合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
大都市圏で医療用機械器具製造業を営むX株式会社(非上場会社)は、Aさん(73歳)が40年前に設立した研究開発型の企業である。医療現場の声を迅速に反映させる研究開発力を強みとして、ニッチな領域で高収益体制を築いている。X社は事業の性質上、研究開発や生産に伴う継続的な投資が必要となり、今期も5,000万円の生産性向上設備の導入を計画している。購入先の設備メーカーからは、即時償却または税額控除が可能な設備投資に該当すると聞いている。
【事業承継について】
Aさんの長男Cさん(47歳)は、大手精密機器メーカーで生産管理業務を経験した後、Ⅹ社に移り、現在は専務取締役として研究開発と生産部門を率いている。製品の豊富な知識と誠実な顧客対応で、得意先から大きな信頼を得ており、社内外で後継者として認められている。また、二男Eさん(42歳)は、総合商社で医療ビジネスに従事している。
Aさんは、かねがね二男Eさんの営業力とビジネスセンスを高く評価しており、兄弟が力を合わせてX社を発展させてくれることが親としてもこの上ない喜びであると考えてきた。しかし、取引銀行から紹介を受けた事業承継コンサルタントや同業者仲間から、兄弟での事業承継は、将来的に経営方針の相違等から失敗するおそれがあるとも聞いており、X社株式の承継に踏み切れないでいた。ただ、いよいよ自身も高齢になり、事業承継税制(特例措置)の期限も迫る中、そろそろ決断をしなければならないと自覚している。幸い、長男Cさんと二男Eさんの関係は良好であり、2人ともAさんの想いを全面的に受け入れている。また、二男Eさんは将来的な事業承継に備えて、総合商社を退職する決意を固めている。
【資産承継等について】
Aさんの長女Dさん(45歳)は、公務員の夫と子2人の4人で地方都市にある戸建て住宅に暮らしている。地元に戻る予定はないものの、お盆や年末年始には孫を連れて帰省しており、Aさんも毎回楽しみにしている。来年は孫が高校・大学に入学する予定であり、Aさんは、祖父として学費の支援をしてあげたいと思っている。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
⒈ 現預金 : 1億円 (役員退職金は考慮していない) ⒉ X社株式 : 4億8,000万円 ⒊ 自宅 ①土地(200㎡) : 5,000万円 ②建物 : 2,000万円 ⒋ X社工場土地(500㎡) : 1億6,000万円 (無償返還方式、通常の地代で賃貸) ⒌ 月極駐車場(300㎡) : 9,000万円 (コインパーキング設備付き) 合計 : 9億円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約2億9,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
【X社の概要】
資本金:2,000万円 会社規模:大会社 従業員数:50人 配当:実施していない
売上高:30億円 税引前利益:2億円 純資産:10億円
株主構成(発行済株式総数4万株):Aさん80%、妻Bさん20%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額15,000円/株、純資産価額30,000円/株
【Aさんの家族構成(推定相続人)】
妻Bさん (73歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(47歳):Ⅹ社専務取締役。妻と子2人の4人で戸建て住宅に居住している。
長女Dさん(45歳):専業主婦。公務員の夫と子2人の4人で戸建て住宅に居住している。
二男Eさん(42歳):総合商社勤務。妻と子の3人で分譲マンションに居住している。(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2026年2月 参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
Aさんの相談内容と問題点は大きく分けて3つあると認識しています。
1つ目は事業承継です。
特例措置の計画提出期限が来月末に迫る中、長男Cさんと次男Eさんの兄弟共同経営をどう安定させるかという点。
2つ目は納税資金です。
相続税額の概算約2億9,000万円に対し、現預金が1億円しかなく、約1億9,000万円が不足しています。
3つ目は円滑な遺産分割です。
資産の大部分が自社株と工場敷地であり、経営に関与しない長女Dさんへの配分と遺留分対策が急務です。
加えて、引退後の生活資金確保および老後の生活設計も含まれると考えられます。
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
事業承継税制(特例措置)について、Aさんにどのようなアドバイスをしますか?
まずは「特例承継計画」を提出することを最優先にアドバイスします。
これを出しておかなければ、将来100%の納税猶予を受けられる選択肢が消えてしまいます。
その上で、経営承継円滑化法の「遺留分に関する民法特例」を活用して株価を固定し、将来の税負担を確定させるメリットを伝えます。
ただし、制度は納税猶予であり、株式売却、代表者退任、会社解散などがあると猶予税額が課税される可能性があるため、長期的な経営継続体制を整えることが重要です。
したがって、Aさんには、税制メリットだけで判断するのではなく、会社の将来像と兄弟経営体制を踏まえたうえで、専門家と連携し早急に承継計画を具体化することをアドバイスします。
次男Eさんも後継者にする場合、特例措置は適用可能ですか?
後継者は最大3名まで指定可能ですが、贈与時点で代表権を有している必要があります。
同業者仲間などは「兄弟での承継は失敗する」と懸念していますが、問題点を挙げてください。
Aさんが長男Cさんと二男Eさんの兄弟による共同経営を希望している場合、事業承継における主な問題点として、次の4点が考えられます。
まず、経営権の分散による意思決定の停滞リスクです。
兄弟で株式を均等に保有すると、意見が対立した場合に経営判断ができなくなる可能性があります。
次に、将来世代で株式がさらに分散するリスクです。
兄弟それぞれの相続が発生すると、株式が配偶者や子へ分散し、将来的に経営権が分裂する可能性があります。
3点目は、後継者以外の相続人との公平性の問題です。
自社株式は評価額が高額になりやすいため、遺産分割で不公平感が生じ、紛争につながるおそれがあります。
4点目として、事業承継税制適用時の管理リスクです。
兄弟双方が制度適用を受ける場合、継続要件を長期間満たす必要があり、経営体制変更が制約される可能性があります。
以上のように、兄弟共同承継では、
経営権の安定確保と将来の株式分散防止が最大の課題となります。
兄弟共同承継での経営権の安定確保と将来の株式分散防止について解決策を提示してください。
経営権の安定のためには、原則として長男Cさんに議決権の3分の2以上を集中させるべきです。
議決権割合を調整し代表者を明確にすること、種類株式の活用、株主間契約の締結などにより意思決定の停滞を防止します。
また、「株主間合意書」を締結し、将来万が一対立した際の株式の取り扱いを事前に決めておくよう助言します。
長女Dさんに対して、円滑な遺産分割を行うための具体的な方策を挙げてください。
自社株式は後継者へ集中させ、長女Dさんには金融資産など換金性資産を承継させる内容の公正証書遺言を作成するとともに、次の3つの施策を組み合わせて提案します。
1つ目は、孫2人への「教育資金の一括贈与の非課税特例」です。
計3,000万円を非課税で贈与し、Dさんの家計を直接支援します。
ただし、この非課税措置は、期限が延長されず令和8年3月31日までで終了する見込みです。
2つ目は、「生命保険の活用」です。
Aさんを被保険者、受取人をDさんとすることで、納税資金や代償分割の原資を確保します。
3つ目は、経営承継円滑化法に基づく「遺留分に関する民法の特例」です。
推定相続人全員の合意と経産相の確認、家庭裁判所の許可を得ることで、贈与株式等を遺留分算定の基礎財産から除外(除外合意)または価額固定(固定合意)し、将来の争いを法的に防ぎます。
今期計画している5,000万円の設備投資について、税務上のアドバイスはありますか?
「中小企業経営強化税制」等による即時償却を選択することを提案します。
今期の利益を圧縮することで自社株評価を引き下げ、そのタイミングで後継者へ株式を贈与すれば、より有利に承継を進められます。
ただし、会社全体のキャッシュフローへの影響は、顧問税理士と精査する必要があります。
最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、顧客の利益の優先を重視します。
Aさんの「家族の絆」と「会社の発展」を同時に守るため、特定の親族に偏ることなく、全員が納得できる「三方よし」の解決策を、専門家チームと連携して提示することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、兄弟での事業承継、中小企業経営強化税制、教育資金の一括贈与に関する設例でした。
Dさんへの配慮として「駐車場(8,000万円)」を相続させる案も有効です。これは「小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)」の対象になる可能性があり、Dさんにとって安定した賃料収入(公務員の夫を支える家計の助け)になるというストーリーが作れます。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。