公開日 2021年7月10日 最終更新日 2024年1月11日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(68歳)は、株式会社X社(非上場会社・製造業)の代表取締役社長である。大都市圏N市に所在するX社は、40年前にAさんと仲間(Eさん・Fさん・Gさん)の4人で設立した会社である。従業員50人超の会社に成長し、業績は堅調に推移している。
【X社の事業承継】
Aさんは、70歳を前にして、事業承継とX社株式の移転を真剣に考えるようになった。Aさんには、長男Cさん(37歳)と二男Dさん(34歳)の2人の子がいる。長男Cさんは、外資系金融機関に勤務しており、地元N市に戻る意思はない。昨年、X社の取締役(工場長)に就任した二男Dさんは、社内外からの信頼が厚く、後継者としての自覚を持っている。最近、取引先から少数株主対策についての質問を受けたこともあり、自身の事業承継のタイミングで、設立メンバーのEさん・Fさん・Gさん(持株割合は各10%。Aさんの事業承継のタイミングで全員退職する意向である)に対する対策を急ぐ必要性を感じている。幸い、3人ともに、二男Dさんを後継者にすることに賛成している。
【Aさん自身の資産承継】
最近、二男Dさんから「将来は、父さんと母さんの面倒を見るつもりだから、一緒に暮らさないか。二世帯住宅に建て替える費用は、俺が全額負担するよ」との申出があり、うれしく思っている。妻Bさん(67歳)は、孫との生活を楽しみにしているようである。Aさんは、X社関連の資産を中心に、財産の大半を二男Dさんに承継させたいと考えており、自筆証書遺言の保管制度を利用して、その旨の遺言書を残したいと思っている。妻Bさんには、相応の金融資産を相続させるつもりである。
長男Cさんは、収入が高く、所有する東京都内のタワーマンションに住んでいる。先日、X社を二男Dさんに承継させることや二世帯住宅の話を電話でしたが、関心を示すことはなかった。Aさんは、長男Cさんに財産を承継する必要はないと思っている。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
現預金 : 1億円 (役員退職金は考慮していない) X社株式 : 2億5,900万円 自宅土地 : 7,000万円 (300㎡) 自宅建物 : 1,000万円 X社本社兼工場土地 : 1億1,000万円 (800㎡、無償返還方式・通常の地代にて賃貸) 合計 : 5億4,900万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億5,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地の評価減適用前)と見積もられている。
【X社の概要】
資本金:5,000万円 会社規模:中会社の大 従業員数:55人 配当:実施なし
売上高:13億円 経常利益:4,000万円 純資産:6億円
株主構成(発行済株式総数10万株):Aさん70%、Eさん(専務取締役)10%、Fさん(取締役)10%、Gさん(取締役)10%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額3,000円/株、純資産価額10,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である。
※E・F・Gは、Aさんとは第三者の関係(同族関係者ではない)にある。(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として
問題点は、
それでは、今あげた相談内容および問題点を解決するためには、どのような提案・方策が考えられますか?
納税資金の準備と相続税の軽減対策ですが、⑴生命保険の活用、⑵小規模宅地の特例の活用などがあげられます。
それらの方策のなかで、何をAさんに提案しますか?
⑴生命保険の死亡保険金は、相続人が保険金を受け取る場合に限り「500万円 × 法定相続人の人数」が非課税金額となります。
今回のケースでは相続人は、妻Bさん、長男Cさんと二男Dさんの3人ですので500万円 × 3人=1,500万円が非課税となり受け取る死亡保険金から引くことができます。
小規模宅地の特例の活用はどのように提案しますか?
一定の条件を満たすことで土地の相続税評価額を、特定居住用は330㎡、事業用は400㎡まで80%軽減され、貸付事業用は200㎡まで50%軽減されます。
今回のケースでは、自宅を建て替え二男Cさん家族と同居することを検討していますが、二世帯住宅に立て替えた場合でも、
などの要件を満たすことで自宅土地300㎡すべてが80%軽減されます。
X社本社兼工場土地は、無償返還方式で通常の地代にて賃貸しているので、二男DさんがX社を引き継ぐことで、自宅の土地300㎡とX社本社兼工場土地の800㎡のうち400㎡は完全併用可能で80%軽減することができます。)
土地の無償返還に関する届出書を税務署に提出した土地については、どのように評価しますか?
自用地価額の80%で価額を評価します。
ただし、無償返還の届出書の提出がある場合でも、使用貸借の場合は自用地評価となります。
妻Bさんには、相応の金融資産を相続させるつもりですが問題点はありますか?
問題点があるとしたら、解決策はどのような提案をしますか?
妻Bさんに金融資産を中心に相続させると、仮に法定相続分で遺産分割すると自宅を相続することができなくなる可能性があります。
配偶者居住権を設定することで、自宅に住み続ける権利である敷地利用権と配偶者居住権付きの敷地所有権とに分けて相続することができ、預貯金を得ながら自宅に住み続けることが可能になります。
配偶者居住権の留意点を教えてください。
留意する点は、配偶者居住権には登記が必要で譲渡・売却ができません。配偶者が施設に移るなどし自宅に住まなくなった場合も、賃貸として賃料を得ることは可能ですが、自宅を売却して費用を捻出することができません。
子供が複数人いる場合も、例えば所有権を長男にしてしまうと配偶者の相続時に長男が自宅の権利を取得するので兄弟間での遺産分割が不平等になります。
配偶者居住権を設定しても小規模宅地の特例は適用可能ですか?
配偶者居住権を設定しても、通常の宅地と同様に取得した親族が一定の要件を満たせば、小規模宅地の特例は適用可能です。
今回のケースでは、妻Bさんと二男DさんはAさんと同居予定なので、敷地利用権を妻Bさんが取得し、配偶者居住権付きの敷地所有権を二男Dさんが取得することで、小規模宅地の特例とも併用可能です。
ただし、二次相続の際に二男Dさんに自宅の権利が移ってしまうので、長男Cさんが納得できるよう話し合いをすることが必要です。
円滑な遺産分割を行うためにはどのような提案・方策が考えられますか?
遺言書を作成する場合、相続人が争うことのないように遺留分に考慮して作成することが望ましいです。遺言の種類には普通方式として「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、一般的には公正証書遺言、自筆証書遺言で作成されます。
代償分割は、所有財産に占める不動産の比率が高い場合などは不動産を相続した人の取得割合が多くなることが考えられます。
今回のケースでは、二男Dさんが後継者として事業を引き継ぐと遺産の多くを二男Dさんが取得するため長男Cさんの遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があるので、生命保険の活用や生前贈与により代償分割の準備をすることが必要です。
自筆証書遺言保管制度ついて教えてください。
自筆証書遺言を法務局に保管できる制度で、保管されている遺言書は家庭裁判所の検認が不要になり相続人等の中で誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした場合には、その他の全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知が届きます。
しかし、証人がいないので自筆証書遺言の内容の有効性が争われたり、代理人では保管の申請はできず必ず本人が法務局に出向く必要があるので注意が必要です。
生前贈与の活用はどのように提案しますか?
生前贈与の活用には、歴年贈与、教育資金、結婚・子育て資金贈与、住宅取得資金贈与などがあげられます。
今回のケースでは、二男Dさんが事業を引き継ぐと遺産の多くを二男Dさんが取得するため、長男Cさんの遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があるので、教育資金の一括贈与や歴年贈与などを積極的に行うことを提案します。
遺留分の民法特例とはどのような制度ですか?
一定範囲内の親族には遺留分によって、最低限の相続財産が保障されているので、相続人が複数存在する場合には、自社株が分散して経営に関わる意思決定に支障をきたすおそれがあります。
遺留分の民法特例を利用することで除外合意や固定合意を実施できます。
除外合意とは、非上場株式を遺留分の計算から除外できる制度で、固定合意とは遺留分の計算に占める自社株の金額を合意時の価額に固定する制度です。
両合意を併用することで、株価の上昇を心配することなく、後継者が株式を取得できるようになります。
少数株主対策が必要なのはどうしてですか? 対策はどのように考えますか?
少数株主も会社法上、株主権が認められています。通常時は問題にならなくても、事業承継、相続発生時など会社として重要な意思決定をする際に、少数株主の存在により、会社運営に支障をきたす可能性があります。
対策としては、売買などによって他の株主の保有する株式を任意に取得する方法や、スクイーズアウトを実行し、少数株主から強制的に株式を取得する方法があります。
⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
事業承継や少数株主の対策には、多岐にわたる専門性の高い知識やスキルが必要で、複雑な内容も多くあります。
また、Aさんは、長男Cさんに財産を承継する必要はないと思っているが、二男Dさんが後継者として事業承継するためには、円滑な遺産分割が重要になります。
ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。
最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。皆さんのFP1級技能士試験合格を願っています。