2024年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2024年9月21日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2024年10月7日 最終更新日 2024年10月18日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、大きめの書店でもテキストを見かけることは滅多にありません。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2024年度 第2回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2024年9月21日)

●設 例●
 Aさん(68歳、S市内に居住)と弟Bさん(65歳、都内に居住)は、三大都市圏のS市内に所在する甲土地をAさんが5分の3・弟Bさんが5分の2の持分で共有している。

 甲土地は、20年前、東側隣地の土地を所有するX病院から新病棟の建設のための敷地として購入したいと申入れがあったが、Aさんの父親が、賃貸なら応じることができると回答し、2005年に期間20年の事業用定期借地として契約している。10年前に父親が亡くなり、甲土地を相続したAさんと弟Bさんが賃貸人の地位を承継している。また、Aさんの母親は既に亡くなっており、弟Bさん以外に兄弟はいない。

 先日、AさんのもとにX病院から、「甲土地の賃貸借期限は2025年9月ですが、病院の存続は、市をはじめ地元からの要望も強いため、2025年10月から20年間、引き続き賃借したいと考えています」と申入れがあった。Aさんは、賃料収入も期待できることから、X病院の申入れに応じたい旨を弟Bさんに伝えたところ、弟Bさんから「それは困る。来年期限が来て更地になった甲土地を、兄貴と一緒に売るか、自分の分を単独で売って自宅の建替え費用に充てるつもりでいた。親父が当時土地を売らなかったのは、相続対策のためで、その目的を達成した今は、契約どおり更地で返してもらおう」と譲る気配はない。

 Aさんは、自身や弟BさんとX病院の要望を満たす方法はないものかとFPのあなたに相談をしてきた。

 

【現在の甲土地借地契約の内容】

  • 2005年10月から2025年9月までの20年間、X病院の病棟所有目的で賃貸する。現在の地代は年額1,000万円で、Aさんに600万円、弟Bさんに400万円が支払われている。
  • X病院は、賃貸借期間満了後、建物を解体のうえ、更地で返還する。
    なお、甲土地の固定資産税と都市計画税は合わせて年額200万円で、地代の固都税控除後の年間手取額はAさんが480万円、弟Bさんが320万円である。

 

 Aさんは、S市役所を定年退職後、現在は年金で生活しており、地代収入は2人の子へマンション購入資金として贈与した分を除き、貯蓄している。妻と戸建て住宅に居住しており、2人の子は独立し、近隣の分譲マンションに居住している。保有している金融資産は2,000万円である。

 弟Bさんは、大手メーカーを定年退職後、現在は年金で生活しており、地代収入は教養娯楽費等に一部を充てて残りを貯蓄している。妻と戸建て住宅に居住しているが、1人娘の家族と同居するため、全額を弟Bさんが負担して二世帯住宅(予算5,000万円)に建て替える予定である。保有している金融資産は3,000万円である。

 Aさんと弟Bさんは、現在保有している金融資産は減らしたくないと考えている。また、甲土地周辺は、商業施設用地あるいはマンション用地として、250㎡から1,000㎡の整形地は、1㎡当たり25万円程度で売買されている。

 

(FPへの質問事項)

  1. Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。
     ①Aさんから直接聞いて確認する情報
     ②FPであるあなた自身が調べて確認する情報

  2. 当初の病棟所有目的の事業用定期借地権の存続期間が20年と短い理由は何ですか。
  3. Aさん単独で甲土地の事業用定期借地権の再契約をすることはできますか。
  4. あなたはAさんにどのようなアドバイスをしますか。
  5. 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。

 

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年9月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
 ①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?

①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
Aさんの健康状態や今後のライフプラン。
ご家族の意向。
弟Bさんとの関係は良好か。
資産状況や相続税対策は検討しているか。

②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?

②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
 土地・道路や交通量などの物理的状況を、実際に現地で確認すること。

⑵権利関係として
 法務局で登記事項証明書や公図を請求し、土地の権利状況等を確認すること。

⑶法令上の制限として
 自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。

⑷市場調査として
 金融機関の融資条件を確認すること。
 X病院の経営状況。
 甲土地の需要や取引相場を、地元の不動産業者等で確認します。


当初の病棟所有目的の事業用定期借地権の存続期間が20年と短い理由は何ですか?

期間が20年と短い理由として考えられるのは、Aさんの父親が契約した2005年当時は、事業用定期借地権の期間は20年が最長だったため当初の存続期間が20年になっているのだと思います。

従来は、存続期間を10年以上20年以下とする事業用借地権を利用するか、あるいは、存続期間を50年以上とする一般借地権を設定しなければなりませんでした。
2008年の借地借家法の改正で、10年以上20年以下から、10年以上50年未満を存続期間とする事業用借地権の設定もできるようになりました。


Aさん単独で甲土地の事業用定期借地権の再契約をすることはできますか?

Aさん単独で甲土地の事業用定期借地権の再契約をすることはできません。

令和3年の民法改正で、賃貸借のうち、一定の期間に満たないケースは共有者の持分の過半数で決定することができるようになりました。

ただし、借地借家法の適用のある賃借権の設定は、約定された期間内での終了が確保されないため、基本的に共有者全員の同意がなければ無効となります。


あなたはAさんにどのようなアドバイスをしますか?

Aさんが弟Bさんの持分を買い取ることを検討するようにアドバイスします。

弟Bさんの意向は、甲土地を売って自宅の建替え費用に充てたいということです。
Aさんが弟Bさんの持分を買い取ることによって、Bさんは自宅の建替え費用が得られます。

Aさんは、現在保有している金融資産は減らしたくないと考えていますが、弟Bさんの持分を買い取る資金をどのように準備したらよいと思いますか?

金融機関からの借入金で準備するとよいと思います。

設例にある借り入れ条件は、1,000万円を20年間借り入れた場合の年間返済額は約64万円です。
地代の固都税控除後の年間手取額は800万円あり、所得税等を控除しても地代だけで8,000万円程度は借入金返済が可能です。

Bさんの持分をいくらで買い取るか正確な金額は分かりませんが、Bさんの自宅の建替え費用分を借り入れたとしても、年間の地代で返済が可能なので、弟Bさんの持分を買い取る資金を金融機関からの借入金で準備して持分を買い取るとよいと思います。

Aさんが弟Bさんの持分を買い取ることによって、他にもメリットがありますか?

Aさんが弟Bさんの持分を買い取ることによって、甲土地はAさんの単独所有となります。

単独所有であれば、不動産を自由に活用や売却することができ、Aさんに相続が発生した際も権利関係が複雑になることを避けられます。


FP業務では、色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
今回のケースで関与する、専門職業家には、どのような方々がいますか?

不動産の取引に関する、課税上の具体的な税務相談は、税理士に、
売買契約等における、宅地建物取引業法に規定する業務については、宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については、司法書士に、
正確な測量と境界の明示、登記については土地家屋調査士に、
測量に基づく適正な不動産価格の算定は不動産鑑定士と連携します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、事業用定期借地権、借地借家法、共有名義の解消に関する設例でした。

共有物の変更・管理に関してですが、以前の民法では、次のルールが定められていました。

  1. ①共有物に変更を加える(農地→宅地など)には、共有者全員の同意を要する(旧民法251)。
  2. 管理に関する事項(使用する共有者の決定など)は、各共有者の持分の過半数で決する(旧民法252本文)。
  3. 保存行為(補修など)は、各共有者が単独ですることができる(旧民法252ただし書)。

このルールが民法改正により、整備され、共有物に変更を加える行為であっても、形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)については、持分の過半数で決定することができるようになりました。

また、短期期賃借権等の設定についてのルールも以下の〔〕内の期間を超えない短期の賃借権等の設定は、持分の過半数で決定することができるになりました。

  1. 樹木の植栽又は伐採を目的とする山林の賃借権等 〔10年〕
  2. ⒈に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 〔5年〕
  3. 建物の賃借権等 〔3年〕
  4. 動産の賃借権等 〔6か月〕

ただし、借地借家法の適用のある賃借権の設定は、約定された期間内での終了が確保されないため、基本的に共有者全員の同意がなければ無効です。

また、一時使用目的や存続期間が3年以内の定期建物賃貸借については、持分の過半数の決定により可能ですが、契約において、更新がないことなど所定の期間内に賃貸借が終了することを明確にする必要があります。

改正内容を整理してFPとしてしっかり説明できた方が良いですね。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Xにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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