を拡大しているロボットや自動化された機械などを組み込んだ製品には精密に測定された正確な寸法の部品が必要不可欠であるが、熟練工の高い技能を背景としたX社の技術力は高く評価され、堅調な需要があり、経営状態は良好である。Aさんは、X社が2年前、機械設備の更新にあたって金融機関から設備資金を借り入れた際、経営者保証を提供している。
Aさんの最大の悩みは、X社の事業承継である。Aさんには長男Cさん(45歳)と長女Dさん(43歳)の2人の子がいるが、長男Cさんは、大手出版社で出版部長を務めており、X社の経営に必要な専門知識もなく、以前から父親の事業は継がないと表明している。また、長女Dさんも、X社の経営にはまったく関心がない。Aさんは、X社の財産である従業員の生活を守るため、廃業する事態だけは何としても避けたいと考えている。
そこで、Aさんは、自身の後継者を社内に求め、取締役技術部長のEさん(40歳)に白羽の矢を立てた。3年前に取締役に抜擢したところ、Eさんは臆することなく積極的に意見を述べ、現在に至るまで期待に応える働きを見せている。先日、創業時から支えてくれた専務取締役のFさん(68歳)に打ち明けたところ、Eさんを後継者とすることに賛同してくれた。Aさんは、近いうちにEさんに打診することとし、それに先立って、どのような手順でEさんへの事業承継を進めればよいか整理することとした。
なお、Fさんは、承継の道筋がついたら、Aさんとともに勇退するつもりとのことである。。
【Aさんの家族構成】
妻Bさん (70歳):専業主婦(X社の役員ではない)。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(45歳):出版社勤務。妻と2人の子の4人で持家に住んでいる。
長女Dさん(43歳):パート従業員。会社員の夫と2人の子の4人で持家に住んでいる。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
現預金 : 8,000万円 (役員退職金は考慮していない) 上場株式 3,000万円 X社株式 : 1億6,000万円 X社本社・工場土地(1,000㎡) : 1億8,000万円 (注) 自宅土地(300㎡) : 8,000万円 自宅建物 : 3,000万円 合計 : 5億6,000万円 ※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億6,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
(注)X社は土地の無償変換に関する届出書をAさんと連名で税務署に提出し、Aさんに通常の地代を支払っている。
【X社の概要】
資本金:5,000万円 会社規模:大会社 従業員数:80人 配当:実施なし
売上高:20億円 経常利益:8,000万円 純資産:10億円
株主構成(発行済株式総数1,000株):Aさん80%、Fさん20%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額20万円/株、純資産価額80万円/株
※Aさん・Eさん・Fさんは、それぞれが特殊の関係にある者(同族関係者)ではない。
※X社株式は譲渡制限株式である。(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として
問題点は、Aさんの相続発生時に、
それでは、今あげた相談内容および問題点を解決するためには、どのような提案・方策が考えられますか?
Eさんへの事業承継の進め方ですが、親族外承継のメリット・デメリットを十分理解し、Eさんの意向や長男Cさん、長女Dさんの意向も伺いながら事業承継を進めていく必要があると考えます。
親族外承継のメリット・デメリットを教えてください。
親族外承継とは、社内の従業員・役員もしくは部外から招へいした人物に会社を引き継ぐ行為です。
主な方法は二つあります。
一つ目は、会社の経営権を後継者に任せつつ現経営者が引き続き自社株を保有し続けるケースで、一時的に経営者を代行してもらいながら、将来的には後継者に会社を引き継ぎます。
この場合、相続発生時に自社株が相続財産として扱われるため、後継者に自社株を確実に引き継ぐためには遺言などで対処する必要があります。
二つ目は、自社株ごと経営権を後継者に引き継がせるケースで、事業承継のタイミングで後継者に会社をまとめて引き継がせるケースです。
遺言などで対処する必要はありませんが、後継者が自社株を取得する際に多大な資金力が求められるため、資金調達方法を検討する必要があります。
親族外承継のメリットは、
従業員や役員を後継者に選べば、すでに業務に携わっているため教育に時間をかける必要もなく、ビジョンやノウハウも理解しており、教育する手間が省けます。
業務能力に長けている人材が後継者となれば、金融機関や取引先からも理解を得やすく、融資や取引の継続も期待できます。
役員や一般の従業員から経営者に昇格させることで、その他の役員や従業員のモチベーションも向上し業績アップも期待できます。
親族外承継のデメリットは、
後継者が自社株を買取る場合、自社株の全てを買い取るには多額の資金が必要になりますが、資金力不足で親族外承継ができないケースも出てきます。
経営者自身が保証人となって金融機関から融資を受けるケースも多く、事業承継時に後継者が連帯保証人になることを要求される可能性があります。親族外の人物が連帯保証人になることは、大きなリスクを伴うので親族外承継を拒まれてしまう可能性があります。
Eさんが株式を買い取る資金が不足している場合、どのような提案をしますか。
一般的な金融機関による融資や、経営承継円滑化法による金融支援等を活用して事業承継を果たすことを検討することになります。
親族外承継以外の事業承継の選択肢を教えてください。
親族外承継以外の事業承継の選択肢には、親族内承継やM&Aがあります。
親族内承継とは、子供や配偶者、兄弟姉妹、叔父叔母、甥姪などに会社を引き継ぐ行為です。
メリットは、
贈与や相続によって事業を承継し、相続税対策として少しずつ贈与して相続財産を減らしていくか、相続時精算課税制度を活用して株価の低い時にまとめて贈与するなどの方法があります。
親族内承継のデメリットは、
承継財産が高額なほど、多額の納税資金や買取資金が必要となり、資金調達をどうするかという問題があります。
また、親族であるというだけで後継者を選定すると、経営者としての能力に欠ける人物が後継者になってしまうこともあります。
M&Aとは企業の合併買収のことです。
M&Aには、合併、株式交換、移転、会社分割、株式譲渡、事業譲渡などの種類があり、中小企業では比較的簡単な株式譲渡によるM&Aが多く行われています。
株式譲渡が行われると、一般的には株主と社長が替わりますが、企業は存続して事業を承継し、資産・負債や許認可の移転手続きも不要です。
社名や取引先、顧客なども変わらないため、見た目でわかるような変化はありません。
M&Aのメリットは、
後継者が見つからず廃業になると、雇用している従業員が仕事を失います。元々の従業員を引き継ぐ形でM&Aを行えば、従業員の生活を心配する必要がなくなります。
M&Aは株式を売却することによって行われるので、経営者は売却益を得ることができ、リタイア後の生活資金等に役立ちます。親族や従業員に事業承継すると、経営者が連帯保証人になっている負債の問題が発生しますが、M&Aの場合、連帯保証や担保提供は不要になります。
これまで培ってきた技術やノウハウを活かし、承継先の企業の資本や人材も活用することで新規事業に取り組み企業の成長が期待できます。
M&Aのデメリットは、
M&Aを行うことで、従業員の待遇や営業方針などが変わる可能性もあり、第三者が経営陣に収まることで不満を抱える従業員や、取引を中止する企業が出てくる可能性があります。
経営状況や売却条件が合致せず、マッチングする企業が見つからない場合もあります。
Aさんは、X社が2年前、機械設備の更新にあたって金融機関から設備資金を借り入れた際、経営者保証を提供してますが、事業承継に際し何か問題点はありますか?
Aさんの経営者保証をそのままEさんが引き継ぐことになった場合、Eさんは事実上X社の債務について無限責任を負うのと近い状態になってしまい、円滑な事業承継を妨げる要因になります。
解決策として、経営者保証に関するガイドライン及び特則の内容をよく検討し、会社を整備することで、経営者保証なしの融資を検討します。
ガイドラインの適用対象は、
ガイドラインに適用する経営状況であれば、既契約の融資についても、事業承継の際や、融資条件の見直し、借り換えなどの際に考慮されることになり、経営者保証なしでも融資を受けられる可能性が高まります。
円滑な遺産分割を行うためにはどのような提案・方策が考えられますか?
遺言書の作成を提案します。
遺言書を作成する場合、相続人が争うことのないように遺留分に考慮して作成することが望ましいです。遺言の種類には普通方式として「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、一般的には公正証書遺言、自筆証書遺言で作成されます。
自筆証書遺言保管制度ついて教えてください。
自筆証書遺言を法務局に保管できる制度で、保管されている遺言書は家庭裁判所の検認が不要になり相続人等の中で誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした場合には、その他の全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知が届きます。
しかし、証人がいないので自筆証書遺言の内容の有効性が争われたり、代理人では保管の申請はできず必ず本人が法務局に出向く必要があるので注意が必要です。
⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんの最大の悩みは、X社の事業承継に際し後継者が決まっていないことです。
事業承継は、さまざまな課題を検討しながら進めていく必要がありますが、Aさんと後継者だけの話し合いですべてが決められるわけではなく、相続人やX社の経営状況も考えながら進めていく必要があります。
Aさんはもちろん、Eさんや長男Cさん、長女Dさんと一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回の設例では、事業承継、親族外承継に関する課題が主なテーマと考えました。
納税資金の準備、相続税額の軽減、円滑な遺産分割はどの設例にもほぼ共通している問題点なので、それ以外の経営者保証やEさんへ打診していないこと、Fさんが20%株式を取得している点などが重要ではないかと考えましたが、実際の面接では、どんな質問がされたのでしょうか?
検討のポイントは、今までの試験と同じ内容が示されているので、テーマについての説明も概要だけでなく、問題点や留意点も説明できると良さそうな気がします。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。
最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。