合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
都内の大手企業に勤務するAさん(47歳)は、A家の一人息子であり、首都圏近郊のK市内にある自宅で妻Bさん(46歳)、高校生の長男Cさん(18歳)、高校生の長女Dさん(16歳)およびAさんの母Eさん(75歳)の5人で暮らしている。A家は古くからの農家であったが、自宅の周囲にあった農地と山林は、祖父の相続時に開発業者に大半を売却し、現在では一般住宅が立ち並ぶ住宅地となっている。また、6年前の父の相続時には残っていた農地を処分したため、農地としては現在自宅(甲土地・甲建物)に隣接する畑(乙土地)だけが残っている。この畑は、現在母Eさんが耕作を続けている。乙土地は生産緑地の指定を受けているが、指定から30年を経過した申出基準日までに、特定生産緑地の指定は受けていない。また、父の相続時に農地等の相続税の納税猶予の適用は受けていない。母Eさんは、元気なうちは畑仕事を続けたいと話しており、休日にはAさんと妻Bさんのほか、子どもたちも一緒に手伝い、みんなで楽しみながら農作業をしている。
5年ほど前、自宅南側一帯が整備され、それまで不整形だった甲土地および乙土地は、地積は減ったもののきれいな整形地となった。甲建物は、祖父が若い頃に建てたいわゆる農家住宅であり、築60年近く経っていて見た目も老朽化しているため、今では周囲の建物と調和が取れず、かなりの違和感がある。Aさんは、甲建物が設備関係を含め色々と大幅な手入れが必要となっていることや、子どもたちの強い要望もあることから、甲建物を取り壊して同じ場所に住宅を新築することにした。敷地については、Aさんおよび家族全員の意向により、これまで通り、甲土地全体をそのまま使用したいと考えている。
K市内にある、大手のハウスメーカーに相談したところ、甲建物の取壊し費用のほか、外構および庭を一新し、Aさんおよび家族が希望する間取りの建物(延べ面積約150㎡)を建てる場合、総額5,000万円(税込み)という見積もりであった。個々の内訳の合計はもっと高かったが、大幅に値引きしてもらったため、Aさんは納得している。
Aさんは、将来のことを考え、手元資金を減らしたくないと思っており、母Eさんと相談して、乙土地の一部、東側180㎡(乙-b土地)を売却して建築費に充てることにした。地元の不動産会社に相談したところ、このあたりの土地は南道路で30万円/㎡(約100万円/坪)くらいなので、乙-b土地は総額5,400万円なら売却可能とのことであった。Aさんは、その金額であれば仲介手数料や分筆、測量費用などの費用約300万円を支払っても、建築費が賄えると考えている。
Aさんはこの話を進めたいと思っているが、何か問題はないか、FPであるあなたに相談することにした。
(FPへの質問事項)
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報申出基準日を経過した生産緑地と特定生産緑地の違いはなんですか。
Aさんの計画には、どのような問題がありますか。また、その問題はどのようにすれば解決できますか。
本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年6月 参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
申出基準日はいつか。
収入の状況や今後の見込み。
健康状態や将来のライフプラン。
Aさん、および母Eさんの資産状況や相続税対策は検討しているかです。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
農政課等で生産緑地の指定要件について確認すること。
⑷市場調査として
周辺の取引事例を、地元の不動産業者等で確認し、大手ハウスメーカーの提案は妥当かを確認します。
生産緑地とはどのような制度ですか?
生産緑地とは、自然や環境と調和の取れた都市計画を推進するために、都市計画法によって市街化区域内の農地を保全していこうとする制度です。
生産緑地の指定を受けることで、固定資産税や相続税が優遇される一方、建物の建設や売却などが制限され、一定期間農業経営を続けることが義務付けられます。
特定生産緑地とはどのような制度ですか?
指定から30年を経過する生産緑地について、所有者等の同意を得て、生産緑地地区の買取り申出ができる時期を10年延長するものです。
特定生産緑地に指定されることにより、生産緑地地区に適用している税制等の優遇措置が継続されることとなり、10年経過前であれば、繰り返し10年の延長ができます。
申出基準日を経過した生産緑地と特定生産緑地の違いはなんですか?
固定資産税・都市計画税の負担、相続税納税猶予制度、買取り申し出の違いがあります。
固定資産税・都市計画税の負担の違いについて説明してください。
特定生産緑地の指定を受けると、固定資産税・都市計画税は引き続き農地評価・農地課税が適用されます。
特定生産緑地の指定を受けない場合は、固定資産税・都市計画税の負担が段階的に増加し、5年後には宅地並み課税になります。
相続税納税猶予制度の違いについて説明してください。
特定生産緑地の指定を受けると、次世代の方も相続税納税猶予制度の適用が可能です。
特定生産緑地の指定を受けない場合は、現在受けている納税猶予は継続されますが、新たな納税猶予は適用できません。
買取り申し出の違いについて説明してください。
特定生産緑地の指定を受けると、買取申し出が可能となる期日が10年間延期されます。
ただし、農業従事者が死亡したり、病気等で農業を継続できなくなったりした場合は買取りの申し出ができます。
特定生産緑地の指定を受けない場合は、いつでも買取りの申し出ができ、生産緑地をやめることができます。
Aさんの計画には、どのような問題がありますか?
乙土地の一部、東側180㎡(乙-b土地)の売却について問題があります。
Aさんの計画は、乙土地の一部、東側180㎡(乙-b土地)を売却して建築費に充てることですが、乙土地は生産緑地です。
生産緑地の指定後30年を経過していても、自動的に生産緑地の指定が解除され、売却できるようになるわけではありません。
その問題はどのようにすれば解決できますか?
売却する農地が生産緑地の場合は、まず自治体に生産緑地の買取り申出をして生産緑地の指定を解除してもらう必要があります。
そのまま自治体が買い取る場合は、その旨を知らせる通知が届き、買取価格が決定すれば、指定が解除され公共用地となります。
自治体が買い取らない場合は、農林漁業希望者に対する斡旋がおこなわれ、買主が見つかれば売却されます。
買主が見つからない場合は指定が解除され、宅地へ地目を転用して、通常の土地と同様に売却することが可能になります。
他にはありませんか?
一部の解除によって、残りの生産緑地の面積が、生産緑地地区の指定に必要な面積を下回る場合、一部解除は認められません。
以前は、500㎡以上の農地面積が生産緑地の対象となる条件でしたが、法改正(平成29年6月15日施行)後、各市区町村の条例によって300㎡以上に引き下げることができるようになりました。
乙-b土地を売却すると、残りの生産緑地の面積は360㎡になります。
K市が生産緑地地区の面積要件を300㎡以上に引き下げているかどうか、K市の生産緑地の指定要件を確認する必要があります。
他にはありませんか?
現在、甲土地は母EさんとAさんの共有名義で所有しています。
新築した建物の名義も同じように共有名義にする場合、乙土地の一部を売却して建築費に充てると母EさんからAさんへの贈与と見なされる可能性があり、贈与税が発生するリスクがあります。
新築した建物を母Eさんの単独名義とするか、相続時精算課税制度と住宅取得資金贈与の非課税制度を併用し、Aさんへ建築資金を贈与することをアドバイスします。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回の設例は、生産緑地、特定生産緑地、住宅取得資金等贈与に関する設例でした。
生産緑地に関しては、2024年2月10日のパート2の設例にも記載がありました
実技試験対策でも、過去問を繰り返し解いてみるのが効果的です。
実技試験の過去問に限らず、学科試験の過去問も解いてみるといいのではないでしょうか。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。