公開日 2022年5月5日 最終更新日 2024年1月9日
合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。
実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。
1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。
そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。
試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。
設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。
それでは、設例をお読みください。
●設 例●
Aさん(70歳)は、電気機械器具製造業を営むX株式会社(非上場会社)の創業社長である。X社は、設立から40年近くが経ち、その技術力は取引先から高く評価され、業績は順調に推移してきた。X社の余剰資金は5億円以上あり、経営は安定している。
Aさんは、昨年体調を崩し、入退院を繰り返したこともあり、専務取締役の長男Cさん(45 歳)に事業を承継し、第一線から退く決意をした。長男Cさんは、昨年、Aさんが不在のときも問題なく経営を代行し、社員からの人望も厚く、後継者として何ら心配していない。ただ、長男CさんにX社株式をどのように移転するのがよいのか悩んでいる。Aさんは、経営者仲間だった知人が、事業承継にあたり、事業承継税制と遺留分に関する民法特例を活用した話を聞き、その仕組みと手続について知りたいと思っている。
Aさんと妻Bさん(70歳)には、長男Cさん以外に2人の子がいる。Aさんは、それぞれに相応の資金援助をすることによって、長男Cさんに事業を承継することについて理解を得たいと考えている。
長女Dさん(40歳)は、会社員の夫と2人の子の4人で借上げ社宅に暮らしており、そろそろ住宅を購入したいと思っているが、今後の教育費の負担を考え、購入をためらっている。Aさんは、所有している賃貸アパートを長女Dさんに譲れば、その家賃収入が助けになるだろうと考えている。勤務医である二男Eさん(36歳)は、妻との2人で賃貸マンションに暮らしているが、まもなく第一子が誕生する予定である。
Aさんは、子3人の仲は悪くないと感じているものの、相続が起こった際に遺産分割でもめることのないように、何らかの準備はしておきたいと思っている。
【Aさんの家族構成】
妻Bさん (70歳):専業主婦。Aさんと自宅で同居している。
長男Cさん(45歳):X社の専務取締役。妻(44歳)と子(16歳)の3人で戸建て住宅(持家)に住んでいる。
長女Dさん(40歳):パート従業員。会社員の夫(40歳)と2人の子(15歳、12歳)の4人で借上げ社宅に住んでいる。
二男Eさん(36歳):勤務医。妻(30歳)との2人で賃貸マンションに住んでいる。まもなく第一子が誕生予定である。
【Aさんの所有財産の概要】(相続税評価額、土地は小規模宅地等の評価減適用前)
1 現預金 : 1億8,000万円 (退職金予定額1億円を含む) 2 X社株式
:
5億円 3 自宅 ①土地(280㎡) : 7,000万円 ②建物(築10年) : 2,000万円 4 X社本社土地(400㎡) : 1億4,000万円 (注) 5 賃貸アパート ①土地(250㎡) : 5,000万円 ②建物(築20年 8室) : 3,000万円 (年間収入約800万円) 合計 : 9億9,000万円 ※Aさんの相続に係る相続税額は、約3億3,000万円(配偶者の税額軽減・小規模宅地等の評価減適用前)と見積もられている。
(注)X社は土地の無償変換に関する届出書をAさんと連名で税務署に提出し、Aさんに通常の地代を支払っている。
【X社の概要】
資本金:2,000万円 会社規模:大会社 従業員数:110人
売上高:30億円 経常利益:3億円 純資産:8億円
株主構成(発行済株式総数4万株):Aさん100%
株式の相続税評価額:類似業種比準価額12,500円/株、純資産価額20,000円/株
※X社株式は譲渡制限株式である。(注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。
検討のポイント
出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について
●設例の顧客の相談内容および問題点として、どのようなことが考えられるか。
●それらの相談内容および問題点を解決するために、どのような提案・方策が考えられるか。
●それらの方策(解決策)のなかで、何を顧客に提案するか。その理由・留意点は何か。
●FPと職業倫理について、どのようなことが考えられるか。
実技試験は口頭試問形式で行われるため模範解答は公表されていません。そのため、審査員の質問や受験者の回答はあくまで個人の見解です。試験問題から予想して質問や回答を掲載していますが、このような質問がない場合や回答している内容が正解とは限りません。
不適切な回答や、より良い回答などございましたらコメント欄、またはTwitterでお知らせください。
○○と申します。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
設例をじっくり読んだと思いますが、Aさんの相談内容と問題点について項目だけで構いませんので全てあげてください。
相談内容として
問題点は、
それでは、今あげた問題点を解決するためにどのような提案・方策が考えられますか?
長男CさんへのX社株式の移転方法は、どのような方策が考えられますか?
長男CさんへのX社株式の移転方法ですが、考えられる方法は、贈与による移転です。
今回のケースでは、相続時精算課税制度による株式移転が考えられます。
相続時精算課税制度について教えてください。
相続時精算課税制度とは、贈与者が、60歳以上の父母または祖父母、受贈者は20歳以上で、贈与者の子や孫などに限られます。
税率は、1人の贈与者につき2,500万円を超える分の贈与は、一律20%の贈与税が課されます。
相続時精算課税を選択した場合には、暦年贈与の控除枠110万円は適用できません。
相続の際は、相続時精算課税により贈与された財産と、他の相続財産との合計額に対して相続税が計算され、贈与された財産は、贈与時よりも値上がりしていても、値下がりしていても、贈与時の価格で評価されます。
今回のケースで相続時精算課税制度による株式移転を行うと、相続発生時に株式評価額が上昇していても、贈与時の価格で評価されるので、相続税負担の軽減効果も期待できます。
事業承継税制特例の、仕組みについて教えてください。
事業承継税制特例とは、先代経営者から事業の承継を受けた後継者が次の後継者に事業承継できた場合には、相続税や贈与税が免除になる制度です。
留意点は、届出書の提出など事務手続きが煩雑になること。
事業継続が困難な場合は、利子税と猶予された税金の支払いが必要になることです。
株式移転前に、配当の引き下げや役員退職金の支給を行い、自社株評価を引き下げる必要があります。
贈与税の納税猶予を受けるための、手続について教えてください。
納税猶予を受けるためには、2024年3月31日までに、特例承継計画を作成し都道府県庁へ提出します。特例措置の場合は、2027年12月31日までに贈与を行い、贈与年の10月15日から翌年1月15日までに申請し、認定書の写しとともに税務署への申告手続きが必要となります。
申告後、都道府県庁へ年次報告書、税務署へ継続届出書をそれぞれ、年1回、5年間提出します。
遺留分に関する民法特例の、仕組みについて教えてください。
遺留分に関する民法特例とは、一定範囲内の親族には遺留分によって、最低限の相続財産が保障されているので、相続人が複数存在する場合には、自社株が分散して経営に関わる意思決定に支障をきたすおそれがあります。
遺留分の民法特例を利用することで除外合意や固定合意を実施できます。
除外合意とは、非上場株式を遺留分の計算から除外できる制度で、固定合意とは遺留分の計算に占める自社株の金額を合意時の価額に固定する制度です。
両合意を併用することで、株価の上昇を心配することなく、後継者が株式を取得できるようになります。
遺留分に関する民法特例の適用を受けるために必要な、手続について教えてください。
遺留分に関する民法特例の適用を受ける手続は、
経営者の推定相続人全員と後継者が合意し、合意書を作成します。
次に、合意をした日から1カ月以内に「遺留分に関する民法の特例に係る確認申請書」に必要書類を添付して、経済産業大臣へ申請します。
申請後に確認書の交付を受け、確認を受けた日から1カ月以内に家庭裁判所に申立てを行い、家庭裁判所の許可を得ます。
長女Dさん、二男Eさんへの資金援助や、遺産分割で揉めることのないようにするためには、どのようなことをアドバイスしますか?
長女Dさんへは、相続時精算課税制度を使った賃貸アパートの贈与、
二男Eさんへは、住宅取得等資金の贈与や、まもなく生まれてくる、第一子への教育資金の一括贈与、
遺産分割で揉めることのないように遺言書の作成をアドバイスします。
長女Dさんへの賃貸アパートの贈与は、どのように提案しますか?
建物のみを贈与するように提案します。
Aさんから長女Dさんに賃貸建物のみを贈与すると、土地の所有者はAさん、建物の所有者は長女Dさんとなり、土地と建物の所有者が異なることになり、使用貸借の形式をとるケースがほとんどです。
使用貸借の場合、Aさんの土地は相続時に「自用地」として更地扱いで評価されることになります。
もし、Aさんが賃貸建物も土地も両方所有したまま相続が発生した場合には、通常「貸家建付地」としておおむね20%前後の評価減ができたはずですが、建物贈与後は所有者が異なるため原則としてこの取り扱いができなくなり、Aさんの土地評価額が増加してしまいます。
小規模宅地の特例なども検討し、家賃収入が相続税額の増加を抑えられるか、相続よりも贈与を選択した方がいいのか専門家と連携しアドバイスします。
遺言書の種類や留意点について教えてください。
遺言書を作成する場合、相続人が争うことのないように遺留分に考慮して作成することが望ましいです。
遺言の種類には普通方式として「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、一般的には公正証書遺言、自筆証書遺言で作成されます。
自筆証書遺言保管制度について教えてください。
自筆証書遺言を法務局に保管できる制度で、保管されている遺言書は家庭裁判所の検認が不要になり相続人等の中で誰か一人でも遺言書情報証明書の交付を受けたり、遺言書の閲覧をした場合には、その他の全ての相続人等に対して遺言書が保管されている旨の通知が届きます。
しかし、証人がいないので自筆証書遺言の内容の有効性が争われたり、代理人では保管の申請はできず必ず本人が法務局に出向く必要があるので注意が必要です。
⒋ 最後に、FPが守るべき職業倫理を6つあげてください。
⑴顧客利益の優先、⑵守秘義務の遵守、⑶顧客に対する説明義務、⑷インフォームドコンセント、⑸コンプライアンスの徹底、⑹FP自身の能力の啓発です。
どれもFPにとっては大事なことだと思いますが、今回のケースでは特にどれを重視しますか?
今回のケースでは、インフォームドコンセントを重視します。
Aさんは、昨年体調を崩し、入退院を繰り返されています。
今回のケースでは、事業承継税制をはじめ、さまざまな制度を提案することになります。
一つ一つ制度の内容や適用効果を説明することだけでなく、ご家族と一緒に理解状況を確認しながら、寄り添ったわかりやすく丁寧な説明を行い、必ず同意を得て提案することを重視します。
質問は以上です。お疲れさまでした。
ありがとうございました。失礼いたします。
今回は、事業承継税制特例に関する設例でした。
事業承継税制特例の場合、「特例と一般の違い」や「事業承継税制特例のメリットデメリット」、「先代経営者や、後継者の要件」はメモをしておくと安心です。
事業承継税制特例の場合、遺留分に関する民法特例や遺言書の種類などは、続けて質問される場合が多いので、セットで覚えてしまいましょう。
FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読み、お客様に説明するように話してみるといいと思います。
最後まで諦めずに実力を発揮できるように頑張りましょう!
ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。