2025年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2025年10月5日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。

それでは、設例をお読みください。

2025年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2025年10月5日)

●設 例●
 地方中核都市で情報通信機器の販売・施工・保守を営むX株式会社(非上場会社)は、Aさん(70歳)が40年前に脱サラして設立した会社である。過去、経営に苦労する時期もあったが、顧客のオフィス環境を分析し、最適な通信環境の構築を提案する営業力を強みとして、今では業績も堅調に維持できている。

【事業承継について】

 Aさんの長男Cさん(42歳)は、大学卒業後、Ⅹ社の取引先でもある大手通信会社に就職した後、7年前にⅩ社に入社し、昨年、取締役に就任した。長男Cさんは、前職で培った通信技術の知識を活かした提案営業で実績をあげており、社内でも後継者として認められている。Aさんは、独立前に所属していた会社が事業承継で混乱したのを目の当たりにした経験から、早くから長男Cさんへのスムーズな事業承継を企図してきた。Ⅹ社株式について、長男Cさんが入社してから毎年少しずつ贈与してきたほか、妻Bさんの相続時には妻Bさんの保有分を長男Cさんに相続させ、現在に至っている。Aさんは、遅くとも75歳までには事業承継に目途をつけたいと考えている。

 X社の専務取締役である甲さん(68歳。Aさんとの親族関係はない)は、前社時代の部下で、X社の設立以来、Aさんの右腕として経営を支えてきた。甲さんはX社株式を10%保有しており、Aさんは、長男Cさんへの事業承継に先立って買取り等の処理をしておきたいと考えている。

 

【資産承継等について】

 Aさんは妻Bさんを病気で亡くしており、現在は長男Cさん家族と二世帯住宅で同居している。長女Dさん(38歳)は、夫と子の3人で都内にある社宅で暮らしており、地元に戻る予定はない。Aさんは、長男CさんにX社株式と自宅を相続させる一方、親として、長女Dさんにも相応の財産は残してあげたいと思っている。

 また、足許の経営課題として、人手不足の中、営業力の裏付けとなる人材確保・育成に腐心しているところ、取引のある保険会社から、「福利厚生プラン」の提案を受けた。Aさんはこの提案を前向きに検討しているが、中立的な第三者の意見も聞いてみたいと思っている。

 

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

現預金 1億円  (役員退職金は考慮していない)
X社株式 1億3,760万円  
自宅      
  ①土地(200㎡) 4,000万円  
  ②建物(築10年) 2,240万円  
  合計 3億円  

※Aさんの相続に係る相続税額は、約7,000万円(小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

 

【X社の概要】
資本金:1,000万円 会社規模:中会社の大 従業員数:40人 配当:毎期50円/株
売上高:15億円 経常利益:4,000万円 純資産:4億円
株主構成(発行済株式総数2万株):Aさん80%、長男Cさん10%、専務甲さん10%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額7,000円/株、純資産価額23,000円/株(注)
(注)X社は投資用として居住用マンション(一戸)を保有している。

 

【Aさんの家族構成(推定相続人)】
長男Cさん(42歳):Ⅹ社取締役。Aさん、妻と子の4人で二世帯住宅に居住している。
長女Dさん(38歳):会社員。夫と子の3人で夫の勤務先の社宅に居住している。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年10月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 遅くとも75歳までには、長男Cさんへの事業承継に目途をつけたいこと。
  • 甲さんの保有するX社株式を、長男Cさんへの事業承継に先立って買取り等の処理をしておきたいこと。
  • 長女Dさんに相応の財産を残す方法。
  • 保険会社から提案を受けた福利厚生プランについて、中立的な第三者の意見も聞いてみたいと思っていることです。

問題点は、

  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 納税資金の確保。
  • 円滑な遺産分割を行う対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

Aさんは、遅くとも75歳までに長男Cさんへの事業承継に目途をつけたいと思っています。
X社株式の承継方法について、どのような方法がありますか?

事業承継税制を活用する方法があります。

事業承継税制について教えてください。

事業承継税制とは、会社の後継者が先代経営者などから自社株式などを取得した場合に、一定の要件を満たしているときは、贈与税や相続税の納税を猶予し、後継者が次の後継者に事業承継できた場合などには、相続税や贈与税が免除になる制度です。

事業承継税制の特例措置と一般措置の違いを説明してください。

特例措置は2018年1月1日から2027年12月31日までの10年間限定で、特例措置を希望する場合は、2026年3月31日までに特例承継計画を作成し、都道府県知事に提出しなければなりません。

一般措置では、納税猶予の対象とされる非上場株式などが総株式数の最大3分の2までと制限されていましたが、特例措置では撤廃されています。

また、特例措置では相続にかかる納税猶予割合も、80%から100%へと引き上げられたり、複数の株主から最大3人の後継者へ承継できたり、雇用確保要件も弾力化されています。


甲さんの保有するX社株式を、長男Cさんへの事業承継に先立って買取り等の処理をしておきたいとのことですが、甲さん所有のX社株式を買い取る場合の課税関係を教えてください。

Aさんが買い取る場合は、譲渡価額と取得価額との差額が非上場株式の譲渡所得として20.315%の税率による申告分離課税となります。

X社が買い取る場合の課税関係について教えてください。

X社が買い取る場合は、原則として譲渡価額と譲渡した株式に対応する資本金等の額との差額が、みなし配当として超過累進税率による総合課税とされ、税率は最高税率だと55%となります。
また、譲渡した株式に対応する資本金等の額と、取得価額との差額は株式に係る譲渡所得として分離課税となります。


長女Dさんに相応の財産を残す方法について、どのような提案をしますか?

今回のケースでは、後継者である長男Cさんが遺産の多くを取得するため長女Dさんの遺留分を侵害したり、不満が出る可能性があります。
長女Dさんに相応の財産を残すには、遺留分を考慮した遺言書を作成することや、遺留分に関する民法の特例の活用、教育資金の一括贈与や住宅取得資金贈与などを積極的に行うことを提案します。

遺留分に関する民法の特例について説明してください。

事業承継による相続について、法定相続人の合意があれば、遺留分を減らせるという事です。
後継者に自社株式を集中して承継させようとしても、遺留分を侵害された相続人から遺留分に相当する財産の返還を求められた際、自社株式が分散してしまったり、資金不足になり業績が悪化し、廃業に追い込まれるということを避けるための制度です。

遺留分に関する民法の特例の適用を受けるために必要な、手続について教えてください。

遺留分に関する民法の特例の適用を受ける手続は、経営者の推定相続人全員と後継者が合意し、合意書を作成します。

次に、合意をした日から1カ月以内に「遺留分に関する民法の特例に係る確認申請書」に必要書類を添付して、経済産業大臣へ申請します。

申請後に確認書の交付を受け、確認を受けた日から1カ月以内に家庭裁判所に申立てを行い、家庭裁判所の許可を得ます。


福利厚生プランを導入することはどのような影響がありますか?

保険会社の福利厚生プランとは、会社が従業員のために加入する生命保険や医療保険などの総称です。
退職金や弔慰金などの資金準備、万が一の際の保障、そして一定の条件を満たせば保険料の一部を損金算入できる税務メリットなど、企業と従業員双方にメリットがあります。

福利厚生目的の養老保険では、保険料の2分の1は保険料積立金として資産に計上し、残りの2分の1は福利厚生費として損金算入することができ、純資産が圧縮されることで自社株評価額も引き下げることができます。


X社は投資用として、居住用マンション1戸を保有していますが、どのような影響がありますか?

賃貸不動産の土地は貸家建付地、家屋は貸家に該当します。貸家建付地や貸家の相続税評価額を算定する上で、家屋を借りている方の権利に相当する評価額を差し引く必要があるため、相続税評価額が低くなります。

賃貸用不動産を購入することで純資産価額を下げることが可能ですが、課税時期前3年以内に取得した賃貸用不動産は課税時期の通常の取引価額で評価されるので注意が必要です。


最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

事業承継について後継者は長男Cさんに決まっているものの、X社株式の承継方法や株価引き下げ対策、人材確保・育成には課題があります。
また、資産承継についても長女Dさんへの配慮が必要です。
一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、事業承継税制、少数株主対策、円滑な遺産分割、福利厚生プランに関する設例でした。

事業承継における株価と少数株主の対策は、自社株評価額の把握、株式の買い取り、第三者割当や種類株式の活用、そして少数株主との対話などが考えられます。

学科試験で学習した内容はもちろん、中小企業庁の事業承継の支援策サイトもチェックしておきましょう!

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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