2024年度 第1回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2024年9月22日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2024年10月7日 最終更新日 2024年10月21日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。

それでは、設例をお読みください。

2024年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2024年9月22日)

●設 例●
 Aさん(75歳)の自宅は都内のタワーマンションである。昨年、妻Bさんを病気で亡くしたため、今は1人で暮らしている。Aさんは、大学卒業後に入社した大手ソフトウェア会社でシステムエンジニアとして業務に従事した後、インターネットサービスを業とするベンチャー企業X社の設立に参画した。X社では、ECサイト構築運営・決済サービス・ゲーム・トラベルなど、さまざまな新規事業を立ち上げてきた。その貢献もあり、X社の業績は大きく拡大し、現在ではインターネットサービス企業として誰もが知る上場企業の地位を確立している。

 70歳を過ぎたAさんは、既に実業からは離れているが、ストック・オプションで取得したX社株式の売却で大きな金融資産を築くことができ、今では、昔から付き合いのある証券会社の担当者との相談・議論を通じて、株式や債券、投資信託での運用を適度に楽しんでいる。また、合同会社Y社を立ち上げて地域創生を支援する活動を続けているほか、プライベートでは孫たちとの往来が妻を亡くしたことによる心の傷を癒やしてくれている。

 Aさんにとって唯一の心配事は、自身の年齢を踏まえた相続対策である。3年前から110万円の範囲内で子どもたちに現金を贈与したり、孫には都度お小遣いをあげたりしているが、効果的な相続対策になっているとも思えない。昨今、贈与税・相続税の税制改正が大きな話題となったが、自身の相続対策について整理したうえで、無理のない範囲で実行していきたいと考えている。また、税制改正といえば、居住用マンションの相続税評価額の評価方法が改正されたというニュースも気になっている。

 

【Aさんの家族構成(推定相続人)】

長男Cさん(45歳):会社員。妻と子2人(18歳と15歳)の4人で持家に住んでいる。
長女Dさん(42歳):夫と人材派遣会社を起業。夫と子(10歳)の3人で賃貸マンションに住んでいる。

【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

現預金 3億円  
有価証券   2億円 (X社株式、Y社出資を含む)
自宅マンション      
  ①敷地利用権(15㎡) 5,000万円  
  ②区分所有権(90㎡) 3,000万円  
その他(保険等)   7,000万円  
  合計 6億5,000万円  


※Aさんの自宅マンション(鉄骨鉄筋コンクリート造、40階建ての30階に所在、築10年、最寄駅から徒歩3分)の評価額は「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」による。

※Aさんの相続に係る相続税額は、約2億2,000万円(小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年9月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 自身の年齢を踏まえた相続対策について整理したうえで、無理のない範囲で実行していきたいと考えていること。
  • 居住用マンションの相続税評価額の評価方法が改正されたというニュースが気になっていること。

問題点は、

  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

Aさんは、3年前から110万円の範囲内で子どもたちに現金を贈与したり、孫には都度お小遣いをあげたりしていますが、効果的な相続対策になっていますか?

効果的な相続対策になっているとはいえません。

どうしてですか?

贈与をした場合、亡くなる前の一定期間の贈与は相続財産に加算するという生前贈与加算があります。
この生前贈与加算の対象期間が、相続開始前の3年以内から7年以内に延長されることになりました。
贈与をしてから亡くなるまでに7年以上経過しないと、相続財産に加算されてしまい、せっかく生前贈与をしたことによる節税効果がなくなってしまうからです。

Aさんの年齢を踏まえた相続対策について、無理のない範囲で実行できる方法はありますか?

110万円の範囲内で行っている贈与を、子どもたちではなく孫に贈与する方法があります。

相続税における生前贈与加算の対象は、相続人に対する贈与のみです。
そのため、相続人ではない孫やひ孫に贈与をすれば、生前贈与加算の対象とされることなく、贈与をすることができます。

ただし、孫の親が先に死亡していて代襲相続が発生していたり、孫が遺言などで財産を取得するときは、孫に対する生前贈与も生前贈与加算の対象となってしまいます。

他にはありませんか?

教育資金の一括贈与や相続時精算課税制度を活用する方法があります。

2024年1月からは、相続時精算課税制度を選択した場合にも、110万円以内の贈与であれば、持ち戻しの対象とはならず、申告も不要ということになりました。
そのため、子どもなどの法定相続人については、相続時精算課税制度の110万円の生前贈与を活用して対策するという方法をとることもできるようになりました。

ただし、相続時精算課税制度を選択すると、暦年課税に戻ることができませんので、慎重な検討が必要です。

教育資金の一括贈与について説明してください。

教育資金の一括贈与の特例とは、子や孫に教育資金を贈与する場合、子・孫1人につき1,500万円までを非課税とする特例です。

ただし、相続税の課税価格の合計額が5億円を超え、相続発生時点で贈与を受ける人が、23歳未満の人や学生、教育訓練給付金の支給対象になる教育訓練を受講している人などでない場合は、相続発生時点における残高が相続税の課税対象になります。


居住用マンションの相続税評価方法の改正内容について説明してください。

マンションの相続税評価方法の改正内容は、相続税評価額に市場価格を反映する指標として区分所有補正率が導入されました。

具体的な計算方法を説明してください。

具体的には、マンションの評価額と市場価格の乖離度を計算するために、築年数、総階数、部屋の所在地、敷地持分狭小度の4要素に基づいた評価乖離率を算出します。
そして、評価乖離率に基づく評価水準に応じて、現行の相続税評価額に区分所有補正率を掛けることで相続税評価額を算定します。

新たな評価方法の対象となるのは、全てのマンションが対象ですか?

新たな評価方法の対象は、タワーマンションに限らず、区分所有不動産で居住用部分があるものが対象です。
ただし、2階建て以下の低層マンションや二世帯住宅。
区分建物の登記がされていないもの。
事業用のテナント物件、1棟を所有している賃貸マンションなどは対象外です。

マンションの相続税評価方法が改正されたことによって、どのような影響がありますか?

マンションの相続税評価方法が改正されたことによって、従来の相続税評価額が市場価格を大きく下回る場合には、相続税評価額が市場価格の6割相当額まで引き上げられることになります。
逆に、従来の相続税評価額が市場価格を上回る場合には、相続税評価額が市場価格まで引き下げられることになります。

小規模宅地等の特例はマンションにも適用できますか?

マンションの場合、マンションの敷地利用権に小規模宅地等の特例を適用できます。

今回のケースでは、長女Dさんが相続することで家なき子の特例が適用でき、敷地利用権の評価を80%減額できます。


最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

Aさんは、昨年、妻Bさんを病気で亡くしたため、今は1人で暮らしています。
相続対策に前向きに取り組んでいるものの難しい内容も多いので、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、生前贈与加算、相続時精算課税制度、マンションの相続税評価額に関する設例でした。

FP試験では改正ものは頻出です。

税制改正大綱などをチェックして、改正内容を整理しておきましょう。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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