合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(80歳)は、三大都市圏のS市内において、先祖伝来の甲土地と乙土地を所有している。Aさんは、3年前に妻を亡くして以来、乙土地上の自宅(乙建物)に1人で暮らしており、青空駐車場として賃貸している甲土地からの賃貸収入(年間400万円)と、年金収入(年間200万円)で生活を送っている。Aさんには、一人息子の長男Bさん(50歳)がいるが、隣県のT市内にある分譲マンションで妻子と暮らしており、S市に戻る予定はない。
Aさんは、認知能力に問題はないものの、要介護1の認定を受けており、長男Bさんの勧めもあって、近々長男Bさん宅の近くにある介護付き有料老人ホームに入居する予定である。
先日、Aさんのもとに大手ドラッグストアであるX社の担当者が来訪し、長男Bさんの立会いのもとで話を聞くと、甲土地上に新規出店したいとの申入れがあった。その際、近々老人ホームへ入居する予定であることを伝えたところ、Aさん側の事情を踏まえて、3つの提案(右頁の【X社からの提案内容】参照)があった。
Aさんは、現在の駐車場収入が低いと考えていたこともあり、長男Bさんと相談し、X社の各提案を検討してみることにした。
【Aさんの所有財産の概要】
- 現預金:3,000万円
- 甲土地:地積1,200㎡、固定資産税・都市計画税は年間200万円
- 乙土地:地積150㎡
- 乙建物:木造2階建て、1980年築、延べ面積130㎡
※乙土地・乙建物の固定資産税・都市計画税は年間10万円
※入居予定の介護付き有料老人ホーム:入居一時金2,000万円・年間費用360万円(賃料、管理費、食費、日用品等)
Aさんは、現状の現預金は減らしたくないと考えている。また、地代の手取り収入から入居費用のほかに、長男Bさんに毎年110万円ずつ、暦年課税による贈与を行うことを希望している。Aさんは、X社の各提案と自身の計画について、FPであるあなたに相談をしてきた。
【X社からの提案内容】
提案①:甲土地を借地期間20年の事業用借地権で賃借する。
- 月額地代60万円(年額720万円)。なお、前払地代として2,000万円(毎年の地代のうち100万円の20年分)を支払うことも可能。
提案②:甲土地・乙土地を借地期間20年の事業用借地権で賃借する。乙建物の解体費はX社が負担する。
- 月額地代70.3万円(年額844万円)。なお、前払地代として2,000万円(毎年の地代のうち100万円の20年分)を支払うことも可能。
- 有効利用後の甲乙一体地の固定資産税・都市計画税は、年間225万円と見込まれる。
提案③:乙土地・乙建物を現状有姿で2,300万円で購入する。また、甲土地を借地期間20年の事業用借地権で賃借する。
- 月額地代62.5万円(年額750万円)
※有効利用後の所得税・住民税・社会保険料の合計額は、おおむね年金収入と同額となる見込みである。したがって、地代収入から固定資産税・都市計画税を控除した額をおおむね手取り額と考えてよい。
※乙土地・乙建物を現状有姿で売却する場合の市場価格は2,200万円程度である。
(FPへの質問事項)
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報乙土地について、Aさんが老人ホームに入居後に売却する場合の課税関係はどうなりますか。また、老人ホームに入居したAさんが亡くなった後、相続人である長男Bさんが売却する場合の課税関係はどうなりますか。
あなたは、Aさんに提案①、提案②、提案③のいずれを勧めますか。その理由とともに教えてください。
長男Bさんへの贈与計画に関して、将来の相続税を踏まえて、何か気を付ける点はありますか。
本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2026年6月 参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
Aさんから直接聞いて確認する情報は、主に6点あります。
1つ目は、不動産の取得時期や取得費用の把握です。
土地については『先祖伝来』とありますので 、不明であれば売却価格の5%を概算取得費としますが、Aさんの手元に過去の契約書や領収書が残っていないかを必ず直接確認いたします。
また、1980年築の乙建物についても 、当時の建築費用が分かれば譲渡所得を低く抑えられるため、取得費に関する書類の有無を確認します。
2つ目は、甲土地・乙土地以外の資産・負債の全体像です。
開示されている現預金3,000万円、甲・乙土地建物以外に、有価証券、生命保険(死亡保険金や入院保険)、あるいは隠れた負債(先代からの債務など)がないか確認します。
3つ目は、老人ホーム入居後の将来のライフプランと支出予測です。
老人ホームの年間費用360万円以外に、Aさん自身の医療費、介護保険の自己負担分、お小遣い、将来の葬儀費用など、追加で必要となる資金が年間どの程度見込まれるか確認します。
4つ目は、現在の青空駐車場の契約状況と立ち退き条件です。
駐車場全体の契約台数、解約予告期間(通常1〜3ヶ月前)、および解約にあたって利用者との間でトラブルが生じるリスクや、立ち退き費用が発生する契約になっていないか詳細を確認します。
5つ目は、長男Bさんの将来の承継・保有の意向です。
BさんはS市に戻る予定はないとのことですが、将来Aさんから甲土地(借地)を相続した際、そのまま地主として30年、40年と管理を引き継ぐ意思があるのか、あるいは早期の現金化(売却)を望んでいるのか、本音を確認します。
6つ目は、認知症リスクへの備えに対する意向です。
Aさんは現在認知能力に問題はありませんが、要介護1であり高齢です。今後ホーム入居後や借地契約中に認知能力が低下した場合に備え、家族信託や任意後見制度などを活用してBさんに財産管理を託す意思があるか確認します。
FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
まず、現地に赴き、土地・建物の物理的状況、および周辺環境を直接確認いたします。
次に、法務局で公図や地積測量図を請求し、敷地の正確な境界線、形状、および隣家からの越境物の有無を法的な観点から確認します。
また、現在の名義人が間違いなくAさん単独になっているか、金融機関の抵当権や第三者の権利設定が残っていないかを精査します。
自治体の都市計画課で用途制限、および景観条例などの独自の規制がないかを精査します。
また、今後の道路拡幅計画や土地区画整理事業、大型商業施設の出店予定、あるいは駅周辺の再開発計画などがないかを自治体の開発担当部署でヒアリングします。
X社の財務健全性や経営状態を調査し、20年という事業用定期借地期間中に倒産や中途解約などのリスクがないか精査します。
X社が提示する地代や、乙土地建物の買取価格が、周辺の普通商業地区の路線価や実際の取引相場と比較して妥当であるか検証します。
自宅を売却する場合に、「居住用財産の3,000万円特別控除」が使えるか詳細なタイムラインを計算します。特に要介護認定を受けてホームに入居した際の特例要件を満たしているか税務上の実務を調査します。
入居予定の老人ホームの契約形態(利用権方式など)や、万が一Aさんが早期に退去・転院せざるを得なくなった場合における「入居一時金(2,000万円)の初期償却率や返還金(保全措置)」の規約内容を調査します。
乙土地について、Aさんが老人ホームに入居後に売却する場合の課税関係はどうなりますか。
Aさんが老人ホーム入居後に売却する場合、税負担を劇的に軽減できる「居住用財産の3,000万円特別控除(マイホームの特例)」および「10年超所有の軽減税率の特例」の適用が可能です。
Aさんが老人ホームに入居して自宅に「住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日」までに売却すれば、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。
老人ホームに入居したAさんが亡くなった後、相続人である長男Bさんが売却する場合の課税関係はどうなりますか。
Aさんの相続発生後、長男Bさんが乙土地・建物を相続して売却する場合、要件を満たすと「空き家に係る譲渡所得の特別控除(空き家特例)」が適用されます。
乙建物は1980年(昭和55年)築であり、法律の基準である「昭和56年5月31日以前に建築された家屋(旧耐震基準)」の要件をクリアしています。
本来、相続直前に被相続人が一人で暮らしていたことが条件ですが、Aさんのように要介護認定等を受けて老人ホームに入居していた場合でも、「入居直前まで一人暮らしだったこと」「入居後に家屋を貸付けや他の者の居住の用に供していないこと」等の要件を満たせば、相続直前までAさんが住んでいたものとみなされ、特例の対象となります。
あなたは、Aさんに提案①、提案②、提案③のいずれを勧めますか。その理由とともに教えてください。
提案③(乙土地・建物を売却し、甲土地のみ事業用定期借地とするプラン)を勧めます。
Aさんの年間必要額は、老人ホーム費用360万円と長男への贈与110万円の合計470万円です。
設例の前提条件に基づき、各提案の収支を比較すると自宅(乙土地・建物)を2,300万円で売却するため、そこから老人ホームの入居一時金2,000万円を全額支払っても、手元に300万円の現金が残ります。
年間の収支も、甲土地の地代収入750万円から、甲土地の固都税200万円を差し引いた手取り額は550万円となり(乙土地は売却したため固都税は0円)ここから年間必要額470万円を支払っても、「毎年80万円の黒字」となり、3つの提案の中で最も手元にお金が残る健全な家計を構築できるからです。
また、乙土地・乙建物を現状有姿で2,300万円で購入するということなので、Aさん自身が老人ホームに入居して自宅に「住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日」までに売却すれば、「居住用財産の3,000万円特別控除」が確実に適用されます。
さらに、設例には「現状有姿での市場価格は2,200万円程度」と記載されているため 、X社の提示する2,300万円は相場よりも高く買ってくれる非常に有利な取引であり、経済的合理性が極めて高いです。
一人息子の長男Bさんは隣県にマイホームを持って暮らしており、S市に戻る予定はありません。
今のうちに自宅(乙土地)を売却して現金化し、老人ホーム費用というAさん自身の生前生活費として綺麗に消費しておくことは、将来の相続財産をスリム化し、Bさんが引き継ぐ財産を甲土地と現預金だけに集約できるため、財産管理の観点からも最もスマートです。
長男Bさんへの贈与計画に関して、将来の相続税を踏まえて、何か気を付ける点はありますか。
2024年(令和6年)1月1日以降の税制改正により、暦年課税贈与における相続前持ち戻し(生前贈与加算)の期間が、従来の「3年」から「7年」へと段階的に延長されています。
Aさんは現在80歳であり、長男Bさんに対してこれから毎年110万円の暦年贈与を行ったとしても、将来Aさんの相続が発生した際には、亡くなった日から遡って最大7年間に受け取った贈与財産が、Aさんの相続財産に加算されて相続税の課税対象になってしまいます。
毎年の「贈与税」こそ基礎控除内で無税になりますが、Aさんの年齢と延長された持ち戻し期間を考慮すると、Aさんが期待されているほど、将来の相続税の引き下げ効果は得られない可能性が高い点に注意が必要です。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
税理士。
自宅を生前売却する際、「居住用財産の3,000万円特別控除」および「10年超所有の軽減税率の特例」を確実に適用するための税務申告書の作成。
長男Bさんへの毎年110万円の贈与について、令和6年税制改正を踏まえた「新・相続時精算課税制度」を選択した際の手続き、または孫や嫁へ分散贈与した際の「7年持ち戻しルール」の適用関係の精査を依頼します。
弁護士。
大手ドラッグストアX社との間で交わす、20年間の「事業用定期借地契約書」のリーガルチェック、中途解約条項や地代改定特約に地主側が一方的に不利な条件がないかの検証を依頼します。
司法書士。
乙土地・建物をX社へ現状有姿で売却した際の「所有権移転登記」の手続き。
甲土地に設定する借地期間20年の「事業用定期借地権設定登記」の申請代行。
不動産鑑定士。
X社から提示されている乙土地・建物の現状有姿買取価格「2,300万円」や、甲土地の地代(月額62.5万円など)が、周辺の普通商業地区の相場に照らして真に適正であるかを評価・裏付けするレポートの作成を依頼します。
土地家屋調査士。
甲土地・乙土地の境界が未確定の場合、隣地や市道・県道との「境界確定測量」の実施。
X社が引き渡し後に古い乙建物を解体した際、登記簿を閉鎖するために必要となる「建物滅失登記」の現況調査および申請手続きを依頼します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回の設例は、居住用財産の3,000万円特別控除、空き家に係る譲渡所得の特別控除、生前贈与に関する設例でした。
Aさんは現在80歳、認知能力に問題はありませんが、すでに「要介護1」の認定を受けています。そして、X社との事業用定期借地契約は「20年間」という超長期です。
実技試験で必要なのは「知識の暗記」だけではありません。
「目の前で困っている、ホーム入居を控えた80歳のAさんと遠方の長男Bさんを、あなたのFPとしての知恵でどうやって幸せにするか 」が重要です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。