合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(68歳)は、X株式会社(非上場会社・高級耐火物製造業)の代表取締役社長である。大都市圏のN市に所在するX社は、30年前にAさんと仲間(Eさん・Fさん)の3名で設立した会社である。その後、従業員50名超の会社に成長し、業績は堅調に推移している。
【X社の事業承継】
先月、専務取締役のEさんが突然亡くなり、Aさん自身の事業承継とともに専務取締役のEさん、取締役のFさんの持株対策も急務となっている。Eさんが所有していた株式は、相続人に対して売渡請求ができると聞いたことがあるがよく理解できていない。また、Fさんからは退職の希望と所有株式の買取りを打診されている。
Aさんには、長男Cさん(37歳)と二男Dさん(34歳)の2人の子がいる。長男Cさんは、外資系金融機関に勤務しており、地元N市に戻る意思はない。昨年、X社の取締役(工場長)に就任した二男Dさんは、社内外からの信頼が厚く、後継者としての自覚を持っている。Aさんは、二男DさんをX社の後継者に考えており、Eさん・Fさんも賛成していた。
【Aさんの資産承継】
Aさんは、X社関連の資産や自宅の土地および建物を二男Dさんに承継させたいと考えており、自筆証書遺言の保管制度を利用して、その旨の遺言書を残したいと思っている。妻Bさんには、相応の金融資産を相続させようと思っている。
長男Cさんは、収入が高く、所有するタワーマンションに住んでいる。先日、X社株式等を二男Dさんに承継させることを電話で話したが、関心を示すことはなかった。Aさんは、長男Cさんには財産を承継する必要はないと思っている。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
⒈ 現預金 : 1億2,000万円 (役員退職金は考慮していない) ⒉ X社株式 : 2億5,900万円 ⒊ 自宅 ①土地(400m²) : 5,100万円 ②建物(築25年) : 6,000万円 (使用状況は下記参照) ⒋ X社本社兼工場土地(800㎡) : 1億1,000万円 (無償返還方式・通常の地代にて賃貸) 合計 : 6億円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億7,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
【Aさんが所有している自宅建物の概要】
- 鉄骨造3階建て、延べ面積375㎡(各階の床面積125㎡)、区分所有登記はされていない。
- 1階を事務所(元X社事務所、現在空室)として使用し、2階をAさんと妻Bさんの自宅、3階を二男Dさん家族の自宅として使用している。
【X社の概要】
資本金:5,000万円 会社規模:中会社の大 従業員数:55人 配当:実施なし
売上高:13億円 経常利益:4,000万円 純資産:6億円
株主構成(発行済株式総数10万株):Aさん70%、Eさん20%、Fさん10%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額3,000円/株、純資産価額10,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である。
※EさんとFさんは、Aさんとは第三者の関係(同族関係者ではない)にある。
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年2月 参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として
亡くなったEさんが所有していた株式は、相続人に対して売渡請求ができると聞いたことがあるがよく理解できていないこと。
Fさんからは退職の希望と所有株式の買取りを打診されていること。
二男DさんをX社の後継者に考えていること。
X社関連の資産や自宅の土地および建物を二男Dさんに承継させたいこと。
自筆証書遺言の保管制度を利用して、遺言書を残したいと思っていることです。
問題点は、
Aさんは、長男Cさんには財産を承継する必要はないと思っていますが、円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
亡くなったEさんが所有していた株式は、どのように取り扱いますか?
相続人等に対する売渡請求を行います。
相続人に対する売渡請求について説明してください。
相続人に対する売渡請求とは、株主が死亡した際に、その相続人などに対して株式を会社に売り渡すように請求することができる手続きです。
相続人に対する売渡請求をするための条件を教えてください。
相続人に対する売渡請求をするためには、譲渡制限株式であること、定款に売渡請求ができる旨の規定があること、会社に株式を買い取るだけの資金があることが条件です。
相続人に対する売渡請求をするための注意点を教えてください。
相続人に対する売渡請求をするには、株主総会の特別決議で売渡請求をする株式の数など売渡請求の内容を定める必要があります。
また、相続人に対する売渡請求は、会社が相続の発生を知ってから1年以内に行わなければなりません。
遺産分割協議が1年を過ぎてもまとまらない可能性もあるので、相続が発生した時点で、法定相続人全員に対して売渡請求を行う必要があります。
取締役Fさんからは退職の希望と所有株式の買取りを打診されていますが、Fさん所有のX社株式を買い取る場合の課税関係を教えてください。
二男Dさんが買い取る場合は、譲渡価額と所得価額との差額が非上場株式の譲渡所得として20.315%の税率による申告分離課税となります。
X社が買い取る場合の課税関係について教えてください。
X社が買い取る場合は、原則として譲渡価額と譲渡した株式に対応する資本金等の額との差額が、みなし配当として超過累進税率による総合課税とされ、税率は最高税率だと55%となります。
また、譲渡した株式に対応する資本金等の額と、取得価額との差額は株式に係る譲渡所得として分離課税となります。
Aさんは、二男DさんをX社の後継者に考えており、Eさん・Fさんも賛成しています。
二男Dさんは、昨年、X社の取締役に就任したということですが、事業承継税制特例を適用できますか?
要件を満たすことで事業承継税制特例を適用することができます。
事業承継税制特例の適用を受けるためには、後継者の役員就任期間が贈与の日まで継続して3年以上であることが条件でしたが、2025年1月1日以降の贈与については贈与の直前において役員であることに改正されました。
Aさんは、長男Cさんには財産を承継する必要はないと思っていますが、どのようなアドバイスをしますか?
相続人が争うことのないように、遺留分に考慮して遺言書を作成することをアドバイスします。
自筆証書遺言保管制度について教えてください。
自筆証書遺言を法務局に保管できる制度で、保管されている遺言書は家庭裁判所の検認が不要になり相続人等の中で誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした場合には、その他の全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知が届きます。
しかし、証人がいないので自筆証書遺言の内容の有効性が争われたり、代理人では保管の申請はできず必ず本人が法務局に出向く必要があるので注意が必要です。
Aさんが所有している自宅の土地に小規模宅地の特例は適用できますか?
適用できます。
同じ棟の建物に親と子が住んでいることや、建物の敷地の名義がAさんであること、二男DさんはAさんに家賃を払っていないこと、区分所有登記されていないことなどの要件を満たすことで、小規模宅地の特例は適用できます。
最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんは専務取締役のEさんが突然亡くなり、自身の事業承継とともにEさん、Fさんの持株対策も急務となっています。また、長男CさんはX社に関心がなく財産を承継する必要はないと思っていますが、円滑な遺産分割を行う必要があります。一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、相続人等に対する売渡請求、非上場株式の譲渡、自筆証書遺言保管制度に関する設例でした。
学科試験対策では会社法に関する勉強はあまり力を入れていない方も多いのではないでしょうか?
学科試験用のテキストを読んでも詳しく記載されていないので、実技試験向けに勉強し直す必要があります。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。