公開日 2024年10月8日 最終更新日 2024年10月21日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(52歳)の父Bさんは実家(甲土地、甲建物)に1人で暮らしていたが、6カ月前に進行性のがんが見つかり、その後病状が悪化して3カ月前に亡くなった。母親は10年前に他界しており、相続人はAさんと妹Cさん(50歳)、弟Dさん(49歳)の3人である。実家は、不動産分譲会社X社が開発分譲したT市内の住宅団地(全120区画)内にあり、最寄駅から徒歩8分と利便性も良く人気のある住宅地であるが、Aさんたちは、それぞれ持家を所有しており、甲土地に住むことは考えていない。兄弟3人で話し合った結果、空き家のまま保有し続けても仕方がないと、売却することで意見がまとまった。
【父Bさんの相続財産】
- 金融資産:3,000万円
- 甲土地:地積330㎡(分譲地の2画地分を一体利用)、固定資産税評価額7,000万円
- 甲建物:木造2階建て、延べ面積180㎡、1979年2月竣工、固定資産税評価額270万円
そこで、Aさんたちは、X社の子会社である不動産仲介会社Y社に売却に関するヒアリングを行ったところ、「甲土地は角地で形状も良く、分割しやすいこともあり、戸建て分譲会社に対して更地前提なら1億1,000万円で売却できると思います。一方、甲土地を個人顧客に仲介する場合は、更地前提なら9,500万円の売却価格が目安です」とのことであった。また、売却時の諸経費として、甲建物の解体費用が約330万円、測量費用が約70万円(いずれも消費税込)、成約時に仲介手数料「売買代金の3%+6万円(別途消費税)」が必要とのことである。
Aさんたちは、甲土地は税金や諸経費を支払った後の手取額が最も高くなるように売却し、父Bさんの相続財産を3分の1ずつ均等に相続したいと考えている。
なお、Aさんたちの手元には、父Bさんが亡くなる前に「1978年3月に土地を3,500万円で購入、総額2,000万円で建物を建築」と書いたメモ書きがあるだけで、甲土地取得時の売買契約書や領収書、甲建物に関する請負契約書等は見つけられていない。父Bさんは水産物仲卸業を5年前まで営んでおり、そちらの事務所に不動産関連書類を置いたまま整理処分してしまった可能性もある。
このような状況のもとで、AさんからFPであるあなたに相談があった。
(FPへの質問事項)
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
①Aさんから直接聞いて確認する情報
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報 Aさんたちが甲土地を売却するにあたり、税金や諸経費を支払った後の手取額を最も高くするためにどのようなアドバイスをしますか。 甲建物を解体せずに現状有姿のまま不動産会社に売却する場合、気を付けるべき点は何でしょうか。 甲土地の取得に係る売買契約書や領収書を紛失している場合、何か方策はありますか。 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年9月 参考:技能検定試験問題の使用について(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはX(Twitter)でお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる通帳の振込履歴や住宅ローン借入の際の書類等の資料があるかどうか。
健康状態や今後のライフプラン。
水産物仲卸業の資料があるかどうか。
②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。
⑵権利関係として
法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。
⑶法令上の制限として
自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。
⑷市場調査として
X社やY社の取引事例や財務状況を確認すること。
甲土地周辺の取引事例を、地元の不動産業者等で確認します。
Aさんたちが甲土地を売却するにあたり、税金や諸経費を支払った後の手取額を最も高くするためにどのようなアドバイスをしますか?
甲土地取得時の売買契約書や領収書、甲建物に関する請負契約書等や通帳の振込履歴、住宅ローン借入の際の書類が見つからないか、再度、探してみるようにアドバイスします。
どうしてですか?
売買契約書や領収書、請負契約書等がないことで購入した時の金額が証明できず、不利な条件で税額の算出をすることになるからです。
譲渡所得は、不動産の売却金額から、その不動産の取得費と譲渡するためにかかった費用を控除して計算します。
取得費ですが、不動産売買契約書がなく取得費がわからない場合は、概算取得費として取得費は売却価格の5%で計算することになります。
この計算方法だと、譲渡所得金額が大きくなってしまい、余計に税金を課せられてしまう可能性が高くなります。
他にはありませんか?
空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除を適用した場合の手取り額を、専門家も交えてシミュレーションしてみるようにアドバイスします。
空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除とは、一人暮らしだった被相続人が死亡した日以後、3年を経過した日の属する年の12月31日までに、相続によって取得した空き家を譲渡したときは、その空き家を譲渡して得た利益から3,000万円を控除できる制度です。
父Bさんは1979年2月に竣工された実家に1人で暮らしていましたので、実家は特例の対象です。
ただし、特例を受けるためには売却代金が1億円以下であることが必要なので、戸建て分譲会社に対して1億1,000万円で売却する場合と、個人顧客に9,500万円で売却する場合や、分譲会社に1億円で売却する場合などを専門家も交えてシミュレーションしてみることをアドバイスします。
甲建物を解体せずに現状有姿のまま不動産会社に売却する場合、気を付けるべき点は何でしょうか
売買契約の際に、売却した後、翌年2月15日までの間に、改修して耐震基準適合家屋とする、家屋を取り壊すなどの特約をつけ、履行できなかった場合の、税控除額相当額の損害賠償請求を盛り込んでおくことに気をつけます。
どうしてですか?
空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除の対象となる譲渡について、耐震改修工事を行うか取壊し後の土地を譲渡した場合が対象でしたが、譲渡後、譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修工事又は取壊しを行った場合でも適用対象に加わることとなりました。
譲渡後に、建物の耐震改修や解体を買主におこなってもらうことで特例の適用を受けようとする場合には、基本的に売買契約の中で特約を付けることが必要となるからです。
空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除で注意する点を教えてください。
相続人が3人以上いるケースでは、控除額が1人あたり2,000万円に引き下げられますので、この点には注意が必要です。
甲土地の取得に係る売買契約書や領収書を紛失している場合、何か方策はありますか?
土地の取得に係る売買契約書や領収書を紛失した場合は、売主や仲介業者にコピーをもらうか、再発行を依頼するなどの方法で対応できます。
また、法務局に保管されている抵当権設定登記を売買契約書の代わりにできる可能性があります。
FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?
不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、譲渡所得の取得費、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除、取得費に関する資料がない場合でした。
空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除に関する設例は頻出です。
パート2のAさんは、ほとんどの設例で相続によって実家を取得するので質問が多いのも納得です。
改正があったことも出題数に影響しているのかもしれません。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。
最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。