公開日 2024年10月9日 最終更新日 2024年10月23日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(55歳)は、都内に勤める夫Bさん(59歳)と首都圏の既成市街地であるK市内の甲-2土地に建つ戸建て住宅(築46年)に2人で住んでいる。Aさんは2人兄妹で、兄Cさんは、都内に自宅を構えて生活しているため、K市に帰る予定はない。
甲-1~甲-6の土地は、1976年に位置指定道路を築造して開発された住宅地(以下、「本分譲地」という)で、1977年から1980年にかけて建物が建てられた。甲-3と甲-4は、Aさんの父親が1977年に5万円/㎡で購入し、甲-4に自分の住まい(Aさんの実家)を建て、甲-3には木造平屋の賃貸住宅2棟を建てて賃貸していた。位置指定道路は、四筆に分筆され、甲-2、3、4、5の土地の所有者が一筆ずつ所有している。
近年、本分譲地周辺は、建売住宅のほかマンション供給が増えており、大手デベロッパーによる等価交換方式によるマンション建設も多く見られ、数年前に南側隣地の土地にもマンションが建設された。本分譲地周辺のマンション用地の仕入価格は1種(容積率100%)当たり40万円/坪前後とのことである。
Aさんは結婚を機に実家を出て都内で暮らしていたが、父親が亡くなり1人暮らしとなった母親の世話をするため、7年前に売りに出ていた中古住宅(甲-2の土地と建物)を夫Bさん名義で購入して転居してきた。Aさんは、結婚するまで実家で生活していたため、本分譲地内のD家、E家、F家の家族から歓迎され、その後も親しく付き合っている。その母親も1年前に亡くなり、甲-3および甲-4の土地と建物はAさんと兄Cさんが各2分の1の持分で相続した。賃貸住宅2棟は、現在は空き家になっている。
本分譲地は建物の老朽化が進み、住民はそれぞれ対応を迫られている。Fさんは、3年前に自宅を建て替えている。先日、Aさんを小さい頃から姉のように慕っていたDさんの息子Hさんから、「甲-5土地の建物を二世帯住宅に建て替えて両親と同居したいと思っている」と話があった。また、Eさんは、夫を亡くして1人で暮らしていたが、1人娘でAさんの親友であるGさんと同居することになったので、甲-1土地と建物を売却する予定とのことである。Gさんによれば、「市内の不動産屋さんから更地で4,300万円なら売れると言われたので頼もうかと思っている」とのことだった。
Aさんは、自宅や実家、賃貸住宅の老朽化が進んでおり、どうしようかと悩んでいる。母親が亡くなり、ここに住む必然性もなくなったので、いっそのこと、すべて売却して近くのマンションを購入しようかとも思っている。兄Cさんからは、実家についてはすべてAさんに任せると言われている。以前、不動産に詳しい知人と実家のことについて話したときに、「位置指定道路の用地を活用できないのかな」と言っていたことを思い出したが、どういう意味かはわからなかった。
(FPへの質問事項)
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報 本分譲地の土地について、Aさんと夫Bさんが取り得る最も経済的価値が高まる有効活用として、どのような方法が考えられますか。 Aさんと夫Bさんが本分譲地内に所有する不動産を売却した場合の課税関係について教えてください。 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年9月 参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
健康状態や今後のライフプラン。
家族構成や資産状況。
賃貸住宅経営状況や今後の意向。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
⑷市場調査として
南側隣地のマンション建設会社の取引事例や財務状況を確認すること。
マンション用地としての需要を、地元の不動産業者等で確認します。
本分譲地の土地について、Aさんと夫Bさんが取り得る最も経済的価値が高まる有効活用として、どのような方法が考えられますか?
南側隣地マンションのデベロッパーと、等価交換方式によるマンション建設が考えられます。
甲-1土地は市内の不動産屋によると、更地で4,300万円で売れるといわれています。
甲-1土地の価格を4,300万円、土地面積が225.20㎡(約68坪)、容積率は200%で計算すると、一種単価は63万円 ÷(200% ÷ 100%) = 31.5万円です。
本分譲地周辺のマンション用地の仕入価格は一種(容積率100%)当たり40万円/坪前後なので、最も経済的価値が高まる有効活用方法としては、マンション用地とする方法が考えられます。
等価交換方式について説明してください。
等価交換方式とは、土地所有者とデベロッパーが共同事業者となり、オーナーは土地を出資し、デベロッパーが建物を建て、それぞれの出資比率に応じて土地建物を取得することです。
オーナーの土地持分の一部と、デベロッパーの建物区分所有権の一部を、等価で交換することになります。
Aさんにとってのメリットを教えてください。
Aさんは、自宅や実家、賃貸住宅をすべて売却して近くのマンションを購入しようかとも思っています。
等価交換方式の場合、建物の建設費用はデベロッパーが負担するため、自己の負担なしで土地の有効活用ができ、新しいマンションを取得できます。
等価交換方式でマンションを建てれば、Aさんと兄Cさんの持分を部屋数や床面積に応じて等分することが可能になります。
Aさんにとってのデメリットを教えてください。
デメリットは、土地の所有権はデベロッパーと共有することとなるので、所有権の一部は失われてしまいます。
本分譲地の土地について、マンション用地として有効活用する場合に何か問題になることはありますか?
位置指定道路が問題になる可能性があります。
Aさんと夫Bさんが所有する、甲-2、3、4土地をマンション用地として有効活用する場合、接道義務違反とならないように位置指定道路と接する必要があります。
位置指定道路②と⑤を廃止した方が、甲-2、3、4土地をマンション用地として有効活用できます。
位置指定道路⑤の所有者はDさんなので、Dさんに依頼して位置指定道路の廃止等をしてもらう必要があります。
他に方法はありませんか?
それぞれの意向にもよりますが、甲-5土地と甲-1土地を交換する方法があります。
Dさんや息子Hさんは、甲-5土地の建物を二世帯住宅に建て替えることを希望しており、Eさんは甲-1土地と建物を売却する予定です。
Dさんや息子Hさんは、甲-1土地だと市道に面した土地を取得できます。
Eさんは甲-5土地を取得し甲-2、3、4の土地と一緒にマンション用地として売却する方が、単独で売却するよりも高く売れる可能性があります。
Aさんは、D家、E家、F家の家族から歓迎され、その後も親しく付き合っているということなので、それぞれの意向を話し合ってみることをアドバイスします。
Aさんと夫Bさんが本分譲地内に所有する不動産を売却した場合の課税関係について教えてください。
夫Bさんが所有する自宅を売却した場合は、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例が適用できます。
甲-2の土地と建物は、7年前に購入しています。
売却した不動産の所有期間が5年を超えていた場合は、長期譲渡所得となります。
Aさんが所有する不動産を売却した場合の課税関係について教えてください。
Aさんが所有する甲-4土地は、Aさんの父親が1977年に購入し実家を建築しています。
父親が死亡後は母親が一人で住んでいたので、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除が適用できます。
甲-3土地を売却した場合の譲渡所得税については、取得費加算の特例の適用を受けることで軽減ができます。
取得費加算の特例とは、相続の開始から3年10カ月以内に相続した不動産を売却する場合、すでに支払った相続税の一部を譲渡所得税から控除できるというものです。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、位置指定道路、等価交換方式、一種単価、居住用財産の3,000万円特別控除、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除に関する設例でした。
本番の試験でこの設例にあたった受験生は、あの緊張感の中で設例を読み内容を理解できたのでしょうか?
登場人物が7人、土地は6つあるので、解いているときに何度も設例を見直しました。もはやFPとしての知識というよりも、どれだけ落ち着いて文章を読んで内容を理解できるかの試験です。
ここまで設例を読みにくくする必要があるのでしょうか?
これだけややこしい設定なので、「問題点の把握」や「問題解決策の検討分析」の配点が高くなっているのではないでしょうか?
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。