公開日 2024年9月4日 最終更新日 2024年9月10日
FP試験では、改正があった内容は頻出です。まだ施行されてないからといって油断していると足をすくわれます。
そこで今回は、令和5年(2023年)から令和8年にかけて変更される、所在者不明土地の解消に向けたルールについて解説します。
所在者不明土地とは、次のいずれかの状態となっている土地のことをいいます。
所有者の所在等が不明な場合には、土地が管理されず放置されることが多いため、周辺の環境や治安の悪化を招いたり、防災対策や開発などの妨げになったりしています。
また、共有者の一部が所在不明の場合、その利用に関する共有者間の意思決定をすることができず、土地所有者の探索に時間と費用がかかるため、公共事業や土地の活用に支障が出たり、隣接する土地に悪影響が出るなど、さまざまな問題が発生します。
目次
所在者不明土地が占める割合は九州本島の大きさに匹敵するといわれており、今後も高齢化の進展によりますます深刻化するおそれがあります。
そこで、所有者不明土地の「発生予防」と「土地利用の円滑化」の両面において、令和5年(2023年)4月から、所有者不明土地の問題を解消するためのルール変更が段階的に施行されます。
相続登記とは、亡くなった人が所有していた不動産の名義を相続人の名義へ変更することです。
不動産の所有者が誰なのかは法務局で管理されている登記簿に記録されており、不動産を相続した人は相続登記を申請する必要があります。
これまで、相続登記の申請は任意とされており、申請をしなくても不利益を被ることはあまりありませんでした。したがって、相続した土地に価値があまりなく、売却も困難な場合などは、費用や手間がかかるため登記の申請をせず、所在者不明土地が発生する一因となっていました。
そこで、所在者不明土地の発生予防策として、令和6年(2024年)4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。
相続等により不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請を行う必要があります。
また、遺産分割協議が行われた場合は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容を踏まえた登記を申請する必要があります。
なお、正当な理由なく、この期限内に登記をしなかった場合、10万円以下の過料が科せられることになります。
相続登記ですが、2024年4月1日以前に発生していた相続にも適用されるので、過去に相続した相続登記未了の不動産も登記義務化の対象となり、正当な理由なく期限内に申請しなければ10万円以下の過料の対象となります。
これまで、相続登記せず放置してきた人が多い理由の一つに、戸籍謄本などが必要だったり、法定相続分の割合を確定しなければならないなど、手続きが煩雑なことがあげられます。
そこで、より簡単に相続登記ができるように、相続人申告登記制度が令和6年(2024年)4月1日から始まりました。
この制度を利用すると、戸籍謄本などの資料がなくても、相続が開始したことと、自分が相続人であることを法務局に申し出れば、相続登記義務を行なったことになります。
ただし、申出をしたとしても不動産の所有権を取得したことにはなりません。
不動産を売却や担保にするためには、正式な相続登記を申請する必要があります。
これまで、住所等の変更登記の申請は任意とされており、申請をしなくても不利益を被ることはあまりありませんでした。また、転居の都度、その所有不動産の住所等の変更登記をするのは負担になり、所在者不明土地が発生する一因となっています。
そこで、所在者不明土地の発生予防策として、令和8年(2026年)4月1日から、住所等の変更登記の申請が義務化されます。
登記簿上の不動産の所有者は、所有者の氏名や住所を変更した日から2年以内に住所等の変更登記の申請をしなければならないこととされました。
なお、正当な理由がないのに申請をしなかった場合には、5万円以下の過料が科せられることになります。
相続登記の義務に伴って、亡くなった人が所有していた不動産については、漏れなく相続登記の申請を行う必要があります。
したがって、相続人は亡くなった人の所有していた不動産を漏れなく把握する必要があります。
しかし、登記記録は不動産ごとに作成されており、全国の不動産の中から亡くなった人がどの不動産を所有しているかを調査する仕組みはありません。
そこで、亡くなった人の不動産がどこに所在するかわからない場合、登記官において、亡くなった人が登記簿上の所有者として記録されている不動産をリスト化し、証明する制度が令和8年(2026年)2月2日に施行されます。
所有不動産記録証明制度を活用すれば、全国的に一括して不動産の調査が可能となり、一部の不動産について相続登記が漏れていたという事態も防ぐことも可能になります。
これまで、住所等の変更登記をせず放置してきた人が多い理由の一つに、手続きが煩雑なことがあげられます。
そこで、住所等の変更登記の手続の簡素化・合理化を図る観点から、登記官が他の公的機関から取得した情報に基づき、職権で住所等の変更登記をする仕組みが、令和8年(2026年)4月1日から導入されます。
住所等の変更登記がされるのは、本人の了解があるときに限られ、個人の場合には、住基ネットからの情報取得に必要な、生年月日などの検索用情報を提供する必要があります。
DV被害等を受けていて不動産登記簿上に住所を公開されたくない場合は、DV防止法、ストーカー規制法、児童虐待防止法上の被害者等を対象に、対象者が載っている登記事項証明書等を登記官が発行する際に、現住所に代わる事項として、委任を受けた弁護士等の事務所や支援団体等の住所、法務局の住所などを記載する制度が設けられました。
土地を相続した場合に、自分で住んだり売却するなどして、その土地を活用できれば良いのですが、住むには場所が遠方だったり、貸したり売却するのも難しいと、固定資産税などの管理費用の負担が大きくなり、相続した土地を手放したくなることが考えられます。
そこで、所有者不明土地の発生予防の観点から、相続等によって土地の所有権を取得した相続人が、法務大臣の承認により、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする相続土地国庫帰属制度が、令和5年(2023年)4月27日に施行されました。
相続土地国庫帰属制度の対象は、買い手がつかない土地や農地、山林も申請の対象ですが、全ての土地を国に引き渡すことができるわけではなく、通常の管理又は処分をするに当たって過大な費用や労力が必要となる次のような土地については対象外です。
通常、土地を売却すると売却代金を得られますが、相続土地国庫帰属制度の場合は、申請する際に、1筆の土地当たり1万4000円の審査手数料を納付する必要があります。
審査手数料の他にも、法務局による審査を経て承認されると、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金を納付することになります。
負担金は、1筆ごとに20万円が基本ですが、一部の市街地の宅地、農用地区域内の農地、森林などについては、面積に応じて負担金を算定します。
財産を管理する人がいない場合、現行制度では、人単位で財産全般を管理する必要があり、土地・建物以外の財産も調査・管理しなければならず非効率でした。
また、所有者が判明している場合でも、適切に管理されないことによって周辺の環境や治安の悪化を招いたり、防災対策や開発などの妨げになったりしています。
そこで、土地・建物の効率的な管理を行うために、所有者が不明な土地・建物や、所有者による管理が適切にされていない土地・建物を対象に、個々の土地・建物の管理に特化した財産管理制度が新たに設けられました。
所有者不明土地・建物管理制度とは、調査しても所有者やその所在を知ることができない土地・建物について、利害関係者が地方裁判所に申し立てることによって、その土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらうことができる制度です。
管理人は、裁判所の許可を得れば、所有者不明土地の売却や取り壊し等もすることができます。
管理不全状態にある土地・建物の管理制度とは、所有者が土地・建物を管理せずこれを放置していることで他人の権利が侵害されるおそれがある土地・建物について、利害関係者が地方裁判所に申し立てることによって、その土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらうことができる制度です。
管理人が、ひび割れや破損が生じている壁の補修工事や、ゴミの撤去・害虫の駆除等を行うことで、管理不全化した土地・建物の適切な管理が可能となります。
いずれの制度も管理人には、事案に応じて、弁護士・司法書士・土地家屋調査士等が選任されます。
共有状態にある不動産について、所有者の所在等が不明な場合には、その利用に関する共有者間の意思決定をすることができず、公共事業や土地の活用に支障が出たり、隣接する土地へ悪影響が出るなど、さまざまな問題が発生します。
そこで、共有物の利用や共有関係の解消をしやすくする観点から、共有制度全般について様々な見直しが行われました。
ただし共有者が音信不通の場合、共有名義不動産の売却やその共有者が共有持分を失う行為はできません。
遺産分割協議は、相続開始後、いつでもすることが可能です。遺産分割協議の期限や遺産分割協議書の期限は、特に設けられていません。相続人間で合意が成立しなければ遺産分割協議は成立しないため、合意が成立するまで、いくらでも時間を掛けることができます。
しかし、相続が発生した後、遺産分割が行われず、不動産の名義変更をしないまま長期間放置されてしまうと、その間に次の相続が発生し、相続関係が複雑になってしまい所在者不明土地が発生する一因となります。
そこで、遺産分割がされずに長期間放置されるケースの解消を目的とする新たなルールが設けられ、被相続人の死亡から10年を経過した後の遺産分割は、原則として具体的相続分を考慮せず、法定相続分(又は指定相続分(遺言による相続))によって画一的に行うこととされました。
遺産分割のルールは、法定相続分を基礎としつつ、特別受益や寄与分などの個別の事情を考慮して具体的な相続分を算定するのが一般的です。
特別受益とは、亡くなった人が生前に特定の相続人に贈与した財産や援助が、他の相続人と不平等にならないよう相続時に考慮されるものです。たとえば、結婚の際に住宅資金を受け取っていた場合、それが特別受益として扱われることがあります。
寄与分とは、相続人の中で特に亡くなった人の財産形成や維持に貢献した場合、相続財産の取り分が増加することを指します。例えば、長年にわたり親の介護を行ってきた相続人が寄与分を主張することが可能です。
これらの制度は、相続が公正に行われるために非常に重要な役割を果たしますが、遺産分割がされずに長期間経過した場合、具体的相続分に関する証拠がなくなってしまい、遺産分割が更に難しくなるといった問題があります。
そこで、2023年4月1日から施行された改正民法では、相続開始の時から10年を経過した場合、特別受益や寄与分を主張することができないこととされました。
ただし、以下のような例外的な場合には、相続開始から10年経過していても、特別受益や寄与分の主張が可能です。
隣地から伸びてきた枝の切取りなど、自分の土地での作業を行うために隣地に立ち入る必要があった場合、隣地所有者の承諾がなければ立入りができませんでしたが、民法の改正により、承諾を得られない場合であっても隣地を使用することができるようになりました。
隣地を使用したい場合は、原則として事前に、その目的、日時、場所及び方法を隣地所有者等に通知しなければなりません。
ただし、急を要する場合や、隣地所有者等が特定できなかったり、所有者が所在不明など、あらかじめ通知することが困難な場合は、隣地の使用を開始した後に遅滞なく通知することで使用することができます。
これまでは、電気・ガス・水道等のライフラインを他の土地に設置する場合などの規定がなかったので、隣地の所有者に設備の設置に応じてもらえない場合や、隣地の所有者が所在不明である場合等には、隣地を使用することが困難でした。
そこで、ライフラインを確保するための設備設置権や設備使用権が規定され、他の土地に設備を設置しなければならなかったり、他人が所有する設備を使用しなければライフラインを継続的に利用することができないときに限り、必要な範囲内で他の土地に設備を設置したり、他人が所有する設備を使用することが可能となりました。
ライフライン設備の設置・使用において、隣地使用権との違いは、例外なく事前に、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者や、他の土地を使用している者に通知しなければならないことです。
他の土地等の所有者が所在不明であっても、事前の通知が必要です。
相手方が不明な場合は公示による意思表示が必要です。
FP試験、特に1級の試験では施行日前でも出題されることがあります。
相続土地国庫帰属制度や、ライフラインの設備設置権等は過去の実技試験で出題されていました。
テキストなどに掲載されていない内容も多いと思いますが、試験直前対策として知識をブラッシュアップさせておきましょう。