合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(60歳)は、大都市圏にあるⅩ市内の自宅で妻Bさん(60歳)、長男Cさん(30歳)と3人で暮らしている。1人息子の長男Cさんは、大学卒業後に就職した会社を3年で辞めたのち、アルバイトをしていたが、現在は無職である。Aさんは2年前に父親を亡くした際、Ⅹ市内にある複数の賃貸共同住宅や貸駐車場を相続した。他に実家も相続したが、相続税を支払うために売却している。母親は5年前に亡くなっており、相続人はAさんのみであった。Aさんは、父親から引き継いだ不動産の賃貸収入で生計を立てていけると考え、勤務していた会社を1年前に早期退職した。また、塾で講師をしていた妻Bさんも同じ時期に退職している。Aさんは、不動産を引き継いでから初めて1年分の家賃収入等を確定申告することになったが、所得税が思っていた以上の金額となり、相当な負担を感じていたところ、賃貸経営セミナーで知り合ったコンサルタントのDさんから、所得税の軽減対策として下記の提案を受け、会社の設立からすべて請け負うと言われた。
【Dさんの提案】
長男Cさんが100%出資して不動産管理業務を行うZ社を設立し、Aさんは管理報酬としてZ社に年間650万円を支払う。Z社は、Aさんがこれまで行っていた入居者管理やトラブル対応等の業務を行い、それ以外の管理業務については、従前と同じ条件(年間150万円)で不動産管理会社のY社に再委託する。Z社の役員は妻Bさんと長男Cさんとし、Z社は役員報酬をそれぞれ年間123万円ずつ支払い、残りの254万円はZ社の諸経費等に充当する。
<Z社設立前>
- 家賃収入等 : 3,400万円
- 必要経費(青色申告特別控除額を含む) : 1,100万円
(うち、Y社への管理報酬が150万円)- Aさんの不動産所得 : 2,300万円
<Z社設立後>
- 家賃収入等 : 3,400万円
- 必要経費(青色申告特別控除額を含む) : 1,600万円
(うち、Z社への管理報酬が650万円)- Aさんの不動産所得 : 1,800万円
※妻Bさんと長男Cさんは、Z社からの役員報酬以外の収入はないものとする。
Aさんは、Dさんの提案どおりにすれば所得税の軽減になるのか、このような対策をすることで何か問題は生じないのか不安になり、FPであるあなたに相談を持ちかけた。
(FPへの質問事項)
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報対策前のAさんの所得税に比べ、対策後のAさん・妻Bさん・長男Cさんの所得税の合計額が減少する理由を説明してください。
不動産の管理業務にはどのようなものがあるか、具体的な項目を挙げてください。
Dさんの提案どおりの対策を実行した場合、不動産所得の必要経費の計算上、何か問題は生じませんか。
本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2026年2月 参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
Aさんから直接聞いて確認する情報は、主に5点あります。
1つ目は、長男Cさんの意思と就業能力です。
Cさんは現在無職ですが、新たに設立するZ社の代表取締役および株主として、実際に不動産管理の実務に従事する意思と能力があるかを確認します。
実態のない役員報酬や管理実務は、税務署から否認されるリスク(同族会社における行為計算の否認等)があるためです。
2つ目は、不動産賃貸経営の詳細と現状です。
所有している共同住宅や貸駐車場の所在地、築年数、入居率、大規模修繕の履歴や今後の予定を確認します。
これらは、年間650万円という管理報酬が、社会通念上妥当な金額(適正な実務実態があるか)を判断するために不可欠です。
3つ目は、管理会社Y社との現在の契約内容です。
現在、年間150万円で委託している業務の具体的な範囲(清掃、巡回、集金代行など)を確認します。
Z社が新たに行う「入居者管理やトラブル対応」の負荷が、追加の500万円(650万-150万)の報酬に見合うものかを検証するためです。
4つ目は、Aさん夫妻のライフプランと将来のキャッシュフローです。
早期退職後の生活費の充足状況や、公的年金の見込み額を確認します。
所得の分散によりAさん個人の手取り額は減少するため、生活に支障がないかを確認する必要があります。
5つ目は、将来の相続に関する考え方です。
今回の対策は所得税軽減が主目的ですが、将来AさんからCさんへの相続を見据えた資産移転の意向があるかを確認します。
CさんがZ社の株主となることは、将来の相続税対策(自社株評価)にも繋がるためです。
最後に、他の資産や負債の状況です。
不動産以外の上場株式や現預金の有無、および相続時に引き継いだ債務や借入金の有無を確認し、総合的な資産形成のアドバイスに役立てます。
FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
FPである私自身が調査・確認すべき事項について、以下の3つの観点からお答えいたします。
まず、税務・社会保険制度に関する調査として、Aさんの現在の所得税額と、Z社設立後のAさんの所得税、Bさん・Cさんの所得税、およびZ社の法人税等の合計額と、BさんとCさんがZ社から役員報酬を受け取ることで、新たに健康保険や厚生年金保険の被保険者となる場合、その会社負担分および本人負担分のコストが節税メリットを上回らないかを、税理士や社会保険労務士と試算し、実質的な減税効果を確認します。精査します。
次に、親族が経営する管理会社への管理報酬が「不当に高額」として否認された過去の事例や、税務当局が認める報酬水準の目安を調査します。
3点目は、Dさんの提案する約19%(650万円÷3,400万円)が社会通念上妥当か判断するため、X市における不動産管理報酬の市場相場として、対象物件と同規模の賃貸共同住宅や駐車場において、入居者管理やトラブル対応を含む管理報酬の一般的な料率(賃料収入の何%程度か)を調査します。
また、今後も年間3,400万円の家賃収入が維持できるか、空室リスクや家賃下落の可能性を周辺の競合物件の状況から調査します 。
最後に、法的規制および権利関係の調査として、Aさんが相続した物件の正確な所在地、構造、面積、および抵当権の設定状況などを不動産登記簿謄本(全部事項証明書)で確認し、経営の安定性を把握すること。
将来の建て替えや有効活用を検討する際、容積率や用途地域などの制限がどのようになっているか都市計画法・建築基準法等の公的規制を調査すること。
現在の管理委託契約書を確認し、Z社への管理業務の一部移管や再委託が可能か、法的な問題がないか不動産管理会社(Y社)の再委託に関する条件を確認します。
対策前と比較して、対策後にAさん一家の所得税合計額が減少する理由を説明してください。
最大の理由は、「超過累進税率」の活用です。
Aさん一人の高い所得を、妻Bさんと長男Cさんの「給与所得」として分散することで、適用される税率をより低いレンジに下げることができます。
また、BさんとCさんが新たに「給与所得控除」を適用できるため、世帯全体での課税標準そのものが減少します。
対策前はBさんやCさんに所得がないため、それらの人的控除を十分に活用できていない可能性がありますが、分散により各人が自身の所得から控除を適用できるようになり、合算した納税額が抑制されます。
ただし、これらのメリットがある一方で、Z社自身の法人税等の負担や、社会保険料の増加、また管理報酬額が実態に見合わない場合の税務リスクについても慎重に検討する必要があります。
不動産の管理業務にはどのようなものがありますか?
大きく分けて3つあります。
1つ目は賃料徴収や収支報告などの事務管理業務です。
収支管理、管理費支払、収支報告書作成などが挙げられます。
2つ目は入居者対応や契約更新などの対人管理業務です。
入居者募集、契約締結、家賃管理、滞納対応、退去精算などを行ないます。
3つ目は清掃や設備の保守点検などの建物・設備管理業務です。
清掃、設備点検、修繕手配、法定点検対応があります。
Z社設立後は、Z社が対人管理を行い、ハード面の管理をY社に再委託する計画となっています。
Dさんの提案どおりの対策を実行した場合、不動産所得の必要経費計算上の問題点はありますか?
はい、管理報酬が「不当に高額である」とみなされ、経費算入を否認されるリスクがあります。
管理報酬が賃料収入(3,400万円)の約19%に達し、一般的な管理報酬の相場(5〜10%)を大きく逸脱しています。
現在、Y社が150万円(約4.4%)で主要な実務を行っているにもかかわらず、実態として「入居者管理やトラブル対応」を追加するだけで500万円も報酬が増えるのは、実態を伴わない利益移転と疑われ社会通念上不相当とみなされる可能性が極めて高いです。
「同族会社等の行為計算の否認」の規定に抵触しないよう、業務内容に見合った適正な報酬額(時価)であるか再検討が必要です。
Dさんの提案どおりの対策について、他に問題はありませんか?
Cさんが実際に管理実務に従事していない場合、役員報酬そのものが否認されるリスクがあります。
現在「無職」のCさんが100%出資し、実務を担うという点に実効性があるかの確認が必要です。
また、BさんとCさんに年間123万円ずつの報酬を支払うことで、彼らが所得税・住民税の納税義務者となり、かつ社会保険(健康保険・厚生年金)の被保険者となることによるコスト増(会社負担分含む)を考慮しているかを確認します。
Dさんの提案を鵜呑みにせず、中立的な専門家の意見を仰ぎ、対策を実行する前には、業務内容の詳細な棚卸しを行い、適正な報酬水準を再検討する必要があることをAさんに強くお伝えします。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
税理士。
Aさんの不動産所得の確定申告、およびZ社設立後の法人税等の申告業務を行います。
Dさんの提案における管理報酬額が、税務上の「適正な経費」として認められるかどうかの判断や、世帯全体の税負担軽減効果の正確な試算を依頼します。
司法書士。
不動産管理会社であるZ社の設立登記申請業務を担います。
商号や目的の定款への記載など、法人設立に関する法的実務の代行を依頼します。
社会保険労務士。
Z社における妻Bさんや長男Cさんの社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入手続や、労働保険に関するアドバイスを行ないます。
役員報酬を支払うことによる社会保険料の負担増と、手取り額の変化について具体的な試算を依頼します。
弁護士。
AさんとZ社、あるいはZ社とY社との間で締結する「不動産管理委託契約書」の法的チェック(リーガルチェック)を行います。
親族間取引であっても、後のトラブルや税務調査に備え、契約内容の適法性と明確性を担保するために必要に応じて助言を仰ぎます。
不動産鑑定士。
Aさんが支払う年間650万円の管理報酬が、市場価格と比較して妥当であるかどうかの鑑定や意見書の作成を検討します。
税務上の「不当に高額」という指摘を回避するための、客観的なエビデンス(適正賃料・管理料の判定)を得る際に協力が必要となる場合があります。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回の設例は、不動産管理会社、不動産管理業務、不動産所得の必要経費に関する設例でした。
相談者Aさんが「所得税の負担を重く感じている」という心理に寄り添いつつも、「脱税まがいの過剰な節税策」からは守るというスタンスが重要です。
面接官から「Dさんの提案をどう思いますか?」と問われたら、「所得分散の考え方自体は有効ですが、本案の報酬設定(約19%)は税務リスクが極めて高く、このまま実行することには反対いたします」とはっきり述べ、その理由として「実態と相場の乖離」を挙げられれば、合格点は目前です!
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。