合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(65歳)は、妻BさんとM市内の自宅マンションで暮らしており、子どもはいない。現在、Aさんは大手物流会社に勤務しているが、3カ月後に退職予定である。Aさんは、5年前に亡くなった父親から、都心ターミナルN駅徒歩5分の甲マンションの一室(5階に所在、専有面積50㎡、15万円で賃貸中)を相続で譲り受けている。母親は7年前に亡くなっており、実家は両親と暮らしていた兄Cさん(67歳)が相続している。
【甲マンション(甲土地)全体の概要】
敷地面積690㎡、延床面積2,270㎡、1972年築(築後約53年)、鉄筋コンクリート造8階建て、総戸数40戸、40㎡から60㎡(1LDK、2LDK主体)の分譲マンション。甲マンションに居住している区分所有者は2人だけで、他の所有者は賃貸物件として運用しているか自用の事務所として利用している。
Aさんは、4年前から甲マンション管理組合の理事を引き受けていたが、管理組合の理事長が昨年体調を崩してしまい、理事長職を引き継いだばかりである。
甲マンションでは、2カ月前に3階の部屋で水漏れ事故が発生した。このような水漏れ事故が過去にも2件発生しており、給排水管更新工事を行う必要があると管理会社から言われている。また、エレベーターについても管理している業者から数年内には更新したほうがよいと言われている(概算見積り3,000万円)。
昨年、大通りに面した北側隣接のガソリンスタンド(敷地面積420㎡)が閉鎖し、大手マンションデベロッパーのX社がその跡地である乙土地を今年購入している。先日、X社の担当者から連絡があり、Aさんと数人の理事が面談した。その際、担当者から、「甲マンションの敷地と建物を総額16億円(1戸平均で4,000万円)で購入させてほしいと思っている。直ぐの事業化は検討していないが、組合として検討していただけないか」との提案を受けた。
Aさん含め他の理事もX社の提案を魅力的なものと考えているが、昨年、5階の住戸(専有面積50㎡)が2,000万円で取引されており、なぜX社が老朽化している甲マンションをそのような条件で購入したいのか、腑に落ちていない。また、X社の提案により甲マンションを売却する場合、所有者全員の同意を得なければいけないのか、よくわからないでいる。
とはいえ、建物老朽化には抗えず、今後甲マンションをX社に売却するのか、あるいは建替えをするのかが、管理組合の主要な議題になっている。なお、ニュースなどで、マンションの建替えが容易ではないということを聞いたことはあるが、具体的に何が障壁となるのかはわかっていない。
このような状況のもと、FPであるあなたに相談があった。
(FPへの質問事項)
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報X社が甲マンションを購入することにどのようなメリットがあると思いますか。
甲マンションの敷地と建物について、所有者全員の同意を得ることなく一括売却する方法はありますか。
マンションの建替え事業において、どのようなことが障壁になると考えられますか。
本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2025年10月 参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
今後のライフプラン。
甲マンションについて、老朽化の状況や過去の修繕履歴、現在の不具合や安全上の問題。
耐震診断や外壁調査などの実施状況や専門家への依頼予定があるか。
理事会や総会での検討状況や区分所有者の合意形成の見通しについて確認します。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。
また、甲マンションの老朽化や安全性に関する実態を把握します。
具体的には、外壁の剥落・ひび割れ・傾き・雨漏りの有無などの物理的劣化の状況、耐震性や防火性能、バリアフリーへの対応状況など、法定基準を満たしているかどうかを建築士などとともに調査します。
⑵権利関係として、
法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。
敷地権の設定状況、抵当権や差押えなどの権利関係、区分所有者の名義を確認します。
⑶法令上の制限として、
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
要除却認定・特定要除却認定の申請条件や必要書類、容積率の特例の適用基準、申請から認定までの期間や審査の流れ、補助金制度や再生支援策の有無などを調べておきます。
⑷市場調査として
X社の信用力と再開発実績を確認します。
具体的には、これまでの老朽化マンションの買取・再生事例、資金調達力、再建築後の事業計画の妥当性、管理組合に対して適切な説明を行っているかを確認します。
X社が甲マンションを購入することにどのようなメリットがあると思いますか?
X社が甲マンションを購入するメリットとしては、大きく分けて土地の価値の向上と収益性の改善が挙げられます。
甲マンションを隣地と一体的に活用することで、建物の建築面積を拡大できます。
さらに、建物を大型化することで建築コストの効率化が図れるほか、間口が広がることによって土地の利用価値や売却価値が高まる点もメリットです。
また、甲マンションは1972年築で、築後約53年が経過しています。
過去には水漏れ事故が2件発生しており、管理会社からは給排水管の更新工事が必要だと指摘されています。
そのため、要除却認定を受けることができれば、建替え時に容積率の緩和を受けられる可能性があり、通常よりも規模の大きな建物を建設できる点も、X社にとっての大きなメリットになると考えられます。
要除却認定マンションについて説明してください。
要除却認定マンションとは、建物の耐震性が不足している場合や、外壁の剥落などで周囲に危険が生じるおそれがある場合、またはバリアフリー性能などが十分に確保されていない場合などに、都道府県庁から要除却と認定されたマンションのことをいいます。
要除却認定には2つの種類があり、1つ目は容積率の特例が適用される要除却認定、2つ目はそれに加えてマンション敷地の売却や、団地の場合には敷地分割も可能になる特定要除却認定です。
甲マンションの敷地と建物について、所有者全員の同意を得ることなく一括売却する方法はありますか?
マンション敷地売却制度を活用する方法があります。
通常、マンションの建物や敷地を一括して売却する場合は、区分所有者全員の同意が必要です。
しかし、マンションが特定要除却認定を受けている場合には、全員の同意までは求められず、区分所有者および議決権のそれぞれ5分の4以上の多数決によって、一括売却を決議することが可能となります。
特定要除却認定の対象となるマンションについて教えてください。
特定要除却認定の対象となるのは、建物に重大な安全性の問題があるマンションです。
具体的には、耐震性が不足している場合、外壁の剥落などにより周囲に危険が及ぶおそれがある場合、防火性能が不十分な場合、このいずれかに該当するマンションが、特定要除却認定マンションとして都道府県庁から認定を受けることができます。
マンションの建替え事業において、どのようなことが障壁になると考えられますか?
主な障壁としては、合意形成の難しさが挙げられます。
たとえば、マンション敷地売却制度を利用する場合には、まず特定要除却認定を受ける必要があります。特定要除却認定の申請は区分所有者の過半数の賛成で行えますが、その後のマンション敷地売却決議には、区分所有者および議決権のそれぞれ5分の4以上の賛成が必要です。
特定要除却認定を受けたとしても、最終的な売却決議が成立しない可能性があるという点が、大きな障壁になります。
こうしたリスクを踏まえ、早い段階からの合意形成や情報共有を徹底することが、建替え事業を円滑に進めるための重要なポイントです。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
耐震診断・外壁調査・防火性能などの調査は、建築士や構造設計の専門家に、
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回の設例は、要除却認定マンション、マンション敷地売却制度に関する設例でした。
マンション建替円滑化法は、国土交通省から資料が出ています。
マンションの管理・再生の情報はマンション管理・再生ポータルサイトも参考になります。
実技試験は学科試験のテキストだけではカバーできない内容も多いので、各省庁のサイトなどもチェックしておきましょう。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。