公開日 2024年4月2日 最終更新日 2024年6月21日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(65歳)と弟Bさん(63歳)は、父Cさんから引き継いだS市内のディスカウントストア(甲土地600m²、甲建物300m²、私鉄急行停車駅であるS駅から徒歩5分)を共同で経営している。甲建物は、Aさんが代表取締役、弟Bさんが専務取締役を務める同族会社(X社、株式持分はAさん50%、弟Bさん50%)が所有している。X社は、甲建物が竣工した1982年に法人登記され、当時の甲土地所有者である父Cさんと甲土地の賃貸借契約を締結し、「土地の無償返還に関する届出書」を所轄税務署に提出した。地代は公租公課と同額を現在に至るまで支払っている。父Cさんは10年前に亡くなり、現在、Aさんと弟Bさんが各2分の1の持分で甲土地を共有している。
X社のディスカウントストア事業は、5年前、近隣の工場跡地に大型の競合店が進出した影響で売上が低迷し、直近3年間は赤字経営となっている。Aさんと弟Bさんは、今後の収支改善は厳しく、甲建物が老朽化し始めていることもあり、内部留保金約5,000万円があるうちに安定収益が得られる事業に切り替えたいと考え、地元の不動産会社Y社に相談した。Y社からは、立地的に甲土地は商業性がさほどなく、新たな店舗出店者は見込みづらいため、賃貸アパートの企画が一番有効であると下記の提案を受けた。
【Y社からの提案内容】
近年、単身者向け住戸(専有面積20m²前後)の空室が増加しており、ファミリー向け住戸(専有面積40~50m²)のほうが需要がある。また、3階建ては重量鉄骨造となって建築費が軽量鉄骨造よりも20%程度高くなるので、軽量鉄骨造2階建て、延べ面積720m²、総戸数16戸(専有面積平均45m²)、建築費総額1億8,000万円(25万円/m²)の賃貸アパート建築を提案したい。このプランで満室時月額賃料176万円(11万円×16室)を見込めると考えている。
Aさんは、Y社からの提案内容は魅力的であるが、1億8,000万円の建築費にためらいを感じている。建築費の大半は銀行からの借入れで賄う予定だが、借入額が半分程度になればこの提案を前向きに考えたいと思っている。また、甲土地について、このまま弟Bさんとの共有状態を続けていてよいのか気になっている。Y社によれば、周辺相場から、100m²程度の整形地であれば戸建て住宅用地として2,700万円で取引可能とのことである。
このような状況のもと、AさんからFPであるあなたに相談があった。
(FPへの質問事項)
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報 X社は「土地の無償返還に関する届出書」を所轄税務署に提出していますが、この手続にはどのような意味がありますか。 甲土地の有効活用にあたって、Aさんが希望する建築費借入額(Y社提案額の半分程度)に抑えるためには、どのような方法が考えられますか。また、Aさん、弟Bさんの共有状態を解消するために、どのようなアドバイスをしますか。 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年2月 参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
賃貸アパート経営に関して希望する収益や利回り。
Aさんの家族構成や所有資産の状況。
今後のライフプラン。
相続税対策は検討しているか。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
⑷市場調査として
Y社の取引事例や財務状況を確認すること。
周辺の取引事例を、地元の不動産業者等で確認し、Y社の提案は妥当かを確認します。
X社は「土地の無償返還に関する届出書」を所轄税務署に提出していますが、この手続にはどのような意味がありますか。
個人が所有する土地に、会社名義の建物を建てる場合、税務上、権利金の認定課税の問題が発生する可能性があります。
権利金とは、他人の土地に借地権を設定して建物を建てるときに、賃借人が地主に支払う金銭のことです。
ただし、この権利金を授受する取引の慣行がある地域で、その授受が行われないときは、これらの行為があったものとみなし、税務上課税されることになります。
土地の無償返還に関する届出書を提出することで、借地人は権利金を支払わなくてもよく、地代についても、低額か支払わなくてもよくなります。
土地の無償返還に関する届出書を提出した土地の相続税評価額を教えてください。
土地の無償返還に関する届出書を提出した場合は、将来、無償で土地を返還することになるので、借地権に価値はありません。
ただし、実際には借主が土地を使用していることを考慮して、貸宅地として評価することが可能となり、自用地評価額の80%で価額を評価します。
また、相続税の申告では、借主である会社の株式の評価も必要になります。
会社の株式を評価するときは、自用地評価額の20%を会社の純資産価額に加算します。
土地の無償返還に関する届出書を提出した場合、小規模宅地等の特例は適用できますか?
土地の無償返還に関する届出書を提出していれば、貸付事業用宅地か特定同族会社事業用宅地に該当し、小規模宅地等の特例が適用できます。
しかし、小規模宅地等の特例が適用できるのは、その土地が有償の賃貸借契約によって貸付けられている場合に限られます。
地代が無償であれば使用貸借契約となるため、貸宅地として評価されませんし、小規模宅地等の特例の対象にもなりません。
留意点を教えてください。
土地の無償返還に関する届出書は、地代を無償にしないことです。
仮に無償であっても権利金の認定課税を避けることは可能ですが、無償もしくは固定資産税等と同等の金額だと使用貸借契約とみなされてしまいます。
使用貸借契約の場合、相続が発生した際に貸宅地とされず、相続税評価額の減額や小規模宅地等の特例が適用できなくなります。
地代は、固定資産税等の2倍~3倍以上の金額にすることが推奨されています。
他に権利金の認定課税を回避する方法はありませんか?
借地人であるX社が、地主であるAさんに相当の地代を支払うと認定課税はなくなります。
この場合の相当の地代とは、その土地の更地価格の6%程度の金額です。
甲土地の有効活用にあたって、Aさんが希望する建築費借入額(Y社提案額の半分程度)に抑えるためには、どのような方法が考えられますか?
Y社が提案している賃貸アパートの建築規模を半分程度に縮小することを検討します。
Y社が提案している賃貸アパートは、軽量鉄骨造2階建て、延べ面積720m²、総戸数16戸(専有面積平均45m²)、建築費総額1億8,000万円(25万円/m²)です。
単純計算では、総戸数を16戸から8戸に減らすことで、満室時月額賃料も176万円(11万円×16室)から88万円(11万円×8室)に減りますが、建築費も半分程度に抑えることが可能だと思います。
Aさん、弟Bさんの共有状態を解消するために、どのようなアドバイスをしますか?
分筆による共有状態の解消をアドバイスします。
どうしてですか?
Y社によれば、周辺相場から、100m²程度の整形地であれば戸建て住宅用地として2,700万円で取引可能とのことです。
分筆の手続きをとり、Aさん、弟Bさんそれぞれの名義で登記を行うことで、共有関係が解消できます。
Aさんは、建築規模を半分程度に縮小した賃貸アパートの建設、Bさんは持ち分を単独で売却することが可能となります。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、土地の無償返還に関する届出書、土地の有効活用、共有名義の解消に関する設例でした。
Part1の設例には、X社は土地の無償返還に関する届出書をAさんと連名で税務署に提出し、Aさんに 通常の地代を支払っていると記載されていることが多くあります。
借地契約では、権利金の支払いの有無や地代の取り決めなどに注意して設例を読みましょう!
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。