合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(67歳)は、妻Bさん(66歳)と2人で首都圏のL区にある駅前商店街に近い甲土地上の甲建物で暮らしている。長女Cさん(35歳)は、M区の区役所に近い分譲マンションに夫と子2人と暮らしており、長男Dさん(30歳)は、Aさんの自宅の近くの賃貸マンションで妻と暮らしている。最近、長男Dさんの妻が妊娠したこともあり、長男DさんからAさんに対して、「将来のことを考えると、父さんと母さんと一緒に暮らしたほうが、いろいろと協力し合えるのでいいんじゃないか」と提案があった。そこで、Aさんは、現在の自宅を売却して、新しい土地上に長男Dさん家族と住む二世帯住宅を建築することを前向きに検討することにした。
まず、Aさんは、資金計画を検討するにあたって、自宅を売却する場合の譲渡所得に対する所得税と住民税がいくらになるか知りたいと思い、取得費について調べることにした。その結果、2021年にAさんの父Eさんから相続(限定承認ではない)で取得した甲土地・甲建物を含む過去の経緯について、次のことが判明した。
- 父Eさんは、1950年4月にN区に戸建て住宅を購入している。その際の取得費に関する資料はまったく残っていない。
- 父Eさんは、1986年6月にN区の戸建て住宅を売却し、同月中に現在Aさんが住んでいる甲土地・甲建物を購入している。その際の資料が残っていた。ただし、父Eさんの譲渡所得に関する所得税の申告書の控は見つかっておらず、居住用財産の譲渡について譲渡所得の金額の計算に係る特例の適用を受けたのかは不明である。
また、Aさんは、自宅の売却について相談している不動産業者が作成した売買契約書の記載例を見るうちに、「公租・公課の負担」という規定があることに気づいた。譲渡所得の金額の計算上、この規定に基づき受け取る清算金の取扱いが知りたいと思っている。
(FPへの質問事項)
Aさんの二世帯住宅の建築に関する資金計画について、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報 ①父Eさんが1986年に自宅の譲渡・買換えを行った際、次のいずれかの特例の適用を受けていた場合、Aさんが甲土地・甲建物を売却する際に、譲渡所得の金額の計算上、取得費はどのように計算されますか(甲建物の減価償却費相当額は考慮しなくてよい)。・いわゆる居住用財産の買換え特例
・いわゆる3,000万円特別控除②Aさんが甲土地・甲建物を売却する際に、公租・公課の負担の規定に基づき受け取った清算金は、譲渡所得の金額の計算上、どのように取り扱いますか。
二世帯住宅には、どのような登記方法がありますか。また、建築時や将来Aさんの相続時における登記方法ごとの留意点を説明してください。 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年2月 参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんの二世帯住宅の建築に関する資金計画について、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
Aさんや長男Dさんの年収。
賃貸マンションの家賃。
建築資金の出資割合。
健康状態や今後のライフプラン。
ご家族の意向。
資産状況や借入状況。
相続税対策は検討しているか。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
⑷市場調査として
近隣の二世帯住宅の相場などを地元の不動産業者等で確認します。
父Eさんが1986年に自宅の譲渡・買換えを行った際、居住用財産の買換え特例の適用を受けていた場合、Aさんが甲土地・甲建物を売却する際に、譲渡所得の金額の計算上、取得費はどのように計算されますか?
居住用財産の買換え特例を使った場合は、その土地建物の実際の取得代金ではなく、先に売った旧資産の取得費をその資産の取得費として引き継ぐことになります。
1986年に取得した甲土地・甲建物の取得費はZ円ではなく、1950年の取得費を引き継いで計算します。
買換えなどで取得した資産の取得の時期はどのように計算されますか?
居住用財産の買換え特例を使った場合、新たに購入した住宅の取得時期は、その住宅を購入した日となり取得時期は売却した不動産の取得時期を引き継ぎません。
1986年に取得した甲土地・甲建物の取得日は1986年となります。
父Eさんが1986年に自宅の譲渡・買換えを行った際、3,000万円特別控除の適用を受けていた場合、Aさんが甲土地・甲建物を売却する際に、譲渡所得の金額の計算上、取得費はどのように計算されますか?
3,000万円特別控除を使った場合は、先に売った旧資産の取得費は引き継ぎません。
その土地建物の実際の取得代金が取得費になります。
Aさんが甲土地・甲建物を売却する際に、公租・公課の負担の規定に基づき受け取った清算金は、譲渡所得の金額の計算上、どのように取り扱いますか。
甲土地・甲建物を売却する際に、公租・公課の負担の規定に基づき受け取った清算金は譲渡価額に含めます。
公租公課とは、国や地方公共団体に納める税金や保険などのことで、不動産では固定資産税や都市計画税、不動産取得税のことをいいます。
固定資産税は1月1日の所有者に1年分が賦課されます。年の途中に不動産を売却した場合、市区町村ではなく、売主と買主の間で精算することとなります。
買主は売主が支払った固定資産税のうち、譲渡日から年末までの買主が負担すべき期間にかかる固定資産税を売主へ支払い、売主が受け取った固定資産税相当は譲渡価額に含めて計算します。
二世帯住宅には、どのような登記方法がありますか。また、建築時や将来Aさんの相続時における登記方法ごとの留意点を説明してください。
二世帯住宅では、単独登記・共有登記・区分登記の3つの登記方法があります。
建築時や将来Aさんの相続時における単独登記の留意点を説明してください。
単独登記とは、二世帯住宅を一戸の住宅として考え、親か子のどちらかの名義で登記を行う方法です。基本的には、住宅を購入した人の名義になります。
登記費用が一度で済むというメリットがあります。
しかし、親も資金を出したのに子の単独登記になった場合には、親から子に贈与があったとみなされて贈与税がかかる場合があります。
また、親の単独登記にしていた場合には、相続について兄弟で揉めるケースや相続税がかかることもあります。
建築時や将来Aさんの相続時における共有登記の留意点を説明してください。
共有登記は、二世帯住宅を一戸の住宅として考えた上で、出資額の割合に応じて親と子とで共有しているものとして登記を行います。
親と子が住宅ローンを利用すると、それぞれに住宅ローン控除も利用できるため、単独登記に比べると節税効果が高まります。
ただし、親の出資額が大きいにも関わらず共有割合を半々としてしまうと、親から子に贈与があったとみなされて贈与税の課税対象となることがあります。
共有名義の場合、親の共有持分が相続財産となります。
そのため相続について兄弟で揉めるケースや、二世帯住宅で親と同居していた子が、相続後も住み続けられるのかという問題が生じることもあります。
建築時や将来Aさんの相続時における区分登記の留意点を説明してください。
区分登記とは、二世帯住宅を完全に別戸として考え、完全分離型の二世帯住宅でそれぞれの世帯を一戸として別々に所有権を登記します。
区分登記にした場合、登記にかかる費用は2倍にはなるものの、住宅ローン控除だけでなく、固定資産税や不動産所得税の軽減措置も親と子がそれぞれ対象となるため節税効果が高くなります。
区分登記では二世帯住宅を全く別の戸と考えるため、子が家を建てている部分の親の土地に関しては小規模宅地の特例が適用されません。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、居住用財産の買換え特例の取得費、公租公課精算金、二世帯住宅の登記方法に関する設例でした。
居住用財産の買換え特例は学科試験でもよく出題されます。
学科試験と異なり実技試験の場合だと、譲渡所得の計算ではなく適用要件や制度の内容を理解してニーズに合ったアドバイスを考える必要があります。
短期的なメリットだけでなく、長期的な視点で有利不利を説明できると良いですね。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。