2021年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part2 (2022年2月12日) 過去問解説

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きんざいが制作していたFP受検対策に関する書籍は、今後制作・販売されません。

そこで、僕が実技試験対策本のKindle版セット版を制作しました。

公開日 2022年4月29日 最終更新日 2024年1月12日

合格率1割の難関試験、FP1級学科試験。しかし、学科試験を合格しただけではFP1級技能士の称号は与えられません。
FP1級技能士としての資質が審査される。FP1級実技試験が待っています。

実技試験は学科試験と違い合格率8割以上です。だからといって油断していると足をすくわれます。
合格率1割の難関試験突破者が2割も落ちているんですよ。

1級学科の勉強を始める時に、2級や3級の問題集やテキストは本屋さんにたくさん置いてあるのに1級の本はほとんど置いてなく注文して購入した方も多いのではないでしょうか。
FP1級実技試験は学科試験以上に情報量が少なく、テキストも「きんざいの実技試験対策問題集」ほぼ一択です。

そんな、謎多きFP1級実技試験の過去問を解説します。

動画はこちら

試験当日の標準的なスケジュールは以下の通りです。

  1. 控室で待機(待機中は紙媒体の参考書等は見ることができます。電子機器は使えません)
  2. 設例を読む机に移動(約15分間設例を読みます。設例にメモやマーカで印をつけます)
  3. 面接試験室へ移動(心の準備ができたらノックして入室。約12分の口頭試問試験が始まります)
  4. 面接終了後、控室へ移動(次の試験まで待機)

設例を読むところから試験は始まっています。設例を読み理解することもトレーニングだと思って、タイマーを15分間セットしてメモをとりながら読んでみてください。


それでは、設例をお読みください。

2021年度 第3回 ファイナンシャル・プランニング技能検定 1級実技試験 Part 2 (2022年2月12日)

●設 例●
 Aさん(62歳)は、大都市圏近郊のS市内にある自宅に妻Bさん(60歳)と母親Cさん(84歳)との3人で暮らしている。Aさん夫妻には2人の子がおり、いずれも県外の都市部で家族とともに暮らしている。Aさんの家は代々農家であったが、1人息子であるAさんは家業を継がず、S市役所に勤務し、2年前に定年退職した。

 Aさんの父親は15年前に病気により他界し、父親が所有していた農地については母親Cさんが相続した。その後、母親Cさんは、相続した農地を自宅周辺の畑を残してすべて処分し、その売却代金の一部である2,000万円をAさんに贈与した。その際、Aさんは相続時精算課税の適用を受けている。

 また、2013年5月から、母親Cさんが所有する畑の一部(甲土地、1,200m²)を隣接する乙土地、丙土地、丁土地のそれぞれの所有者と共同して、大手石油会社の関連会社X社にコンビニとガソリンスタンドの用地(4,500m²)として事業用定期借地権方式で賃貸している。

 

【X社との賃貸条件】

  • 対象土地:甲土地(畑から宅地に地目変更、所有者は母親Cさん)
  • 目 的:店舗(コンビニ)、ガソリンスタンド(地下タンク埋設)の用地
  • 方 式:期間20年(2013年5月から2033年4月まで)の事業用定期借地契約
  • 地 代:月額43万5,000円
  • 敷 金:500万円(期間満了時に全額返還、利息なし)

 

 Aさんは、母親Cさんは現在、健康面で心配はないものの、高齢であることから、将来の相続のことを考えれば、年々増加する母親Cさんの金融資産を抑制したほうがよいのではないかと思い、甲土地から得られる今後の地代収入をAさんの収入になるように変更したいと考えている。この変更については母親Cさんも納得し、協力的である。


 Aさんは、変更方法として下記のI案(贈与)とII案(使用貸借)を思い付き、母親Cさんと借地人X社に相談したところ、両者からいずれの案でも応ずる旨の返答を得ている。

 

I案(贈与)

  • Aさんが母親Cさんから甲土地の贈与を受ける。敷金は引き継がない。
  • 贈与については、通常の贈与に比べて軽減された税率(特例税率)が適用される直系尊属からの贈与(特例贈与財産の贈与)にしたいと考えている。

 

II案(使用貸借)

  • Aさんが母親Cさんから甲土地を使用貸借で借り受け、X社に転貸する。
  • 甲土地の固定資産税相当額は地代としてAさんが負担するつもりである。

 

Aさんは、I案とII案のどちらがより望ましいか、FPであるあなたに相談にきた。

 

 

 

(FPへの質問事項)

  1. Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか。以下の①および②に整理して説明してください。

     ①Aさんから直接聞いて確認する情報
     ②FPであるあなた自身が調べて確認する情報

  2. 甲土地の地代収入の受取人をAさんに変更する方法として挙げられたI案とII案のそれぞれの特徴(利点や留意点)を教えてください。

  3. I案、II案それぞれの課税関係について教えてください。

  4. Aさんの意向を踏まえて、Aさんにどのようなアドバイスをしますか。

  5. 本事案に関与する専門職業家にはどのような方々がいますか。

    (注)設例に関し、詳細な計算を行う必要はない。

出典:一般社団法人金融財政事情研究会 1級学科試験、1級実技試験(個人資産相談業務) なお、当サイトの管理人は一般社団法人金融財政事情研究会のファイナンシャル・プランニング技能士センター会員のため許諾申請の必要なく試験問題を利用しています。参考:技能検定試験問題の使用について

○○と申します。よろしくお願いします。

 

よろしくお願いします。

  1. Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
    ①Aさんから直接聞いて確認する情報は、どのようなことですか?
 

①Aさんから直接聞いて確認する情報は、
⑴本人しか知らないこと。トラブルの理由、関係者の意向として
 不動産の取得費や取得日がわかる契約書等の資料があるかどうか。
 母親Cさんの資産状況や増加割合、判断能力の確認。
 今後のライフプランなどを確認します。

 
  1. Aさんに対して、最適なアドバイスをするためには、示された情報のほかに、どのような情報が必要ですか?
     ②FPであるあなた自身が調べて確認する情報は、どのようなことですか?
 

②FP自身が調べて確認する情報は、
⑴現地確認として(外観、近隣状況、住人)
 土地・道路や交通量などの物理的状況を実際に現地で確認すること。

⑵権利関係として
 法務局で登記事項証明書や公図を請求し物件の権利状況等を確認すること。

⑶法令上の制限として
 自治体の都市計画課等で、用途地域・都市計画等を確認し、今後の開発予定や周辺環境の変化などを把握すること。


 
  1. 甲土地の地代収入の受取人をAさんに変更する方法として挙げられたI案とII案のそれぞれの特徴(利点や留意点)を教えてください。

Ⅰ案のメリットは、甲土地を贈与することにより、X社との定期借地契約をAさんに引き継ぐことができるので、母親Cさんの金融資産増加を抑制することができます。

留意点は、敷金を引き継がない場合でも、Aさんが敷金を返還する債務を負うことになり、負担付贈与になります。
負担付贈与があった場合の贈与は、贈与を受けた財産の価額から、負担する債務の額を差し引いた金額が、贈与を受けた金額となります。
ただし、この場合の財産の評価額は、相続税評価額ではなく、時価によるので注意が必要です。

Ⅱ案のメリットは、特別な手続きは不要で甲土地の地代収入の受取人をAさんに変更できることです。
不動産の貸し借りには賃貸借契約書などの書類が必要となりますが、使用貸借の場合は契約書が存在せず、口約束で行われることがほとんどです。契約は法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成をしなくても成り立ちます

留意点は、使用貸借の場合、不動産所得は、土地の所有者が申告しなければならないので、今回のケースで甲土地の地代収入の受取人をAさんに変更すると、土地の所有者である母親Cさんから、Aさんへの贈与とみなされる可能性があります。


 
  1. I案、II案それぞれの課税関係について教えてください。
 
  1. Ⅰ案でAさんは、贈与については、通常の贈与に比べて軽減された税率(特例税率)が適用される直系尊属からの贈与(特例贈与財産の贈与)にしたいと考えてますが可能ですか?

特例贈与財産の贈与にすることはできません。
相続時精算課税制度ですが、一度でもこの特例適用を選択すると暦年贈与は、使えなくなってしまいます。
Aさんは、母親Cさんから2,000万円を贈与された際、Aさんは相続時精算課税の適用を受けているので、税率は2,500万円を超える分は一律20%になります。

 
  1. Ⅱ案の場合はどうですか?

II案も、賃貸収入が、土地の所有者である母親Cさんから、Aさんへの贈与とみなされた場合、Aさんは相続時精算課税の適用を受けているので、税率は2,500万円を超える分は一律20%になります。


 
  1. Aさんの意向を踏まえて、Aさんにどのようなアドバイスをしますか
    Ⅰ案と、Ⅱ案のどちらを提案しますか?

Ⅰ案とⅡ案であれば、Ⅰ案を提案します。

Aさんの意向は、相続のことを考え、母親Cさんの金融資産を抑制し、甲土地から得られる今後の地代収入をAさんの収入になるように変更したいということです。

Ⅰ案の場合は、甲土地の贈与により、X社との定期借地契約をAさんに引き継ぐことができるので、母親Cさんの金融資産増加を抑制することができ、Aさんには地代収入が入るので納税資金の確保もできます。

負担付贈与を回避するためには、敷金相当額の現金を同時に贈与して実質的に負担額をなくすことで、負担付贈与としての取扱いを回避することができます。

相続時精算課税を適用して贈与を受けた財産は、小規模宅地等の特例の適用対象にすることができません。
専門家と連携して、現状のまま母親Cさんに相続が発生した場合の相続税額を見積もり、他の相続対策も検討した上で実行するようにアドバイスします。


 
  1. FP業務では色々な専門職業家と連携することもあると思いますが、
    今回のケースで関与する専門職業家はどのような方々がいますか。
 

不動産の取引に関する課税上の具体的な税務相談は税理士に、
売買契約等における宅地建物取引業法に規定する業務については宅地建物取引士に、
土地の所有権移転登記については司法書士と連携します。

質問は以上です。お疲れさまでした。

ありがとうございました。失礼いたします。


今回の設例も、用紙いっぱいに設例が書いてあり、メモをとるのも大変な設例でした。

Part2の問題でも、相続に関する質問があります。

相続対策に有効な土地活用や、相続時精算課税制度などは頻出です。

FP1級実技試験の難しさは「自分の言葉で相手に伝える」ことだと思います。何度も声に出して読んだり、二人で読み合わせをするなど、お客様に説明するように話してみるのも効果的です。

最後まで諦めずに、FP1級学科試験合格者としての実力を発揮できるように頑張りましょう!

ご質問やご意見、間違っている箇所等ございましたら、コメント欄、お問い合わせページ、Twitterにてお知らせください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。この記事が、FP1級技能士試験のご参考になれば幸いです。

    Profile  

manabu

   

FP1級技能士、AFP、J-FLEC認定アドバイザー。
日本FP協会 CFP30周年記念プロモーション動画コンテスト 最優秀賞受賞
DTP・Webデザイナー・コンサルタントとして開業や副業のコンサルティング、FP試験のサポートを行っています。
詳しくはこちらをご覧ください

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