合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(60歳)は、個人で建築設計事務所を経営している建築士である。妻Bさん(60歳)は、青色事業専従者として建築設計事務所の経理業務を担当している。
Aさんは、大都市圏近郊のS市内において、ターミナル駅を中心とした商業地域内に5階建てのテナントビルとその隣地である甲土地(200㎡)を所有しており、5階を自身の建築設計事務所として利用している。テナントビルの1階から4階は貸事務所として賃貸しており、甲土地はコインパーキングを運営するX社に賃貸している(駐車場設備の設置や運営はX社が行っている)。
Aさんには長男Cさん(35歳)と長女Dさん(33歳)の2人の子がいる。Aさん夫婦と同居している長男Cさんは、建築士として他の事務所に勤務しているが、今春よりAさんの事務所へ入所することとなった。Aさんは先日、同業の知人から「法人を設立すれば所得税や将来の相続税の負担を軽減することができるらしい」との話を聞いた。ここ数年、建築設計事務所の年間所得は約2,500万円を超えており、Aさんは法人化のメリットとデメリットを整理したうえで、長男Cさんの入所を機に事務所の法人化を検討したいと思っている。また、不動産所得についても前年は約2,000万円を超えているため、設計業を法人化する場合は、不動産賃貸業も法人化したいと思っており、1つの法人の中で設計業と不動産賃貸業を営む形式をとろうと考えている。
Aさんは、将来は長男Cさんに建築設計事務所の事業を承継させたいと考えており、自身が出資した法人を承継する場合、株式の評価など、どのように相続税が計算されるのか、今のうちに整理しておきたいと思っている。
また、会社員の夫と子の3人で、隣県の賃貸マンションで暮らしている長女Dさんから、分譲マンションの購入を検討していることを聞いたAさんは、その援助をしてやりたいと思っている。
【Aさんの家族構成(推定相続人)】
妻Bさん (60歳):青色事業専従者。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(35歳):建築設計事務所勤務。Aさんと自宅で同居している。
長女Dさん(33歳):専業主婦。夫と子の3人で賃貸マンションに住んでいる。
【Aさんの主な所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
⒈ 現預金 : 1億円 ⒉ 自宅 ①土地(300㎡) : 4,000万円 ②建物 : 1,000万円 ⒊ テナントビル ①土地(400㎡) : 1億円 ②建物 : 8,000万円 ⒋ 甲土地(200㎡) : 5,400万円 ⒌ 事業用資産 : 100万円 (建物以外の減価償却資産) 合計 : 3億9,500万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約9,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2026年2月 参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
Aさんの相談内容と問題点は大きく分けて4点あります。
1つ目は、高額な所得税を軽減するための事務所と不動産賃貸業の法人化について。
2つ目は、長男Cさんへのスムーズな事業承継と自社株評価の整理。
3つ目は、長女Dさんへのマンション購入資金の援助方法。
4つ目は、これらに伴う将来の相続税(約9,000万円)への対策と遺産分割の公平性です。
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
Aさんは法人化を検討していますが、メリットを教えてください。
メリットは、家族への役員報酬分散による超過累進税率の緩和と、給与所得控除の活用で世帯全体の税負担を抑えられる点です。
個人事業主では利益のすべてがAさんの所得となりますが、法人化することで、Aさん、妻Bさん、長男Cさんの3人に役員報酬を分散して支払うことができます。
日本の所得税は超過累進税率であるため、所得を分散することで世帯全体の適用税率を下げることが可能です。
また、役員報酬として受け取る側では「給与所得控除」を適用できるため、個人事業の時よりも課税対象となる所得(課税標準)を圧縮できます。
他にありませんか?
役員自身の退職金を経費として積み立てることが可能になるほか、生命保険料の支払いや、賃貸物件を社宅として扱うことによる節税など、個人事業主よりも経費として認められる範囲が広がります。
将来の収益(不動産賃料など)が個人ではなく法人に蓄積されるため、Aさんの個人資産の増加を抑え、相続税の増大を抑制できます。
また、長男Cさんに法人の株式を計画的に贈与することで、事業承継を円滑に進めることができます。
デメリットを教えてください。
デメリットは、法人設立費用などのコスト増に加え、社会保険料の負担増、また法人の利益が蓄積されることによる将来の株価上昇リスクが挙げられます。
また、法人が赤字であっても、資本金や従業員数に応じた「均等割(最低でも年間約7万円程度)」を毎年支払う義務が生じます。
Aさんにはどのようなアドバイスをしますか?
節税のみを目的とするのではなく、長男Cさんへの事業承継を見据え、所得水準・社会保険負担・株式承継計画を総合的に検討したうえで法人化を判断するよう助言します。
Aさんは設計業と不動産賃貸業を1つの法人で行いたいと言っています。これにどうアドバイスしますか?
管理は楽になりますが、慎重な判断を促します。
設計業務には損害賠償等のリスクがありますが、不動産を同じ法人に持つと、その事業リスクに大切な収益物件が晒されることになります。
また、将来「設計は長男、不動産は長女」のように分けたくなった場合、1つの法人では切り離しが困難です。
「倒産隔離」と「柔軟な承継」の観点から、法人を分ける選択肢も提示します。
不動産賃貸業を法人化する場合は、どうアドバイスしますか?
不動産賃貸業を法人化する場合、建物の所有権のみを法人に移し、土地は個人のまま貸し出す「土地の無償返還に関する届出」を活用した形態などを検討します。
これにより、法人の利益が過大に蓄積されるのを防ぎ、将来の事業承継時の税負担(相続税・贈与税)を抑える準備を今から行うよう助言します。
自社株の評価や相続税の計算については、どのような仕組みになりますか?
Aさんの会社は同族会社となるため、原則として「類似業種比準方式」や「純資産価額方式」で評価されます。
不動産を法人に移すと、その収益で純資産が増え、株価が上昇し続けます。
対策として、長男Cさんへの早期の生前贈与や、法人版事業承継税制の活用による納税猶予の可能性を専門家と共に検討するよう助言します。
長女Dさんに対し、分譲マンションの購入援助をしてやりたいと思っていますが、どのようなアドバイスをしますか?
住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税特例の活用をアドバイスします。
住宅取得等資金の贈与について説明してください。
父母や祖父母などの直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けた場合、一定の要件を満たせば最大1,000万円(省エネ等住宅の場合)または500万円(それ以外の住宅の場合)まで贈与税が非課税になります。
Dさんの所得制限(合計所得金額2,000万円以下)や、マンションの床面積要件(50㎡以上240㎡以下など)を満たす必要があるため、物件選定の段階で要件を確認するようアドバイスします。
1,000万円を超える援助を検討している場合はどのような提案をしますか?
1,000万円を超える多額の援助を検討されている場合には、相続時精算課税の活用も視野に入れます。
Aさんは60歳であり、Dさんは33歳であるため、この制度を選択することが可能です。
2,500万円までの贈与については、贈与時点での税負担をゼロに抑えることができます。
相続時精算課税制度の留意点について説明してください。
留意点は、この制度は一度選択すると撤回できず、将来の相続時に「贈与時の価額」で相続財産に加算して精算されることになります。
将来の相続税(見積額9,000万円)を考慮し、トータルの税負担が有利になるかを精査すべきです。
最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんは「法人化すれば税負担が軽減される」という知人(コンサルタント)の断片的な情報を鵜呑みにしようとしています。
しかし、実際には法人住民税の均等割や社会保険料の負担増、自社株評価の上昇リスク、事務負担の増加など、多くのデメリットも存在します。
FPとして、メリットだけでなくこれらの負の側面も網羅的に説明し、Aさんが「本当に自分の望む形か」を納得して判断できるように導く必要があり、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、法人化、自社株評価、住宅取得資金贈与に関する設例でした。
Aさんの所得(計4,500万円超)であれば、法人化による節税メリットは疑いようがありません。しかし、試験で問われるのは「単なる節税」ではなく「リスクへの配慮」です。
設例にある「1つの法人で設計業と不動産賃貸業を営む」という点に、倒産隔離(リスク遮断)の観点から疑問を呈せるかが評価の分かれ目です。
設計業務には「瑕疵担保責任」などの損害賠償リスクが伴います。これと優良な不動産(ビル)を同一法人にすると、万が一の際に不動産まで差し押さえられるリスクがあります。
「法人を分ける(設計法人と不動産保有法人)」、あるいは「不動産は個人所有のまま管理委託(または不動産賃貸方式)とする」などの多角的な提案を用意しましょう。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。