2023年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2024年2月18日)過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。

それでは、設例をお読みください。

2023年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 1 (2023年2月18日)

●設 例●
 2023年11月、Aさん(70歳)家族と同居していた母Bさんが病気により死亡した。母Bさんの法定相続人は、Aさん、妹Cさん(67歳)、弟Dさん(65歳)の3人である。Aさんは、四十九日法要を無事に終え、そろそろ相続手続に着手しようと自宅で遺品を整理していたところ、書棚の奥から母Bさんが20年前に作成した自筆証書遺言を発見した。

 Aさんは、妹Cさんと弟Dさんに遺言書が出てきたことを伝えるとともに、遺言書を家庭裁判所に提出して、検認の申立てを行った。後日、Aさんたちは、通知された検認期日に家庭裁判所に集まり、裁判官による遺言書の開封に立ち会ったところ、その遺言の内容は意外なものであった。

 

【母Bさんの相続財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)

預貯金 7,000万円  
米国国債 2,000万円  
自宅
  ①土地(400m²) 8,000万円  
  ②建物(築35年) 500万円  
自用マンション      
  ①土地(持分換算35m²) 1,000万円  
  ②建物(築25年) 2,000万円  
賃貸アパート      
  ①土地(250m²) 4,500万円  
  ②建物(築22年) 2,000万円 (年間家賃収入900万円)
  合計 2億7,000万円  


※自宅には、現在、Aさん家族が暮らしている。
※自用マンションには、現在、弟Dさん家族が暮らしている。

 

【母Bさんが作成した遺言書の内容】

自宅(土地建物)は長女Cに相続させる。
自用マンション(土地建物)は長男Aに相続させる。
賃貸アパート(土地建物)は売却し、その売却資金を長男A、長女C、二男Dに均等に相続させる。
Eさんに預貯金のうち1,000万円を遺贈する。
残りの預貯金等は、長男Aと二男Dに均等に相続させる。

 

 母Bさんが遺言書を作成した20年前、自宅では妹Cさんが母Bさんと同居し、Aさん家族は自用マンションで暮らしていた。また、Eさんは、母Bさんと長く親交のあった知人であるが、2年前に他界している。遺言書は、作成当時の状況を踏まえた分割内容になっており、その後、母Bさんは遺言書を作成したこと自体、忘れていたと思われる。

 Aさんは、検認手続も完了しているため、遺言の内容どおりに分割しなければならないのか、変更が可能であるなら、どのような手続が必要になるのか、知りたいと思っている。また、今後、どのような手順で相続手続を進めていけばよいか、遺産分割の内容によって相続税額が増減することがあるのかについても教えてほしいと思っている。

(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

 

 

検討のポイント
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1 級実技試験(資産相談業務)2024年2月 参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。

 

相談内容として

  • 遺言の内容どおりに分割しなければならないのか。
  • 変更が可能であるなら、どのような手続が必要になるのか。
  • 今後、どのような手順で相続手続を進めていけばよいか。
  • 遺産分割の内容によって相続税額が増減することがあるのか。

問題点は、

  • 相続税が高額になるので相続税の軽減。
  • 納税資金の確保。
  • 円滑な遺産分割を行うための対策が必要です。
 

それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?

遺言書があった場合、遺言の内容どおりに分割しなければなりませんか?

遺言書が存在する場合、その内容のとおりに遺産を分けるのが原則です。
しかし、遺言書があった場合でも、必ず遺言の内容どおりに分割しなければならないわけではなく、すべての相続人や受遺者の合意があれば、遺言とは異なる方法による遺産分割が可能です。

遺言書の内容を変更するには、どのような手続きが必要ですか?

遺言書の内容を変更し遺言と異なる遺産分割協議を行う場合は、遺産分割協議書に相続人全員の署名と実印の捺印が必要になります。

遺言書と異なる遺産分割協議を行う場合の注意点を教えてください。

注意点としては、すべての相続人に遺言書の内容を伝えることです。
遺言書の存在を知らせずに、他の相続人に不利な内容の遺産分割協議を行ってしまうと、その相続人から遺産分割協議の取り消しを主張されることがあります。
また、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者の同意が必要です。

遺言書によって財産を譲り受けるはずの方が、遺言書を作成した方より先に亡くなった場合の取り扱いを説明してください。

遺言書によって財産を譲り受けるはずの方が、遺言書を作成した方より先に亡くなった場合、その部分の遺言は無効になり、先に亡くなった方が譲り受けるはずだった財産は、法定相続の対象になります。

遺言書を隠匿した場合は、どうなりますか?

遺言書を隠匿した場合、隠匿した相続人は相続欠格事由に該当し、相続する権利自体が無くなってしまいます。

今後、どのような手順で相続手続を進めていけばよいですか?

すべての相続人や受遺者の同意が必須となるので、関係する戸籍情報をすべて確認したうえで、相続人全員を確実に把握することが大切です。
相続人同士で決めた遺産分割内容で遺産分割協議書を作成すれば、その通りに相続手続きをすすめることができます。

法定相続情報証明制度とはどういう制度ですか?

相続手続きでは、死亡した方の戸除籍謄本等の束を、相続手続きを取り扱う窓口ごとに提出する必要があります。
法定相続情報証明制度とは、「法定相続情報一覧図」を作成し、戸除籍謄本等の束を登記所に提出すると登記官が認証文付きの「法定相続情報一覧図の写し」を交付します。
交付された「法定相続情報一覧図の写し」は、相続登記の申請手続きや被相続人名義の預金の払い戻し等、様々な相続手続きに利用できるので、戸除籍謄本等の束を何度も提出する必要がなく、相続手続きにかかる相続人・手続きを行う窓口等、双方の負担が軽減されます。


遺産分割の内容によって相続税額が増減することがありますか?

相続税制度の特性から、遺産分割の内容によって 税負担が大きく変わってくることがあります。
相続税は、相続人全員の相続分を足した課税価格から税額を算出して、それを分担するという計算式となっています。そのため、遺産分割の内容によって税負担が異なってくることになります。

相続税の計算方法を説明してください。

相続税の額を計算する際には、まず相続人全員で負担する相続税の総額を計算します。
相続税の総額は、課税対象の財産を法定相続分どおりに分割したものとして各相続人の取得額を計算し、その金額に対して税額を計算します。
その後、相続人ごとに計算した相続税額を合計したものが、全員で負担する相続税の合計額となります。

今回のケースでは、どのような遺産分割の内容で相続税額が増減しますか?

今回のケースでは、Aさんが自宅を相続した場合には、小規模宅地等の特例が適用でき、自宅土地のうち330㎡までは80%評価額を下げて相続税の負担を軽減できます。

一般的には、どのような遺産分割の内容で相続税額が増減しますか?

相続人に配偶者がいれば、配偶者の税額軽減制度を利用することで、取得した財産の額が1億6,000万円か配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い方の金額以内であれば相続税がかからない制度があるため、実際に納税する相続税額に大きく影響します。
他に、相続人が、配偶者や一親等の血族、代襲相続人となった直系卑属(孫、ひ孫など)以外の場合は相続税額の2割加算の対象になります。

遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の課税関係について説明してください。

遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合、遺言書に記載されていた遺産分割の内容ではなく、実際に遺産分割をした内容で相続税を申告します。
贈与税は遺言書の対象者が法定相続人だけの場合は課税されませんが、相続税申告後に再度遺産分割を行う場合、贈与税が課税される可能性があります。


最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。

顧客利益の優先、守秘義務の遵守、顧客に対する説明義務、インフォームドコンセント、コンプライアンスの徹底、FP自身の能力の啓発です。

どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?

今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。

遺産分割の状況によって税負担など様々なパターンが考えられるので、一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回は、遺言書と異なる遺産分割、法定相続情報証明制度、相続税額の軽減に関する設例でした。

円滑な遺産分割を行うために遺言書の作成を提案することが多いのですが、今回は遺言書を作成していたのに、遺言書と異なる遺産分割を行います。

遺言書の作成だけでなく、いろいろなことも想定した提案が必要ですね。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
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