公開日 2024年10月8日 最終更新日 2024年10月22日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
地方都市のN市に所在するX株式会社(非上場会社・精密部品製造業)は、代表取締役社長のAさん(75歳)が42年前に設立した会社である。X社は製品を海外にも販売するなど技術力には定評があり、業績は堅調に推移してきた。現在、X社では専務取締役である長男Cさん(48歳)を中心に、さらなる販路拡大と新製品の開発を推進している。
【X社の事業承継】
現在、X社株式の100%をAさんが保有している。Aさんは、自身の年齢のことを考え、そろそろ長男Cさんに事業を承継するつもりであり、X社株式をどのように移転すべきか、対策を講じたいと思っている。そのような折、AさんのもとにM&A仲介業者が訪れ、「買手企業は上場企業でX社の技術力を高く評価している。一度、相手方と面談する機会を設けてもらえないだろうか」と提案を受けた。長男Cさんに承継させる考えに変わりはないが、M&Aについてもメリット・デメリット程度は把握しておきたいと思っている。
【Aさん自身の資産承継】
Aさんの自宅の土地はAさんの父親が購入したもので、父親の相続により弟Eさん(70歳)と各2分の1の持分で共有している。弟Eさんも同じ土地上に自宅を建築し、家族とともに暮らしている。Aさんと弟Eさんは釣りが趣味であり、週末は一緒に釣りに出かけるなど、関係は良好であるが、将来のことを考えると、共有のままでよいのか不安を抱いている。
先日、勤務歯科医である二男Dさん(41歳)から歯科医院開業の用地としてAさんが所有する甲土地を使わせてもらえないかとの相談があり、甲土地を歯科医院の用地として無償で貸すことにした。将来的には、甲土地を二男Dさんに相続させてもよいと思っている。
なお、Aさんは、子や孫に資産形成の手段として今年から始まったNISA制度を勧めたいと思っている。
【Aさんの家族構成(推定相続人)】
妻Bさん (74歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(48歳):X社の専務取締役。妻と子2人の4人で持家に居住している。
二男Dさん(41歳):勤務歯科医。妻と子2人の4人で賃貸マンションに居住している。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
⒈ 現預金 : 8,000万円 (役員退職金は考慮していない) ⒉ 有価証券 : 6,000万円 ⒊ X社株式 : 2億円 ⒋ 自宅土地(全体700㎡) : 4,000万円 (持分2分の1の評価額) ⒌ 自宅建物 : 1,000万円 ⒍ 甲土地(400㎡) : 5,000万円 (アスファルト敷の月極駐車場) 合計 : 4億4,000万円
※Aさんの相続に係る相続税額は、約1億1,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
【X社の概要】
資本金:5,000万円 会社規模:大会社 従業員数:83人 配当:毎期30円/株
売上高:36億円 経常利益:4,000万円 余剰資金:4億円
株主構成(発行済株式総数4万株):Aさん100%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額5,000円/株、純資産価額7,000円/株
(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年9月 参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として
問題点は、
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
X社株式の移転方法についてどのような方法が考えられますか?
事業承継税制特例を活用した移転方法が考えられます。
事業承継税制特例の、仕組みについて教えてください。
事業承継税制特例とは、先代経営者から事業の承継を受けた後継者が次の後継者に事業承継できた場合には、相続税や贈与税が免除になる制度です。
留意点は、届出書の提出など事務手続きが煩雑になること。
事業継続が困難な場合は、利子税と猶予された税金の支払いが必要になることです。
株式移転前に、自社株評価を引き下げる必要があります。
贈与税の納税猶予を受けるための、手続について教えてください。
納税猶予を受けるためには、2026年3月31日までに、特例承継計画を作成し都道府県庁へ提出します。特例措置の場合は、2027年12月31日までに贈与を行い、贈与年の10月15日から翌年1月15日までに申請し、認定書の写しとともに税務署への申告手続きが必要となります。
申告後は、都道府県庁へ年次報告書、税務署へ継続届出書をそれぞれ、年1回、5年間提出します。
X社株式の相続税評価額の引き下げについて、どのような方策が考えられますか?
役員報酬の引き上げや退職金の支給のほか、配当金を引き下げる又は配当を行わないことにより、株価を引き下げる方法が考えられます。
M&Aについてメリット・デメリットを説明してください。
M&Aのメリットは、
従業員の雇用を継続できること。
経営者の資産を増やせる。経営者の連帯保証や担保提供を外せること。
事業のノウハウを後世に残し、事業の拡大や成長に役立つことです。
後継者が見つからず廃業になると、雇用している従業員が仕事を失います。元々の従業員を引き継ぐ形でM&Aを行えば、従業員の生活を心配する必要がなくなります。
また、M&Aは株式を売却することによって行われるので、経営者は売却益を得ることができ、リタイア後の生活資金等に役立ちます。親族や従業員に事業承継すると、経営者が連帯保証人になっている負債の問題が発生しますが、M&Aの場合、連帯保証や担保提供は不要になります。
これまで培ってきた技術やノウハウを活かし、承継先の企業の資本や人材も活用することで新規事業に取り組み企業の成長が期待できます。
M&Aのデメリットを教えてください。
M&Aのデメリットは、
取引先や従業員から不満が出る可能性があること。
希望する条件で事業承継してくれる企業が見つからない可能性があることです。
M&Aを行うことで、従業員の待遇や営業方針などが変わる可能性もあり、第三者が経営陣に収まることで不満を抱える従業員や、取引を中止する企業が出てくる可能性があります。
経営状況や売却条件が合致せず、マッチングする企業が見つからない場合もあります。
自宅の土地は、共有のままだと将来的に不安なことがありますか?
不動産を共有のままにしておくと、売却する際には共有者全員の同意が必要になり、もし1人でも同意していない場合には売却することができません。
共有者の誰かが他界してしまった場合、その人の持分は相続対象となります。そのため、ケースによって共有者の人数が増え、権利関係が複雑になってしまいます。
自宅土地の共有状態を解消する方法としてどのようなアドバイスをしますか?
自宅土地の共有状態を解消する方法としては、分筆による共有解消を検討するようにアドバイスします。
分筆とは、どのような方法ですか?
今回のケースでは持分に応じた価格で自宅土地を分け、それぞれを一つの土地として、Aさんと弟Eさんの単独名義にする方法です。
二男Dさんに甲土地を歯科医院の用地として無償で貸すことにしていますが、DさんがAさんから借地権相当額の贈与を受けたことになりませんか?
今回のケースでは、地代も権利金も支払うことなく無償で土地を貸すことにしているので、使用貸借となります。
使用貸借の場合は、土地を使用する権利の価額はゼロとして取り扱われるので、二男Dさんが借地権相当額の贈与を受けたとして贈与税がかかることはありません。
相続の場合、甲土地はどのように評価されますか?
相続の場合、使用貸借されている土地の価額は、自分が使っている土地として評価されるので、貸宅地として評価されるのではなく、自用地として評価されます。
今年から始まったNISA制度について、旧制度との変更点を教えてください。
NISA口座に関して、つみたてNISA・一般NISAのどちらかの口座のみ開設可能だったものが、つみたて投資枠・成長投資枠のどちらも同時併用できるように変わりました。
他にはありませんか?
年間投資枠が、つみたてNISAで40万円、一般NISAで120万円でしたが、新NISAでは、つみたて投資枠で120万円、成長投資枠で240万円に拡大され、2つの投資枠合わせて最大で1,800万円まで利用することができます。
非課税期間がつみたてNISAは20年間、一般NISAでは5年間でしたが、新NISAでは口座開設期間も含め無期限になりました。
最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、守秘義務の遵守を重視します。
情報が漏洩することで、社内外でありもしない噂が広まり、信頼が失われるリスクが高まります。
会社に対する不信感により従業員のモチベーションの低下や離職を招く可能性があり、またM&Aの交渉相手とも信頼関係が損なわれ交渉が難航します。
M&Aでは双方の信頼関係が不可欠です。守秘義務を遵守し情報管理を徹底することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、株式移転、M&A、共有名義の不動産、新NISA制度に関する設例でした。
実技試験では学科試験の分野でいうところの不動産分野と相続・事業承継分野からの出題がほとんどです。
ただし、今回の新NISA制度に関する設例のように他の分野から質問されることも十分考えられます。
改正があった内容や旬な話題などは、分野を問わずチェックしておきましょう。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。