合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(58歳)は、首都圏近郊のK市内の実家で妻と両親と4人で暮らしている。子どもは長男Dさん(33歳)と長女Eさん(30歳)の2人いるが独立してK市外で生活している。父Bさん(88歳)と母(85歳)はいずれも健在である。A家は代々農家であり、現在も両親が農業を行っているが、高齢のため徐々に規模を縮小してきている。Aさんは長男であるが、地元の市役所に勤めていて家業を継いでいない。Aさんは2人兄弟で、都内の大手企業で役員をしている弟Cさん(56歳)がいる。
先日、Aさんに、都内のマンションに住んでいる長男Dさんから、「もうすぐ2人目の子どもが生まれるので、少し広めの省エネ等住宅に該当するマンションに買い換えたいと思っている。ただ、マンションの価格が高くなっており、今のマンションを売却してローンを組んでも資金が4,000万円不足するので援助してもらえないか」と話があった。Aさんはなんとか援助してあげたいと思っているが、手持ちの資金では賄えないため、父Bさんに相談したところ、父Bさんから、「それなら、甲土地の半分をお前にやるから、それを売って資金を用意したらどうか」と言われた。
甲土地は、区画整理事業地内の仮換地であり、工事も始まっておらず、一昨年まで畑として使用していた土地(現在は使用停止)である。先日ようやく工事の日程が決まり、今年の9月から着工し、2年後に完成するという発表があったばかりであるが、父Bさんのところには、甲土地をぜひ売ってほしいと地元建売業者数社が何度も訪問してきている。建売業者のX社からは具体的な数字も出ており、現状のまま坪当たり50万円ですぐに買いたいと申出があり、甲土地をすべて売却したくないなら、1区画分(170㎡)でも2区画分(340㎡)でも売ってほしいとのことであった。
この区画整理事業地は、K市北部の市街化区域にあり、新駅の開設に伴い20年ほど前から整備が行われてきた。甲土地の区域は第5期第4工区に属し、区画整理事業の最後に残った地域である。甲土地の相続税評価は、現在は従前地の路線価であるが、工事着手後は相続税評価の上昇が見込まれている。既に完成した地域は人気が高く、駅から近いところでは30万円/㎡(約100万円/坪)を超える価格で取引が行われているが、物件がないため建売業者が躍起になっている地域である。
Aさんは、父Bさんの厚意に甘え、父Bさんから生前贈与により取得した甲土地を50万円/坪でX社に売却し、贈与税額を考慮して現金4,100万円を長男Dさんに贈与したいと思っている。この件に関しては、妻、弟Cさんおよび長女Eさんにも説明し、了解を得ているが、話を進めるにあたって、何か問題がないか気になっている。
(FPへの質問事項)
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報 仮換地である甲土地を分割して売買する手続について教えてください。 ①Aさんが、甲土地を取得して、X社に譲渡する場合の課税関係を教えてください。②Aさんが、長男Dさんに現金4,100万円を贈与する場合、どのような贈与税の課税制度の適用を受けることをアドバイスしますか。
③甲土地の贈与についてアドバイスしておきたいことはありますか。また、ほかにどのようなプランがあると思いますか。 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年2月 参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
父BさんやAさんの資産状況。
相続税対策はしているか。
長男Dさんが購入予定のマンションの詳細。
今後のライフプランを確認します。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
FP自身が調べて確認する情報は、現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況などを、実際に現地で確認すること。
権利関係として、法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。
法令上の制限として、自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
市場調査として、周辺の取引事例を地元の不動産業者等で確認し、提案は妥当かを確認します。
仮換地である甲土地を分割して売買する手続きについて教えてください。
仮換地を分割する場合は、従前の土地を分筆する必要があります。
まずは、事前に仮換地をどのように分割するのかを検討して、その画地の形状、面積を決め施工者と事前協議を行います。
分割可能であれば、施工者によって確認を受けた地積測量図に基づき、法務局へ従前地の分筆登記申請を行い、仮換地指定変更届を提出します。
変更に伴う仮換地指定通知書を受領した後、仮換地の場所や形状などが示された、仮換地指定証明書をもとに売買を進めるのが一般的です。
土地区画整理事業中において、所有権はあくまでも従前地にあります。仮換地は使用収益権が移っても、所有権が移ることはありません。そのため、仮換地の売買は可能ですが、売買契約書に記載されるのは、従前地の内容です。
Aさんが、甲土地を取得して、X社に譲渡する場合の課税関係を教えてください。
譲渡所得税の対象となり、売却価格から取得費や譲渡費用を差し引いた譲渡所得に対して税率をかけて計算します。
計算に用いる税率を教えてください。
譲渡所得が発生した時に計算に用いる税率は、その不動産を保有し始めてから売却するまでの期間の長さによって変わります。
譲渡した年の1月1日現在で、所有期間が5年以下の土地や建物を売却した場合は短期譲渡所得となり、復興特別所得税を含む所得税の税率は30.63%、住民税の税率は9%となります。
また、譲渡した年の1月1日現在で、所有期間が5年を超える土地や建物を売却した場合は長期譲渡所得となり、復興特別所得税を含む所得税の税率は15.315%、住民税の税率は5%となります。
適用できる特定はありますか?
優良住宅地造成等のために譲渡した場合には、その譲渡所得に対する税率が軽減されます。
譲渡の日から2年を経過する年の12月31日までの期間内に優良住宅地等のための譲渡に該当することなど、確定優良住宅地等予定地のための譲渡に該当すると、長期譲渡所得は、譲渡所得2,000万円以下の部分は所得税10.21%、住民税4%、2,000万円を超える部分の譲渡所得については、所得税15.315%、住民税5%の軽減税率が適用されます。
相続や贈与で取得した場合の取得日はどのように判定しますか?
取得の時期は、通常、売った土地建物を買い入れた日ですが、相続や贈与で取得したときは、死亡した人や贈与した人の取得の時期がそのまま取得した人に引き継がれます。
したがって、死亡した人や贈与した人が取得した時から、相続や贈与で取得した人が譲渡した年の1月1日までの所有期間で長期か短期かを判定することになります。
Aさんが、長男Dさんに現金4,100万円を贈与する場合、どのような贈与税の課税制度の適用を受けることをアドバイスしますか。
相続時精算課税制度と住宅取得等資金の贈与を併用することをアドバイスします。
相続時精算課税制度の贈与者の要件に60歳以上の父母または祖父母とありますが、令和8年12月31日までに住宅取得等資金を贈与する場合には、贈与者がその贈与の年の1月1日において60歳未満であっても相続時精算課税を選択することができます。
Cさんが買い換え予定のマンションは、広めの省エネ等住宅なので、相続時精算課税制度と住宅取得等資金贈与の非課税制度を併用すると、最大3,610万円まで贈与税が課税されずに贈与を行うことが可能です。
甲土地の贈与についてアドバイスしておきたいことはありますか。また、ほかにどのようなプランがあると思いますか。
甲土地の贈与については、相続時精算課税制度を検討するようにアドバイスします。
どうしてですか?
令和6年1月1日以降の贈与において相続時精算課税制度を選択した場合には、2,500万円の特別控除とは別枠で110万円の基礎控除の適用を受けることができるようになり、年110万円以下の贈与は生前贈与加算の対象ではないので期間に関係なく相続税への持ち戻しは不要です。
また、甲土地の相続税評価は、現在は従前地の路線価ですが工事着手後は相続税評価の上昇が見込まれています。
相続時精算課税制度の適用を受けた贈与財産は、相続税を計算するとき贈与時の時価で計算されるので相続税の節税に繋がります。
ほかにどのようなプランがあると思いますか。
他のプランとしては、Bさんから直接Dさんへ甲土地を贈与することを検討します。
相続時精算課税制度で贈与すると、基礎控除と特別控除により一括で最大2,610万円まで贈与税の負担なく贈与することが可能です。
甲土地の価格が上昇する前に直接Dさんへ甲土地を贈与することを検討します。
ただし、DさんはBさんの孫なので、Bさんが亡くなったとき相続税の2割加算の対象となります。
したがって、専門家と連携し、祖父母世代の相続税と親世代の相続税をトータルで考え、どのプランが有利になるかを判断して提案します。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、仮換地の分割・売買、確定優良住宅地等予定地のための譲渡、相続時精算課税制度と住宅取得等資金の贈与の併用に関する設例でした。
相続時精算課税制度はPART2の設例でもよく出題されます。
不動産以外の分野からでも関連した内容が出題されるので、学科試験の後も継続して学習した方が良いですね。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。