合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
首都圏近郊のK市の北端地域(市街化調整区域)にある甲土地(地積18,000㎡)は、2024年3月に廃校となった市立小学校の跡地であり、現在は未利用地である。甲土地が所在する地区は、平坦地に形成された旧来からの農家住宅地域である。
甲土地の所有者はAさん(82歳)を含めて5人(右頁参照)で、小学校開校時(1975年)から甲土地をK市に賃貸していた。所有者の5家はいずれも同じ地区内の古くからの農家であり、つながりも深い。最近は代が替わり若い世代も混じってきたため、長老格で甲-1土地の所有者であるAさんが、地権者の総意によりまとめ役を担っている。
小学校の廃校に伴い、甲土地は2024年9月末に賃貸借契約に基づき更地化され、Aさんたちに無償で返還された。解約時点の地代は、年間1,200円/㎡(継続賃料)であり、全員同額であった。固定資産税は甲土地全体で一体評価とされ、年間負担額は300円/㎡である。また、甲土地の一体としての現在の価格は、不動産鑑定士により36,300円/㎡と評価されている。
甲土地の返還後、Aさんら地権者は全員で話し合い、新たな借り手を見つけて賃貸を継続することで合意した。そこで、大手不動産会社のK支店に依頼し、新たな借り手を探してもらっていたが、1年半経っても見つからなかった。甲土地の立地や規模を考慮すると、主に、物流倉庫、社会福祉関連施設、医療関係施設、学校等が候補であるが、最寄駅から距離があることや、周辺環境、道路条件が悪いことなどからなかなか借り手が見つからないとのことである。また、有力と思われた物流倉庫も開発許可を得るのが難しく、手を出しにくいとのことだった。そんななか、大手物流会社のX社から、開発許可が不要である特別積合せ貨物の配送センター用地として、甲土地を借りたいとの申出があった。
【X社からの申出】
- 形式は事業用定期借地権、期間30年、賃料は有効面積当たり年間1,800円/㎡とする。
- 西側、南側の道路を幅員9mにしたいので用地の提供を無償でお願いしたい。
- 地区外の道路用地(右頁参照)買収費および工事費用の合計で1億2,000万円が見込まれており、これを負担してもらいたい。ただし、契約時に当社で1億2,000万円を保証金として無利息で貸し付けるので、30年間で均等返済(年間返済額400万円)していただきたい。
この申出に対して前向きな意見が多かったが、唯一甲-2土地の所有者であるBさん(46歳)が猛反発した。Bさんの主張は「土地を無償で減らされるのは嫌だ。その分賃料収入が減るのも納得できない。そもそも道路沿いの土地と無道路地の賃料が同額というのもおかしい」というものだった。Bさんの主張にはAさんも同感する部分がある。
Aさんはこの話を進めたいと思っているが、このような状況で、地権者間の合意を得るにはどのようにしたらよいか、FPであるあなたのもとに相談に訪れた。
(注1)網掛け部分は、幅員9mまでの後退線である。
(注2)高速道路のインター入口までは約600mと近いが、乗り入れる主要県道からは70mほど離れており、その間を結ぶ道路幅員が4m~4.5mと狭いため、多くの車両の通行を前提とする業種には不向きである。
(注3)地域全体が市街化調整区域の指定を受けていることから、開発や道路整備等が遅れており、一般農家住宅、公共施設のほか、農地や山林、空地の多い地域である。
(注4)当地域の事業用定期借地権が設定された底地の標準的なNOI利回りは4.0%~4.5%である。
(FPへの質問事項)
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報都市計画法上、市街化調整区域内にはどのような建物の建築が可能ですか。市街化調整区域内における開発行為制限の例外について教えてください。
NOI利回りとはどのようなものですか。また、NOI利回りを求める算式を教えてください。
Bさんの意向も考慮し、地権者間の合意を得るためにはどうすればよいですか。
本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2026年6月 参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
Aさんから直接聞いて確認する情報は、主に3点あります。
1つ目は、地権者5人の資産背景と相続税対策の現状です。
Aさんは82歳とご高齢であるため、自身の相続税対策(納税資金の有無や生前贈与の意向)がどの程度切実であるか。
反対しているBさん(46歳)を含め、他の地権者(Cさん、Dさん、Eさん)の現在の職業、収入、資金繰りの状況、および将来の世代交代(相続)の見通しを確認します。
2つ目は、X社の条件に対する地権者ごとの許容度と不満の深さです。
道路拡幅のために無償提供する敷地がBさんやAさんに偏っており、C・D・Eさんは面積が減少しません。この不公平感について、Bさん以外の地権者はどのように感じているか。
地区外道路買収等のための「1億2,000万円の無利息借入(30年均等・毎年400万円返済)」について、各地権者が毎年の賃料収入から返済していく負担感(資金繰り)をどう捉えているかを確認します。
3つ目は、過去のK市への賃貸時における「賃料分配」のルールです。
小学校時代にK市から得ていた賃料(1,200円/㎡)や、固定資産税(300円/㎡)の負担について、これまでは単に「地積割合(構成割合)」だけで一律に按分していたのか、それとも道路の有無などによる格差をつけていたのか、過去の実例を確認します。
FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
まず、現地に赴き、土地の物理的状況、および周辺環境を直接確認します。
次に、法務局で公図や地積測量図を請求し、敷地の正確な境界線、形状、および隣家からの越境物の有無を法的な観点から確認します。
また、現在の名義人が間違いなくAさんになっているか、金融機関の抵当権や第三者の権利設定が残っていないかを精査します。
自治体の都市計画課で用途制限、および景観条例などの独自の規制がないかを精査します。
また、今後の道路拡幅計画や土地区画整理事業、大型商業施設の出店予定、あるいは駅周辺の再開発計画などがないかを自治体の開発担当部署でヒアリングします。
甲土地は「市街化調整区域」に所在するため、原則として建物の建築は制限されています。
X社の言う「特別積合せ貨物配送センター」が、都市計画法において、本当にK市から建築確認および開発許可を得られるかどうかの確実な裏付けを調査します。
また、西側・南側の市道を幅員9mに拡幅し、地区外買収地を経て県道14mに接続した後の、道路の帰属関係(K市に寄付して公道化するのか、私道のまま共同管理するのか)を確認します。
道路用地として無償提供(後退)した部分(1,150㎡)について、所得税や贈与税、固定資産税の非課税措置(公衆用道路としての免税)が受けられるかどうかの税務上の取扱いを調査します。
X社から「無利息」で融資を受ける(保証金として預かる)ことによる利息相当額の経済的利益について、各地権者に所得税(不動産所得の総収入金額への算入)や贈与税(みなし贈与)が課されるリスクの有無を税理士と連携し確認します。
甲土地全体の相続税評価額の精査(地権者ごとの格差検証)について、現在は不動産鑑定士により一体で36,300円/㎡と評価されていますが、相続税評価(路線価方式または倍率方式)において、道路に面していない「無道路地(甲-3、甲-4、甲-5)」と、道路に面している「甲-1、甲-2」の評価格差が実際どの程度あるかを確認します。(Bさんの主張の正当性を数理的に検証するため)。
最後に、周辺の事業用定期借地権の賃料相場とX社の信用調査を行います。
K市周辺の市街化調整区域における、物流倉庫や配送センターの事業用定期借地権の地代相場(年間1,800円/㎡・NOI利回りの妥当性)の検証。
30年間の超長期にわたり賃料を支払い続ける大手物流会社X社の財務健全性・企業信用力を調査します。
都市計画法上、市街化調整区域内にはどのような建物の建築が可能ですか。市街化調整区域内における開発行為制限の例外について教えてください。
市街化調整区域は「市街化を抑制すべき区域」と定義されているため、原則として建物の建築やそれにともなう開発行為は厳しく制限されています。
しかし、例外的に建築が認められる建物や、開発行為の制限を受けない法律上の「適用除外(例外)」が設けられています。
市街化調整区域内であっても、「農林漁業用の建築物」「公益上必要な建築物」「都市計画事業や土地区画整理事業などの施行として行うもの」「通常の管理行為、軽微な行為」などは、都道府県知事等の開発許可を受けることなく例外的に建築が可能となります。
また、開発許可が原則不要となるケースに該当しなくても、周辺の市街化を促進するおそれがなく、やむを得ないと認められる一定の要件を満たせば「農林水産物の処理・貯蔵・加工施設」「日常生活に必要な物品の小売業等の店舗」などは、例外的に許可されます。
したがって、今回X社から提案された「特別積合せ貨物配送センター」は、「公益上必要な特定の建築物」に該当し、都道府県知事等の開発許可を受けることなく例外的に建築が可能となります。
NOI利回りとはどのようなものですか。また、NOI利回りを求める算式を教えてください。
NOIとは「Net Operating Income(運営純利益)」の略で、NOI利回りとは、不動産から得られる総収入から、実際に発生する「年間運営費用(諸経費)」を差し引いた「真の純利益」をベースに算出する実質的な利回り(純利回り)のことです。
「年間の純営業利益(NOI)」を「物件の購入価格(または総投資額)」で割って、100を掛けたものです。
Bさんの意向も考慮し、地権者間の合意を得るためにはどうすればよいですか。
長老格であるAさんがまとめ役となり、Bさんの不満を完全に解消しつつ地権者5人全員の合意を得るために、賃料分配を「拡幅後の面積」ではなく「元の構成割合」にすること、「道路提供手当(接道貢献料)」を傾斜配分すること、返済金の負担割合を調整することを提案いたします。
賃料分配を「拡幅後の面積」ではなく「元の構成割合」にします。
X社の提示は「有効面積当たり年間1,800円/㎡」です 。これを単純に道路拡幅後の地積で分配してしまうと、Bさんの面積は3,600㎡から2,988㎡に減るため、年間の賃料収入が約110万円も減少してしまいます。
X社から入る賃料の総額を、拡幅後の面積ではなく、拡幅前の「元の構成割合」の比率で一括按分して分配するルールを5人で結びます。
これにより、Bさんの土地の有効面積は減っても、全員が一律で有効活用の恩恵(1㎡あたり実質1,685円の収入)を享受できるため、Bさんの「賃料が減るのは納得いかない」という不満を完全に解消できます。
Bさんの「道路沿いの土地と無道路地の賃料が同額なのはおかしい」という主張に基づき、格差配分を導入します。
AさんとBさんの道路提供がなければ、奥のC・D・Eさんの土地(無道路地)の価値は著しく低く、配送センターとしての有効活用は100%不可能でした。
そこで、総賃料収入の中から一定割合を「道路提供(接道貢献)手当」としてプールし、敷地を提供したAさんとBさんの2人に優先的に傾斜配分し、残りの金額を5人で按分する契約を締結します。
道路沿い地主としてのプライドと実利を法的に評価してあげることで、Bさんの納得感と合意へのハードルは劇的に下がります。
地区外道路買収費等の1億2,000万円(毎年400万円の返済)について、負担に差をつけます。
この毎年400万円の返済金について、土地を1㎡も減らさずに無道路地が解消するCさん、Dさん、Eさんの3人に、本来の構成割合よりも少し多めに返済原資を負担してもらう、あるいはA・Bさんの負担を軽減する調整を行います。
土地を提供した側(A・B)と、恩恵を受けた側(C・D・E)の間で、ギブ・アンド・テイクのフェアな利害調整が成立します。
Bさんに対し、「無償で提供して道路になった敷地(612㎡)については、K市に寄付するか、公衆用道路として手続きを行うことで、今後の固定資産税・都市計画税(300円/㎡)は完全に『免税(一円もかからない)』になります」と説明し、維持管理コストの不安を払拭します。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
不動産鑑定士。
道路拡幅前後の各地権者の土地の適正な経済価値の評価、およびBさんの主張に沿った「接道貢献度(適正な賃料格差・手当の額)」を数理的に算出してもらうために一線を画して関与を依頼します。
弁護士。
地権者5人間の将来のトラブルを防ぐため、「賃料の傾斜配分ルール」や「1億2,000万円の返済負担割合」を明記した、法的に拘束力のある「地権者間合意書(または共同事業組合契約書)」の文案作成を依頼します。
税理士。
X社から無利息で借り入れる1億2,000万円(保証金)にともなう各地権者の税務上の取扱い(経済的利益の課税関係)や、毎年の不動産所得の確定申告、高齢であるAさんの相続税対策の指導を依頼します。
土地家屋調査士・司法書士。
道路後退部分(1,150㎡)の正確な分筆測量と登記、およびX社との間の「事業用定期借地権設定登記」の実行のために連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回の設例は、市街化調整区域、NOI利回り、複数地権者の利害調整に関する設例でした。
実技試験は知識を披露するだけの試験ではありません。この設例のAさんの最大の相談内容は、地権者間の合意を得るにはどのようにしたらよいかです。
「不満を爆発させているBさん(46歳)」という若い世代をどうやって大人の話し合いに巻き込み、82歳のAさんの相続をカバーしつつ、市街化調整区域という行政の壁(開発許可)をX社の提案でどうやって合法的に突破するか、という「ストーリー」をトータルでコーディネートできるかが腕の見せ所です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。